第387話 16歳のイングリス・新学期と新生活9
「結局無事に撃退は出来たのですけれども、あの様子ですから倒す他はありませんでした……ですが、レオーネを襲ったという不死者の特徴に似ている気がしますわ」
リーゼロッテの言葉に、イングリスは頷いて肯定する。
「可能性は高そうだね」
「私のほかにアールシア公爵も狙われていたなんて……」
「不死者って珍しいはずなのよね? なんでそんなに……ひょこひょこ現れるのよ」
「いや、アールシア公爵を狙ったかどうかは分からないよ? リーゼロッテの方を狙ったのかも知れない」
「……! わたくしをですか……!?」
「うん。レオーネとリーゼロッテがなら、理由は分からないけど標的ははっきりするから。共通点があるから」
「「「共通点?」」」
「そう、この間の虹の王との戦いで功績を残して、名前と顔が大きく知られた……ってところがね? わたしは、レオーネはレオンさんやオルファ―家の事で狙われたんじゃないと思うんだ。今更そうなるなら、これまでにもうなってると思うから。リーゼロッテの方にも不死者が出たなら、そういう事だと思うんだ。逆にリーゼロッテの方も、レオーネの方に不死者が出ているんだから、狙いはアールシア公爵じゃなくてリーゼロッテの方かなって」
「……その方が頷けますわね」
「狙いは不明だけど、虹の王との戦いで功績を残した私達が狙われている……という事ね」
「ねえクリス。じゃあ、あたし達は……?」
「もしかしたら、わたし達の所にも刺客が来てたかもしれないね。それか、お見合いで味方にしようとしてたとか」
ユミルに帰郷中、特に怪しい気配は感じなかったので、恐らくは後者だろうが。
「もし来ててもジルさんとあんな戦いしてるのを見たら吃驚して逃げ出すわよね……」
もしくは、イングリスもラフィニアも小さくなっていて分からなかったという事もあり得るだろうか。
「わたしは混ざってくれても良かったけどね?」
「いや無理でしょ……刺客が可哀そうよ、あんなのに巻き込まれたら」
「とにかく、またわたし達の所に不死者が出るかも知れないから、十分注意しようね?」
イングリスの言葉に、三人とも真面目な表情で頷く。
と、そこで輪の外から声がかかる。
「あ、あの……! ちょっと待って下さい! 皆さんすいません、今聞こえてしまったんですが、不死者って……! 不死者を見たんですか!?」
真剣な顔で問いかけて来るのは、アルルだった。
食事を終えた通りがかりに耳に入ったのだろう。
「アルル先生……はい、休暇の間に、レオーネとリーゼロッテが不死者に襲われたんです……!」
ラフィニアがアルルの問いに応じる。
「ど、どこでですか……!?」
「私は、アールメンの実家に戻っている時にです……!」
「わたくしは王都でですわ……!」
「アルル先生、不死者を操る人間に心当たりが?」
イングリスがアルルに問いかける。
「え、ええ……! ロス……!」
とアルルは脇にいるロシュフォールを振り向く。
「ああ、奴かもしれんなァ」
ロシュフォールも厳しい表情をしている。
「奴……?」
「ああ、マクウェルという私の同格でねェ。ヴェネフィクの者は虹の王の侵攻に紛れてカーラリアに突入したが……それは我々の部隊だけではないのだよ」
「おぉ……! では不死者を生む魔印武具を操るヴェネフィクの将軍がいらっしゃると……!? 是非、お会いしたいです!」
「こらクリス! 喜ばない! 大変でしょ!」
「あ、あははは……」
「本当、見た目しか変わっていませんわねえ……」
「こ、こんな人見た事がありませんね……」
レオーネもリーゼロッテもアルルも苦笑していた。
「我等が破れ虹の王も撃破されたため、ヴェネフィクに引き上げたと思っていたんだがなァ、まだカーラリアの中に潜伏しているようだ……私達と共にカーラリアに降った、元部下の行方が何人も知れん」
ロシュフォールの目がすっと鋭くなる。
「彼等はカーラリアでは暮らせぬと逃亡したのかと思ったが……奴の手で不死者にされたのやも知れんなァ……」
「そ、それがアールメンで私を襲ってきた不死者達……!?」
「……可能性の話だがなァ。だが諸君が気に病む事は無いよ。降りかかる火の粉を払うのは当然の事。責められるとすれば、マクウェルと不死者にされた彼等を守れなかった私の無能だろうなァ」
口調こそ落ち着いているが、静かな殺気が身を覆っている。
相当、怒っていそうな様子だ。
「ロス……」
「ロシュフォール先生……」
「ロシュフォール先生、念のためにマクウェル将軍の人相を教えて置いて頂けますか?」
「ああ、そうだなァ……」
と、食堂中に大きく太い声が響き渡る。
「諸君! そろそろ全校集会の時間だぞ! 急いで講堂に集合! ウェイン王子やセオドア特使殿が始業の訓示を行って下さるそうだ……!」
そう呼びかけているのは、マーグース教官だった。
「ウェイン王子とセオドア特使が……? そんな事言ってたっけ?」
「いいえ、聞いていませんわね……」
「それだけ重要な話だって事だよ」
「話は後だなァ。アカデミーの教師と生徒である以上、始業時間には逆らえん」
意外と勤務態度は真面目のようである。
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