第401話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》10
魔印は最初の洗礼で刻まれたものが絶対ではなく、後天的により強力なものに進化する事もある。
ラティの兄であるアルカードのウィンゼル王子がそうだと聞いた。
だからあり得ない話ではないが、こうして目の当たりにするのははじめてだ。
「し、信じられない……私が特級印だなんて……」
レオーネは呆気に取られて、自分の右手の甲の特級印を見つめている。
「おめでとう、レオーネ。よかったね?」
ラフィニア、レオーネ、リーゼロッテの中で一番訓練に精力的なのはレオーネなので、そうなるのも自然なのかも知れない。
普段からよく訓練し、騎士アカデミーに入学して以来様々な戦いも潜り抜けている。
それらの経験が、レオーネの力を着実に伸ばしてくれたのだ。
「イングリス……え、ええ……! ありがとう!」
「今度、魔印武具を山盛りいっぱい使って模擬戦しようね? いい訓練になりそうだなあ……」
イングリスはわくわくとした笑顔を浮かべる。
普段からよく一緒に訓練しているレオーネが特級印を身に着けてくれたことは、実に喜ばしい。
レオーネと共にする訓練の強度や質もより高まるというものだ。
「お、お手柔らかにね……? 特級印になったからって、急に強くなったような感じはしないし……」
「そりゃあ、そうだろうね~? 別に力が強くなるように改造したわけじゃあないし~? あくまで魔印との齟齬を検出して、適正なものを刻み直しただけだからね~?」
「あ、ありがとうございます……! ヴィルキン博士……!」
レオーネは深々とヴィルキン第一博士に頭を下げる。
「いやいや~せっかく来たお客さんにサービスだよ~」
「あたしからもお礼を言います! その顔にいい思い出がないから疑ってたけど、実はいい人なんですねっ!?」
「ははは、同じ上級魔導体を使ってても、重要なのは人格であり魂さ~。まあ、地上のお客さんに嫌われずに済んだのはよかったかな~? 風評被害だからね~」
ヴィルキン第一博士はにこにことしている。
「よかったわね、レオーネ! おめでとう!」
「わたくし達の同学年には特級印の持ち主はおりませんでしたし、皆の代表ですわ!」
「で、でも実力的にはイングリスのほうが……」
「わたしは従騎士科だし、そういうのはレオーネのほうが相応しいと思うよ?」
特級印を持つ聖騎士、というほうが、分かりやすいのは確かである。
イングリスを外から称すると、無印者だが強い、分からないが強い、になってしまう。
甦った氷漬けの虹の王との戦いでは、諸事情から表に出て名を売る事になってしまったが、これからは別の虹の王が現れたとしても、レオーネが倒した事にしてもらうという技も使えるだろう。
下手に分かりやすく手柄を挙げると、お見合いが殺到したりして大変である。
今回は王家からの通達で無かった事にしてもらったが、状況が落ち着けば同じ事が繰り返されるかもしれない。
これを無くすためには、新しい大事件を新しい手柄で上書きしておきたい所だ。
そうすれば前に起きた事は過去のものとなり、注目はそちらに向かう。
例えば別の虹の王が現れて国が大混乱に陥り、それを倒したのがイングリスやラフィニアでなければ、それでいいだろう。
「……まあまあ、あたしは純粋にレオーネが凄くなるの、嬉しいわよ? 無茶はしないで欲しいけど!」
「そういう事ですわ。わたくしも追いつけるように頑張りたいと、励みになりますもの」
「……ありがとう、みんな……! 恥ずかしくないように、これからも頑張るわ」
レオーネは生真面目に表情を引き締めて頷く。
「ねえねえ、リーゼロッテもひょっとして特級印になれちゃったりするんじゃない!?」
「自信はありませんが、調べては頂きたいですわ……!」
リーゼロッテも目を輝かせる。
「もちろんさ~。じゃあ次は君ね~」
「はい……!」
リーゼロッテが近くにやってきた球体に手を触れる。
ピロンピロンピロンピロン!
今度は警報とは響きの違う別の音がした。
「……!? な、何ですの……?」
「また故障ぅ?」
『重要情報! 重要情報! 適性レベルSSの被検体を発見! 直ちに捕獲、天恵武姫化処置の開始を推奨! 自動捕獲まで10、9、8、7……』
球体が激しく明滅し、リーゼロッテの近くを回り始める。
「えっ……え……!? ど、どういう事ですの……!? 直ちに天恵武姫化って……!?」
「おおおぉぉ~すごいねえ~。適性レベルSSって、僕見た事ないな~♪」
ヴィルキン第一博士が嬉しそうに声を上げる。
「じ、自動捕獲がどうとかって言ってますけど……!?」
ラフィニアの言う通り、このままではリーゼロッテが強制的に捕獲されてしまうという事だろうか。
「止めて下さい……! さもないと……!」
エリスが鋭く警告する。
「うんわかってるよ~。強制捕獲も自動実行もなしなし~! 相手はお客さんなんだからね~」
そうヴィルキン第一博士が指示すると、球体は点滅を止めて静かになった。
相手がお客さんだとヴィルキン第一博士は言うが、そうでない者ならば強制的に捕獲されて天恵武姫化されてしまうのだろうか?
客人以外となると、人狩りされて来た者や、あるいは食物などの物品の代わりに献上された人間達か――それを多数集めて一斉に適性を検査、という事は普通に行われているのかも知れない。
確かにセオドア特使は地上に対して友好的だが、国の全てに目が届くわけでもない。
また、このイルミナスと関わりがあるのが、カーラリアだけとも限らない。
そういう事は当たり前の事として行われているのだ、という事をヴィルキン第一博士の言葉は示唆しているだろう。
「ああ、びっくりしましたわ……」
リーゼロッテがふうと大きく息を吐く。
「で、どうするどうする? 聞いた通り君、すっっっっっごい才能あるよ~? 適性レベルSSだから~、処置なんて下手すれば半日……いや一瞬で終わるし、成功確率も間違いなく120%~! 絶対成功は保証するからなってみな~い? 天恵武姫!」
ヴィルキン第一博士は目をキラキラさせながら、リーゼロッテに詰め寄る。
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