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第397話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》6

 イングリス達は再びヴィルマの飛空戦艦に戻り、船ごと天上領(ハイランド)へと入港した。

 飛空戦艦のドックは地下部分にあり、騎士アカデミーが所有するボルト湖畔の機甲鳥(フライギア)ドックなどとは規模も技術力も比較にならない様相である。


 自分達の乗って来た飛空戦艦の他にも何隻もの戦艦が係留されており、それらが居並ぶ様は壮観の一言。

 数で言えば数十になるだろうか。

 カーラリアのそれはセオドア特使が貸与してしてくれた聖騎士団のものと、ヴェネフィク軍から鹵獲して封魔騎士団の旗艦となるものの二隻だけである。

 それぞれの艦の人員は比較的少人数で運用している様子だが、それでも地上では大国と言われるカーラリアと比較しても、圧倒的な戦力差である。


 さらに何か見た事のない装置がいくつも空中を飛び交って、資材その他を運搬しているのが目に入る。

 それを受け取った無人の機械の手が、戦艦を補修したり、新たなものを組み上げたりという作業があちこちで行われていた。

 無論こんなものは地上には存在してない。


「す、すごーい……何これ……勝手に台車が飛び回って物を運んでるの……?」

「それに、あっちの鉄の手は……勝手に動いて戦艦を組み立てているみたいよ……?」

「こ、高度過ぎて何が何だか……やはり、地上とは何もかもが違うのですわね……」


 ラフィニアもレオーネもリーゼロッテも、周囲をキョロキョロと見渡して呆気に取られている。


「見事なものだ……」


 イングリスもそう呟いていた。

 複雑怪奇な魔素(マナ)の動きを、そこら中の設備や部品から感じる。

 根本は魔術的な現象でこれらの設備を制御しているのだろうが、とてもではないが解析できない。

 魔素(マナ)を源に自動的に制御される装置。

 即ちこれも恐ろしく高度で緻密な魔印武具(アーティファクト)だと見做す事もできるだろう。


「……圧倒的ね」


 エリスもあまりここをまじまじと見た事はないのか、呆気に取られている様子だ。


「驚くのも無理はない。我がイルミナス本島の大工廠は、全天上領(ハイランド)の中でも随一。他に並ぶものはあるまい。さあ、こちらだ」


 ヴィルマはイングリス達を促し、飛空戦艦が係留された桟橋に架かる橋を降りて行く。


「さすが、技公様の本拠島というわけですか……」


 その背中を追って歩きつつ、イングリスは問いかける。


「武公様や法公様の元へも、ここで製造した兵器をお届けしている。三大公派は持ちつ持たれつだ」

「あまり人はいないようですが……? 殆ど無人なのですか?」

「今は非常事態だ。本島が海に落ちたのだからな、皆混乱を収めるために出払っているのだろう。街に被害が出ていれば、救助も行わねばならん」

「なるほど……」

「じゃああたし達だけで降りるんじゃなく、他の兵士の皆さんも一緒に行った方がいいんじゃ……?」

「それは、どこにいる?」


 ヴィルマがラフィニアの言葉に、後ろを振り返る。

 先程まで甲板にもヴィルマの配下の兵士たちがいたはずだが、その姿が消えていた。


「あれ……?」

「彼等は既に戻った」

「戻った? どこに……?」

「疑似生命用の素体プール……だな。あの戦艦を運航する事のみを目的に生み出されたため、他の事は出来ん」

「……!? に、人間じゃなかったんですか、あの人達……!?」

「ああ。そういう事だ」

「そ、そんな風には見えなかったわね……無口な人達だなあとは思ったけど……」

「し、信じられない技術力ですわね……」

「ほ、本当ね。何もかもが……」


 またラフィニア達が呆気に取られている。


「人語を解する、恐ろしく高度なゴーレム……と言った所ですか?」

「そう思ってくれればいいと思う」

「なるほど……」


 イングリスの前世の記憶を辿る限り、ゴーレムとはその材質に非常に左右されるもの。

 生み出されたゴーレムが、一見人と区別がつかないという事。

 それはつまり、その材質は――これ以上は考えない方がいいだろう。


「私にも技術的な詳細は分からん。私は一騎士に過ぎん」


 恐らく、ヴィルマは天上人(ハイランダー)になったラーアルやファルスの親子と同格程度、という位置付けだろうか。

 ただ戦艦を任されセオドア特使の用命への使者となっているくらいだから、同じ騎士の中でも、上位の立場である気はするが。

 ヴィルマは三大公の技公の配下の騎士で、ラーアルやファルスは教主連側なので、そのあたりでも違いは出てくるだろうが。


「よし……止まってくれ」


 ヴィルマが足を止めたのは、大工廠の巨大な空間から別の場所に続く通路の一つだ。


「光る壁……結界ですか?」


 強力な魔素(マナ)の流れを感じる。

 人の気配はないが、魔術が発動しているという事に等しいだろう。


「ああ。こういったものには下手に触れるなよ。通行許可のない者は迎撃されるようになっている」


 ヴィルマはそう言って、結界の壁の前に立つ。


「……管理権限。資格の無い四名の通行を一時的に許可」


 ヴィルマの額の聖痕に向かって、壁から一条の光が差す。

 それにより、壁が消えて通れるようになった。


「行くぞ。私から離れるなよ。あまり離れると結界が作動するぞ」

「……すごい技術ですね」


 魔術や魔印武具(アーティファクト)奇蹟(ギフト)というものは、それを発動する使用者がいて、はじめて発動するものだ。

 これは聖痕の有無を判別して、一時的に結界を解除したりという複雑な制御が可能なうえ、無人なのである。

 人の意思を介在せねば出来ないような複雑な制御が、自動化されているのだ。


「この壁の部分が魔印武具(アーティファクト)のようなものとして、では魔術的現象の源である魔素(マナ)はどこから……? それに、ヴィルマさんの聖痕を判別したり例外を許可する判定はどうやって……?」


 とても興味深い。この光る壁を調べているだけで、一日潰せてしまいそうだ。

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