第384話 16歳のイングリス・新学期と新生活6
リーゼロッテ達は、馬車でアールシア家が王都に所有している別邸に向かう。
父アールシア公爵が宰相を務めていた時代に、王城に詰めるための住居にしていた場所だ。
静かな場所を好む父の好みに合わせ、王城からはやや遠いが、周囲に他の家も無く閑静な場所だ。
館の手前の、林の中の静かな道を進んでいた時――
馬車の中でリーゼロッテは、父アールシア公爵やライーザを相手に、虹の王会戦での事や、その前のアルカードでの出来事、騎士アカデミーの友人達についていろいろと話をしていた。
「そうですか……色々とご苦労なさったようですが、良き友人が出来た事は何よりです。一生の友人というものは得難いものですから」
「はい、騎士アカデミーに入学して良かったですわ!」
にっこりと笑うリーゼロッテに、ライーザも微笑み返す。
しかしアールシア公爵の反応は少々違っていた。
「……確かに腕を上げ、仲の良い友人も増えたようだが。まだ仮にも騎士アカデミーの学生に、無茶をさせ過ぎな気がするが。聞いていて、胃が痛くなったぞ……」
と、冷や汗をかいていた。こう見えて心配性な父なのである。
「ふふっ……まあ、ちゃんとその都度セオドア特使やウェイン王子や国王陛下のお許しを得た行動ですから、心配いりませんわ」
「やれやれ、陛下達にも困ったものだ……とはいえ今回の虹の王会戦でお前が勲功を認められた事は誇りに思う、この国のためによく頑張ったぞ」
「シアロトの騎士団でも、皆お嬢様のご活躍を聞いて大騒ぎでした。一番喜んでいたのは私ですけれど。武技をお教えした指南役として、鼻が高いですよ」
アールシア公爵とライーザの二人から肩を叩かれ、リーゼロッテは嬉しかった。
「ありがとうございます。これからも頑張りますわね」
笑顔を浮かべるリーゼロッテに対し、ライーザが少々心配そうな顔を見せる。
「しかし、今後少々心配なのはヴェネフィクとの情勢がどうなるかですね。もし悪化して戦争になれば、お嬢様までリグリフ宰相の討伐軍に狩り出されてしまうのかと……」
「それは、少し心配ですわね。ですからお父様が熱くなっていらっしゃったリグリフ宰相や、東部の諸侯の皆様をお諫めして下さって、助かりましたわ。ありがとうございます」
「何、お前のためでもあるし、私の意思でもある。お前は気にせず、自らの成長を考えなさい」
「ええ、お父様」
「ですがあのように正面を切って反論をしてしまっては、角が立ちませんか? リグリフ宰相から逆恨みを買いかねないのは心配です。その役割はビルフォード侯爵にお譲りした方がよろしかったのでは……?」
「何、問題ない。既に私はリグリフ宰相殿には恨まれているからな、そもそも氷漬けの虹の王を東部に輸送する決定が為された時の宰相は私だ。止めなかった私を彼は恨んでいるだろう。ビルフォード侯爵は裏表のない人格者ゆえ、そのような政争に巻き込むのは忍びないというものだ。それに……」
「「それに?」」
「国王陛下もウェイン王子も、こちらからの攻勢には乗り気でないのは二人とも見ていて感じただろう? だがリグリフ宰相等の口ぶりには無下にはし辛い。ならばその御意思を通すよう動くのが、王家の遠縁にも当たる公爵家の務めでもある。公爵家は王家の盾となり影となり、王家をお支えせねばならん。よく覚えておくんだ、リーゼロッテ」
「はい。お父様」
「ただ、確かに少々張り切りすぎたかもしれん。今回の件については国王陛下とウェイン王子の御意見が一致されていたのが喜ばしくて、出過ぎてしまったよ。近頃のお二人は天上領に向き合う方針を巡って、衝突されることも多かった。これを機に関係が改善して行くといいが……」
そう言って少し笑みを見せるアールシア公爵だが、反対にライーザは表情を曇らせてしまう。
「ですが公爵様。お言葉ですが……そこまで尽くして見せても、我がシアロトの民は報われるのでしょうか? 以前お嬢様が血鉄鎖旅団より知らされた情報によれば、王家はリップル様に代わる天恵武姫との交換に、天上領へアールメンと我がシアロトを献上する条件を呑んだと……結果的にはそうならずに済みましたが、私には少々……」
「ライーザ……」
「その情報の出所は、恐らくリグリフ宰相の周辺だろうな。彼は確かにそうするつもりだったようだ。先程述べたように私には怨みがあるし、現在の宰相という地位を再び私に奪われる事を恐れていた。こちらを潰す好機と捉えていたのだろう。国王陛下はアールメンとノーヴァを割譲するつもりだったそうだ、それはどちらも王家の直轄地。その方が自然だろう? 直轄地ならばいいと言い切れるものでは無いが、な。陛下に黙ってリグリフ宰相が話をすり替えようとしていたのだ」
「なるほど……良く分かりました、出過ぎた事を申し訳ございません」
「でも知れて良かったですわ……! わたくしもそこは引っかかっておりま――」
リーゼロッテが言い終わるより早く、外からの声がそれに割り込んだ。
「うああああぁぁぁぁっ!?」
「何奴ッ!?」
「敵襲! ライーザ団長! 敵襲ですッ!」
ガキンッ! ガキイィィンッ!
外から刃を交える音が飛び込んで来る。
「……!? 待ち伏せですか……!」
ライーザの表情が一気に厳しくなる。
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