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第402話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》11

「い、いいえわたくしは……天恵武姫(ハイラル・メナス)に見合う物品を献上するあてなどございませんし……」

「いやそれはタダでいいよ~? 取引で天恵武姫(ハイラル・メナス)を下賜するわけじゃないし、これほどの好適性の持ち主は見た事ないからさ~? どうなるか見てみたいんだよねぇ~? お礼は時々データ取りさせてくれるだけでいいからさぁ? お願いだよ~? ずっと今の若くて可愛いままでいられるよ~。身体能力が上がって、戦いにも強くなるし~? ね、ね?」


 ヴィルキン第一博士は引き下がらない。


「お、お話は伺いましたが、即断即決できるような話ではございませんわ……申し訳ありませんが……」


 リーゼロッテは救いを求めるように、エリスのほうを振り返りながら言う。


天上人(ハイランダー)の方と違って、地上の人間は生まれ持った自分の体を変える事には慣れていません。いくら確実に成功するとはいえ、これまでの家族や友人との関係も、これからの未来の生き方も、大幅に変えてしまう事です。その上で彼女がそれを望むなら止めはしませんが、考える時間は与えて下さい」


 エリスがリーゼロッテとヴィルキン第一博士の間に入り、そう申し出る。


「そっかぁ~。う~ん仕方ないな~。でも気が向いたら僕に言ってね~?」


 非常に残念そうなヴィルキン第一博士。


「エリス様……ありがとうございます」

「いいえ、気にしないで」


 エリスは少し目を細めて微笑む。大人の女性の母性のようなものを感じる。

 口では色々と言うし少々不愛想でもあるが、エリスは優しいのだ。


「…………」


 それを見て、少々反省する。

 リーゼロッテが天恵武姫(ハイラル・メナス)になってくれたら、また訓練が充実するなあと考えた自分を。

 安全にすぐになれそうと聞き、少し喜んでしまっていた。


「どうしたの、クリス?」


 ラフィニアがイングリスの顔を覗き込む。


「い、いや……! 何でもないよ?」

「ほんと~? クリスの事だから、リーゼロッテに天恵武姫(ハイラル・メナス)になって欲しいって思ってたんでしょ……!? また訓練が楽しくなるなぁとか言って……あたし分かってるんだから……!」

「いやいやいや、ちょっとだけ思ったかも知れないけど、ヴィルキン博士みたいにデリカシーも何も無視してはしゃいでないし、そんなに悪い事はしてないと思う……!」

「まあそれはそうだけど……! あれはちょっとアレね、イーベルと同じで嫌な奴と思いきや、実はいい人……と思わせておいてやっぱり嫌な奴かもって思っちゃったわ……」

「しー……っ! 聞こえるよ、ラニ……!」

「先に言い出したのはクリスじゃない……!」

「やれやれ、困っちゃったな~。異文化交流って難しいよね~」


 まるで困ったようには見えない表情で、ヴィルキン第一博士は後ろ頭を掻いている。


「と、ともあれ……自分の適性が知れたというのは、貴重な情報でした。いずれ本当にそれが必要と判断する時が来たら、博士の下をお訪ねいたしますわ。その時はよろしくお願いいたします」


 リーゼロッテはヴィルキン第一博士に丁寧にお辞儀する。


「うんうん。待ってるよ~」


 そう言った後、ヴィルキン第一博士はエリスに視線を向ける。

 その手元に、エリスの調査を終えた球体が近づいて行く。


「じゃあ、話を本題に戻そうか~? 天恵武姫(ハイラル・メナス)の君……ええと、エリス君……だね~? 相当古い天恵武姫(ハイラル・メナス)だ。殆ど初期型だよねぇ~? おかげでデータサーチにちょっと手間取ったけど……まだ適性検査も完全に確立出来てない時代だよ~。僕が君の顔、知らないわけだよ~。僕ですら生まれる前の話だもの」

「そうですね……私の時は、適性レベルがどうなんて言う話は無かったわ」

「だろうね~。そこ開発したの僕だし~?」

「興味深い話ですね……! それはどのくらい前の話なのですか?」

「四、五百年前…天地戦争の頃じゃないかな~?」


 天地戦争。聞いた事のない言葉だ。

 イングリス王が転生して、現代のイングリス・ユークスとして再び生を受ける前に、そう呼ばれる出来事があった、と。

 そしてエリスは元々その頃の人間だったという事だろうか。


「ええぇっ!? じゃあエリスさんって少なくとも四百歳以上って事ですか……!?」


 ラフィニアが吃驚して声を上げる。


「と、とてもそうには見えないけれど……こんなに綺麗だし……」

天恵武姫(ハイラル・メナス)になるのも悪くありませんわね……」

「私も今初めて聞いたけれど……ね。そんなにも時間が経ってしまっていたのね……道理で何もかも変わってしまっていたわけだわ」


 エリスは遠い目をして、少々上を見上げる。

 その気持ちは、イングリスにも分からなくはない。

 女神アリスティアの奇蹟により生まれ変わってみた世界は、何もかもが変わっており、イングリス王の頃の名残は何も無かった。

 その事に物寂しさを感じてしまう、というのはエリスと同じだろう。


 だがイングリスには前世と変わらず神騎士(ディバインナイト)霊素(エーテル)を操る力があった。

 それ以外の事は何もかも変わってしまっていたが、前世には無かった暖かい家族があり、何より孫のように可愛く目に入れても痛くないラフィニアが一緒にいてくれた。


 転生して今度は己自身の武を極めたい、という願いを突き詰めていくには十分な環境である。自分はイングリス・ユークスとしての人生を心から楽しんでいる。それは間違いない。


 だが、エリスはどうなのだろう。

 どういう経緯かは分からないが、天恵武姫(ハイラル・メナス)化の処置を受け、その長い時間の後に何もかもが変わってしまった地上に降り立って、天恵武姫(ハイラル・メナス)として地上の人々の守り神として働いて――

 今エリスにとって世界はどのように見え、何を思うのだろうか。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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