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第392話 16歳のイングリス・絶海の|天上領《ハイランド》

 真っ青に澄み切った青い空が、視界の前面に広がっている。

 そして視線を下に向けても、見えるものは青。

 空の青ではなく、海の水の青色だ。


 イングリス達は王都カイラルを飛び立ち、カーラリアの領土をも飛び出して、海上に出ていた。

 天上領(ハイランド)の三大公のうちの一角であり、セオドア特使やその妹セイリーンことリンちゃんの父親でもあるという、技公の元に向かうためだ。


 目的は、武公ジルドグリーヴァとのお見合い兼手合わせで傷ついてしまった武器形態のエリスを治して貰う事。

 それと秘かに、リンちゃんが元に戻る手立てをエリスを見てくれる天上領(ハイランド)の技術者に相談してくる事、だ。


 イングリスとしてはそれだけではなく、本場天上領(ハイランド)の防衛兵器や殺戮兵器が暴走し、襲い掛かって来てくれるような事態を期待したい所である。


 武公ジルドグリーヴァは強大なその武力でイングリスと手合わせしてくれた。

 ならば技公には、その技術力の結晶でイングリスと手合わせして貰いたいものだ。


「んー! 空も海もみーんな綺麗な青で気持ちいいわねー! こんなに何もかも青いのって初めて! ね、クリス?」


 天上領(ハイランド)から来た迎えの飛空戦艦の甲板で、ラフィニアが気持ち良さそうに背筋を伸ばしている。


「そうだね、ラニ」


 イングリスは微笑んでラフィニアに応じる。

 前世を通じても、中々ない光景だ。見応えがあるのは間違いない。


「仰る通りですわ、美しい光景ですわね」


 リーゼロッテも頷いている。


「ええ、それはそうだけど……」


 と、レオーネはちらりとイングリスのほうに視線を送る。

 何か言いたそうでもある。


「……まあ気にしないほうがいいわ。気にしたら負けよ」


 それを察したエリスが、そう声をかける。

 エリスやレオーネ、それにリーゼロッテもラフィニアも、ここに持ち込んだ星のお姫様(スター・プリンセス)号の上に乗っていた。


 そしてそれを、イングリスが両手で持ち上げて膝を曲げ伸ばししつつ、ラフィニアと談笑していたのである。

 言うまでも無く、寸暇を惜しんでの基礎訓練である。


 いつもの事ではあるが、未だに五、六歳の子供の姿であるイングリスがそれをする姿は、異様と言えば異様であるかも知れない。


「でももう何日も経つから、そろそろ着いて欲しいわね~。ねえヴィルマさん! もうそろそろ着くって聞きましたけど、あとどのくらいですか? 何時、何分、何曜日?」


 ラフィニアは近くに立っている天上人(ハイランダー)の騎士に話しかける。

 艶やかな金髪をした、美しい女性だ。額にはその証でもある聖痕がある。

 髪の長さは肩にかからないくらいで、女性としてはやや短い。

 そのせいか、凛と引き締まったような雰囲気を漂わせている。


 見た目の年齢としては、エリスよりも少し下で、イングリス達よりは少し上と言った所か。天恵武姫(ハイラル・メナス)天上人(ハイランダー)も見た目通りの実年齢とは限らないので、実際はどちらが上か分からないが。


