第394話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》3
「エリス様、天上領のほうからも何か出てきます!」
レオーネの言う通り、天上領の側から飛び立つ影があった。
「あれって……! 竜さん!?」
ラフィニアの言う竜さんは神竜フフェイルベインの事を指すが、それとは違うものの確かに竜だ。それも生身の竜ではなく、体のあちこちが機甲鳥や機甲親鳥のように機械化された姿だった。
「おおぉぉぉ……! あれは……機神竜でしょうか……!?」
フフェイルベインが機神竜と化し、大戦将のイーベルに連れ去られた際は、そのまま天上領に帰ってしまい戦いそびれた。
ここでそれと戦えるならば願ったりだ。
これは、フフェイルベインのそれよりもかなり小柄ではあるが、数は複数いて相手にとって不足はない。
「違うわ。あれは機竜……! 天上領の防衛兵器よ……! 生きた竜を改造した、ね」
「機神竜の子供のようなものでしょうか?」
要は神竜を素体にすれば機神竜だし、そうでない普通の竜を素体にすれば機竜になる、という事だろうか。
「ええ、そうかも知れないわね。私は機神竜なんて見た事はないけれど……」
「機竜達は魔石獣の迎撃に出て来た、という事でしょうね」
「そうね。状況から考えて、そうでしょうね」
「それは勿体ない……! もとい、機竜の部隊の損傷を抑えるために協力しましょう!」
「クリスは自分が戦いたいだけよね……!」
「ジル様と戦った後から、暫く実戦が出来てないし……!」
その分先程のように訓練には入念に励んでいたが、やはり実戦に勝る修行は無いのである。
こうしている間にも、武公ジルドグリーヴァも鍛錬に励んでいるに違いない。
いつか再戦する時に水を開けられていないように、こちらも少しでも成長の機会を突き詰めていかなければならない。
目指すものは天恵武姫を使って勝つのではなく、自分自身の独力で勝つことだ。
目標は常に高く、自分自身で真霊素の扉を開くのだ。
「止めはしないけれど、勢い余って機竜を破壊してはダメよ? 問題になりかねないわ」
エリスがイングリスに向けて言う。
「この位置関係だと、丁度お互いがぶつかった所に割り込む事になりそうね!」
「機竜からの攻撃に、巻き込まれなければよいのですが……!」
「大丈夫だよ、レオーネ、リーゼロッテ。その前に追いつくから……!」
「……! クリス、加速モード!?」
星のお姫様号には、通常より圧倒的に速くなる加速モードが搭載されている。それ程長時間持続するものではないが。
ラフィニアはそれを発動するかを聞いている。
「ううん、ラニ。それは一回使ったら暫く使えないから……温存で!」
いざという時のために、切り札は取っておいた方がいい。
ここは試したい事もあるし、自力で行く……!
イングリスは機甲鳥の船首に飛び上がり、意識を集中する。
「竜理力……!」
両腕を体の前で交差するようにし、指先を両肩に触れる。
そこを起点に、両腕から胸、腰から脚部へと、指先の動きに竜理力を完全に重ねつつ、自らの体の上を滑らせていく。
同時に霊素から落とした魔素も制御し、全身を覆う。
氷の剣を生み出す魔術の、氷を実体化する魔術的現象を応用し、鎧の形状とする。
この鎧の形状にする魔素の流れは、カーリアス国王が佩剣として所有していた魔印武具、神竜の爪の働きを観察し、模倣したものだ。
上級魔印武具を超えた、超上級とも言える魔印武具であり、ラファエルに授けられた神竜の牙と対を為す存在だ。
その魔素の動きが竜理力と完全に重なる事により、変異を起こす。
魔素と竜理力との融合、竜魔術だ。
そして単なる魔術の氷ではない、神竜の爪が展開する鎧に似た蒼く輝く装甲を生むのだ。
グオオオォォォ……ッ!
竜理力を濃く内包した蒼い鎧は、具現化すると大きく竜の咆哮を上げる。
「蒼い竜の鎧……!?」
「イングリスさん、な、何ですのそれは……!?」
レオーネとリーゼロッテが驚きの声を上げる。
「竜理力の応用でね。竜魔術……かな? ロシュフォール先生が国王陛下から授かった神竜の爪の効果を何回も見せて貰って、出来るようになったんだよ」
無論鎧として強固な防御力を備えつつ、更には全身を覆う力が身体能力を向上させる。
本家の神竜の爪が備えていた飛行能力は複雑すぎて再現できなかった。
一言で言うと、微弱な霊素殻だと言えばいい。
微弱と言えどもそれは比較対象が霊素の戦技だからであり、十分に強力ではあるし、何より竜魔術は霊素の戦技と併用できる。
霊素殻と竜氷の鎧の重ね掛けは、イングリスを更にもう一歩先に進めてくれるはずだ。
「は、はあ……? 神竜の爪って確か国宝級の魔印武具よね……?」
それをカーリアス国王がロシュフォールに授けたのは、つい最近の事。
イングリス達が天上領に出発する直前の事だ。
ちょうどアルルに放課後特別訓練に付き合って貰っている時に、神竜の爪を携えたロシュフォールが戻って来たのだった。
「そんな事、出来ていいのでしょうか……?」
「いいも悪いも、出来てしまったものは仕方ないわ。言うほど何度も見ずにこれだし、感心するしかないわね」
エリスは肩を竦めつつ、こちらを見て微笑していた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!