第391話 16歳のイングリス・新学期と新生活13
そして――
「ええぇぇぇっ!? あたし達封魔騎士団に入れないんですか!?」
校長室にラフィニアのがっかりした声が響く。
「校長先生! わ、私達に何か問題が……!?」
「考え直して下さいませ! わたくし達も是非とも参加させて頂きたく思います!」
勢い込むラフィニア達に、ミリエラ校長はぱたぱたと手を振って答える。
「あ、いえ違うんですよお。皆さんには是非とも封魔騎士団にも参加して頂きたいんですけれど、今回は封魔騎士団のアルカード行きよりも優先してほしい事があるんです。そうですよね? セオドアさん?」
校長室にはセオドア特使も来ており、ミリエラ校長に名を呼ばれると大きく頷く。
「ええ、是非とも……きっと皆さんにもよい経験になる事でしょう」
「? あたし達が何をするんですか?」
「エリス殿の件です。天上領で彼女を診てもらう手筈が整いましたので、数日中には出発されます。皆さんには彼女の護衛役としてそれに同行して頂きたいと思っています」
「……! エリスさんと一緒に天上領に行けるのですか……!?」
それはなかなか興味深い。
天上領の兵器や技術をこの目で見る事ができるし、あわ良くばそれらと手合わせする事も期待できる。最近凝っている魔印武具の改造に役立つ技術もあるかも知れない。
武公ジルドグリーヴァに匹敵するような強大な兵器があるといいが。
例えばイーベルが神竜フフェイルベインを変貌させた機神竜のように。
「あたし達が天上領に入れるんですか……!? すごい!」
ラフィニアの目も好奇心に輝いている。
「そうね……! それは凄く貴重な体験だわ」
「望んでもなかなか得られる機会ではありませんわね」
レオーネとリーゼロッテも大きく頷いている。
「私も昔ウェイン王子の留学のお付きで行きましたけど、良くも悪くも見分は広がると思いますから、行っておいて損は無いかと。せっかくの機会ですからねえ」
「護衛と言っても危険はありませんから、安心して向かって下さい。短期の留学のようなものと思って頂いて結構ですから」
「わたしとしては危険がある方が有難いのですが! エリスさんを診て貰うのは三大公のうちの技公様の本拠地ですよね!? であれば、ジル様に匹敵するような超兵器の戦闘性能実験などに、わたしを使って頂けると嬉しいです! 是非!」
「ははは……そ、そうですね」
「こらクリス、あんまりはしゃがないの! セオドア特使を困らせたらダメでしょ」
ラフィニアにめっ! と窘められた。
「うーん、イングリスさんの言動はいつも通りなんですが、いつもより小さくて可愛らしい分余計に異様さが際立つといいますか……」
ミリエラ校長が苦笑いしている。
「まさか武公殿が直接地上に降りて、イングリスさんに手合わせを挑むとは驚きました。あの方らしいと言えばあの方らしい行動ですが……ですがあの方の口添えのおかげで、皆さんが天上領に滞在する許可を得る事も出来ました」
「ありがたいお話ですね」
「……って言うかジルさんがエリスさんの剣を壊したんだし、ね」
「あれはわたしの戦い方も悪かったから……せめてエリスさんに付いて行って、元に戻して貰うまで付き添わないとね?」
「うん。エリスさんだって一人で天上領に送られたら心細いだろうし」
「それともう一つお願いがあります」
セオドア特使が、真剣な面持ちでそう切り出す。
「もう一つ?」
「何ですか? あたし達に出来る事ですか?」
「ええ、あなた達と一緒にいるリンちゃん……セイリーンの事です」
リンちゃんは今、レオーネの胸の間から顔を覗かせていた。
イングリスは小さくなって胸には入れないので、レオーネがその役割を一手に引き受けてくれている。
そんな様子なので、リンちゃんを直視する事は出来ず、微妙に見ないようにしつつセオドア特使は続ける。
「この子を、エリス殿を担当する天上領の技術者に見せて来ていただけますか? 私とミリエラだけでは、どうにも……あちらには私以上の技術者がいますから、その見解も欲しいのです」
「じゃあその人に見せたら、リンちゃんを元に戻せるかも知れないんですか!?」
「正直、分かりませんが……可能性を切り開く発見があるかも知れません」
「なるほど、現状では少々厳しいと……」
「ええ。やはり天上領の、それも技公の有する設備とは差がある事は否めません。それを使うことが出来れば……ですが技公本人には気取られぬように気を付けて下さい。セイリーンがそのような姿になって生きている事は伝えていません」
「技公様は……セオドア特使とセイリーン様のお父上なのですよね?」
「ええ……セイリーンの事が知れれば、何をしでかすか分かりません。ですからくれぐれも見つからぬようにお願いします」
「頑張ります! 必ずリンちゃんを元に戻す手がかりを……!」
レオーネが強く頷いてぐっと拳を握る。
現在の所負担はレオーネに集中しているので、その気持ちは分からなくもない。
ぶるぶるぶるぶるっ!
リンちゃんが引っ込んで、レオーネの胸全体が震えはじめる。
私を邪魔者扱いするな! と言っているかのようだ。
「きゃあぁぁっ!? リンちゃんダメ……! やだそんな所、ダメだってば……!」
レオーネが悲鳴を上げる。
「い、いつもこの子がご迷惑をお掛けして済みません……」
セオドア特使が世にも申し訳なさそうな顔をする。
「いえいえ迷惑だなんてそんな、全然平気ですよー」
「「何を勝手にっ……!」」
イングリスとレオーネの台詞が全く一致した。
「もう……! ラニは全然何もされないから、そんな事言えるんだよ?」
「イングリスの言う通りよ、今のはちょっとひどいわよ……?」
「ま、まあいいじゃない。普段クリスとレオーネは、立派なものをあたし達に見せつけて自慢してるんだし?」
「「してないっ!」」
また二人の声が揃って、校長室に響き渡った。
ともあれイングリス達の行き先は――天上領だ。
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