 顔以外は全身が物々しい漆黒の鎧に覆われており、いつでも戦争に出られるような重武装だ。

 彼女がエリスを迎えに来た天上領(ハイランド)の戦艦を率いる隊長だった。


 セオドア特使は特使としてカーラリアに残る必要があるため、一緒には来られない。

 ただ、セオドア特使が呼んでくれた天上人(ハイランダー)だ。

 話は通じる人物だと思いたいが。


「……」


 だがヴィルマは、むっつりと黙り込んでラフィニアの言葉を無視した。


「ヴィルマさーん! ヴィルマさん! 聞こえてますかー!?」

「……騒がしいぞ、気安く話しかけるな」


 ヴィルマはじろりとラフィニアを一瞥して言った。


「ええぇ~。でも天上領(ハイランド)に着いてからも、ヴィルマさんがあたし達の案内役なんですよね? だったら仲良くしましょうよ、暫く一緒なんだし……!」


 ラフィニアは異文化交流に積極的に取り組む姿勢のようだ。

 ヴィルマも不愛想に突き離すような対応だが、見下したり嘲笑ったりはしてこないため、天上人(ハイランダー)としては友好的と言えるかも知れない。

 だからこそラフィニアが積極的に話そうとしているのだが。


「…………」

「あ~ひどい無視した! ねえねえヴィルマさん、ひどいですよ、ヴィルマさーん!」

「黙れ……! ひどいのはどちらだ……!? そんな子供を足蹴にするような真似を……! 何と痛ましい、地上の人間とはそのように野蛮な者達なのか……!?」


 ラフィニアとその足元の星のお姫様(スター・プリンセス)号、そしてさらに下でそれを支えるイングリスに視線を向けながら、ヴィルマは憤然としている。


 どうやら、彼女にはこれが何か地上式の折檻の類に見えるようだ。

 単純な基礎訓練なのだが。


「いや、こんな異常なのは地上でもクリスだけですから……! クリスがもっと重くしたいって言うから、協力してるだけで……!」

「だけど確かに、見た目はよくないかもね……」


 エリスもふう、とため息を吐いている。


「でしたら、ヴィルマさんもラニ達と一緒に上に乗って頂けませんか? そうすれば問題ない事がお分かり頂けると思いますし、わたしもより強度の高い訓練ができて助かりますので……」


 ヴィルマの纏っている鎧は重量がありそうなので、重しとしては良さそうだ。


「そ、そんな恐ろしい事が出来るか……!」


 拒否されてしまう。


「じゃあ答えて下さいよ~。ねえねえ、あとどのくらいで天上領(ハイランド)に着くんですか?」

「……もう合流予定地点のほぼ直下だ。あとは……」


 と、ヴィルマの言葉が一瞬途切れる。

 飛空戦艦が分厚い雲に突っ込んで、視界があっという間に曇ったからだ。


「この雲の壁を上に突っ切れば……すぐそこだ」

「わあ……! やっと着くのね、どんな所かなあ……!」

「楽しみだね、ラニ。どんな凄い破壊兵器が攻撃してくれるかなあ……! 技公様の本拠地だから、ジル様の所より凄いのが見られるよ、きっと……!」

「いや、戦争しに行くんじゃないんだから……! それより天上領(ハイランド)のご飯とかお菓子とか、それにどんな服が流行ってるかとかも気になるわよね!」

「遊びに行くわけではないぞ……!」


 と、ヴィルマがラフィニアを窘めた時、靄のかかったような視界が一気に晴れる。

 飛空戦艦が雲の壁を突き抜けて上に出たのだ。


「まあいい。あれが我等が技公様の本拠島、イルミナスだ。地上の人間があの姿を目に出来る事、光栄に思うがいい……!」


 ヴィルマは進行方向を指差し、誇らしげに語る。

 だがその指差す先には、ただ青い空があるだけだった。


「え……? でもヴィルマさん、何もありませんけど……?」

「ふ、これだからな……」


 ヴィルマはしてやったりという表情だ。


「?」

「迷彩だ。我等が本拠島はその姿全体を空に溶け込ませて隠す事も可能。教主連も含めた全ての天上領(ハイランド)の中でも、屈指の技術力が為せる業だ」

「へえぇぇ……! すごい……!」

「見た目には何もないようにしか見えませんものね。見事なものですわ……」

「そうね、やっぱり地上とは何もかも違うのね」


 ラフィニアだけでなく、リーゼロッテもレオーネも感心している。

 早速天上領(ハイランド)の技術力を見せつけられた形だ。


「……エリスさん、魔素(マナ)の流れを感じますか?」

「? いいえ、でもそういうものではないの?」

「そうかも知れませんが、あまりにも静か過ぎる……ヴィルマさん。本当にあそこに天上領(ハイランド)があるのですか?」

「何をバカな事を、合流地点はあそこだ。私がお前達を騙しているとでも言うのか? 何のために?」

「いえ、そうではありませんが、何か不測の事態が……」


 イングリスがそう言った時、ヴィルマに向かって他の天上領(ハイランド)の兵から報告が飛ぶ。

 こちらはヴィルマとは違い、顔まで鎧兜に覆われ、完全に顔は見えない。


「申し上げます。イルミナスとの通信断絶」

「何……!? だが迷彩をして目の前に……!」

「迷彩用魔術の反応ありません」

「何だと……!? では本当に目の前にイルミナスが存在しないというのか……!? 一体どこに――」


 ばしゃあああああああああぁぁぁぁんっ!


 空まで劈くような巨大な水音が、その場に響き渡った。

 こんな高空まで水飛沫が届いたような、そんな錯覚すら覚える。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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