第388話 16歳のイングリス・新学期と新生活10
そしてイングリスの予想通り、ウェイン王子の話はとても重要なものだった。
手短に挨拶を済ませた後、切り出されたのは新騎士団についてだった。
「諸君の中には既に噂を耳にしているものもいようが、この度我がカーラリアには聖騎士団と近衛騎士団に次ぐ新たな騎士団を創設する事となった……名を封魔騎士団とする」
「「「封魔騎士団……?」」」
「封魔騎士団の任務は、魔石獣を討ち、その脅威に晒される人々を守る事、それのみとする」
「つまり、魔石獣との戦いを専門にする騎士団という事かしら」
レオーネがウェイン王子の言葉に感想を述べる。
「人間同士の戦争はしないって事よね? クリス?」
「うん、そうだねラニ」
「ですが、対魔石獣ならば聖騎士団が既にその役割を担っているはずでは……? 聖騎士団との棲み分けはどうなさるのでしょう……?」
リーゼロッテの疑問も、続くウェイン王子の言葉で氷解する。
「ただし、その活動の範囲は我がカーラリアに限定しない……!」
「「「えぇぇっ……!?」」」
ラフィニア達が声を上げると同様に、他の生徒達からも騒めきが大きくなる。
「封魔騎士団は国や国境の関わりなく、魔石獣の脅威から全ての人々を守る事を目指す……! 救いを求める声があれば世界のどこへでも赴く! 我が国のためだけでなく、地上の全ての国と人々ための騎士団だ!」
「「地上の全ての……!?」」
「「カーラリアのためだけでなく、世界のために……!?」」
騒めきは更に大きく、熱気を帯びて行くように見える。
成程確かに、それであれば聖騎士団との役割は全く異なるだろう。
聖騎士団はあくまでカーラリアの国を守るための存在だ。
封魔騎士団が活動域を国内に限定しないというならば、主な活動範囲はむしろ国外になるはずだ。国内にはラファエル達聖騎士団がいるのだから。
「地上に生きる人々が、めいめいに我が身を守らざるを得ない時代は既に過ぎた。昨今の天上領からもたらされた技術により、一つの大きな力を必要な時必要な場所に素早く運ぶ事が可能となっているからだ……! 何もそれを一国のためだけに使う道理はない。封魔騎士団は助けを求める者全てに手を差し伸べに行く……! これまで満足に魔印武具得られず、虹の雨に怯えるしかなかった人々にも……!」
ウェイン王子の言葉を聞きつつ、ラフィニアが興奮気味に話しかけて来る。
「つまり、アルカードに虹の雨が降って強い魔石獣が出たら、あたし達が守りに行っていいって事よね……!? クリス!?」
「ふふっ……そうだね。そういう事だと思うよ」
ラフィニアはもう封魔騎士団の一員になり切っているつもりの様子である。
それが、イングリスとしては可愛らしく微笑ましい。
ウェイン王子の話は、如何にもラフィニアの正義感を刺激しそうな話である。
「いい……! 凄くいいと思う! またラティ達が困ってたら助けてあげられるし! 他にも困ってる人がいたら、どこにも行けるんだもん! ね、レオーネ……!?」
「ええ……! 確かに、機甲鳥も機甲親鳥も飛空戦艦もあるんだから、出来る事はやってしまえばいいんだわ……!」
「そうする事によって、アルカード側はもうカーラリアに攻め入るなど考える必要が無くなるわけですわね。何かあれば封魔騎士団を頼ればいいのですわ」
元々はイーベル達による偽装だったわけだが、アルカードはリックレアの街が虹の王に滅ぼされたという事態を受けて、魔印武具の増強、願わくば天恵武姫の入手という方針を採った。
だがそれに見合う満足な物資を献上することが出来ず、代わりにヴェネフィクと挟撃する形でカーラリアに攻め入る事を了承して動いた。
そこでもし封魔騎士団の存在があれば、封魔騎士団に助けを求めれば良いわけだ。
ただし、封魔騎士団を国に入れても大丈夫だという信頼が前提にはなるが。
魔石獣を討つ名目で乗り込んで領土を奪うなどという懸念があっては、頼るものも頼れないだろう。
「封魔騎士団は国や国境の関わりなく、志を同じくするあらゆる人々が所属できるようにする。そしていずれは、カーラリアの国からも独立した存在に育って貰う事を願う。全ての国が力を合わせ、それを全ての国を守る盾と為す……虹の王を見張るという役目を終えたアールメンの街は、今封魔騎士団の活動拠点として生まれ変わろうとしている。すぐにとは行かんが、来季からは騎士アカデミーもアールメンに移転し、各国からの人材受け入れを大幅に増やし、封魔騎士団の中核を担える騎士を育成して行くつもりだ」
「なるほど……」
つまり、どの国からも独立した、国を横断して魔石獣から人々を守るという目的を持つ騎士団だと言うわけだ。
カーラリアの第三の騎士団というよりも、全く別の集団だ。
全ての国が力を合わせ得る器を作り、その器たる封魔騎士団により一国のみに囚われない範囲を魔石獣から守るという広域防衛構想である。
その立ち上げを、カーラリアが主導して行うという事だ。
これはむしろ、アルカードのような国内の対魔石獣の戦力が不足気味の国にこそ利点の大きい話だろう。
自分が大した力を持たずとも、封魔騎士団に守って貰えるのだから。
地上全体の事を見れば、魔印武具やそれを扱う騎士達を一点集中して機動的に運用する事により、各々の地域に留まって防衛を行うよりも、総合的には人も武器も効率的に使うことが出来るわけだ。
何も起こらない時に何もせず待機しているという時間が減るのだから。
「つまり、結果としては地上側はより少ない魔印武具や機甲鳥で効率的に身を守ろうとする動きだね。天上領側もそれを容認するっていう事なんだよ」
「それっていい事よね、クリス? ね、ね?」
「そうだね。つまり世界中のどこに虹の王が現れても戦わせて貰えるって事でもあるからね? ふふふ……やったね?」
カーリアス国王は国内のどこに虹の王が出現してもイングリスを差し向けてくれるだろうが、それを国を飛び越えて世界規模の広範囲にしてくれると考えれば、非常に素晴らしい構想である。
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