第381話 16歳のイングリス・新学期と新生活3
「ま、まあまあ、まだまだ食べ物はいっぱいあるじゃない?」
テーブルの向こう側に座っているレオーネがイングリスを慰めてくれる。
「でも食べたい順番とかあるんだよ……! 今は唐揚げが食べたかったの!」
そしてラフィニアとイングリスは幼い頃から一緒であるため、食べ物の好みや食べたくなる順番など、とても似ている。
だから好みがぶつかって奪い合いがしばしば発生するのだ。
「そ、そう? じゃあこっちに座って食べる? その方が取りやすいかも?」
「うん、そうさせて貰おうかな」
イングリスはラフィニアの膝からぴょんと降りた。
「お邪魔します」
一言断って、レオーネの膝に入る。
「うん、どうぞどうぞ」
レオーネもイングリスを膝に入れたかったようで、嬉しそうである。
「んー……届かない」
逆側から唐揚げを取りたかったのだが。
「はい、取ってあげるわ。イングリス」
「ありがとう、レオーネ」
優しい。
どうも食事の時はラフィニアの膝の上よりもレオーネの膝の上の方がいい気がする。
ラフィニアの膝の上の位置関係では、食べたいものが被った時の奪い合いに確実に負けてしまう。やはり手の長さは食卓の戦いでは重要である。
「うん、美味しい……!」
レオーネが取ってくれた料理を次々口に運ぶイングリス。
ラフィニアに邪魔されず軽快なペースで食べて行く。
のだが、少々問題があった。
「……うーん……」
「? どうかした、イングリス?」
「いや……」
と、イングリスはレオーネの方を振り向く。
むぎゅ。
顔がレオーネの胸に埋まる。
別に意図的にそうしたわけではないが、自然とそうなった。
「ご、ごめん。レオーネ……」
「いいわよ、気にしないで?」
だがイングリスとしては罪悪感を覚えざるを得ない。
これが5、6歳の幼女だから平気な顔をして許されているが、元の老王だったら悲鳴を上げて拒否されるだろう。間違いない。
そして先程感じた問題もこれと原因は同じだ。
レオーネの胸が大きすぎる。
イングリスが膝に座りながら伸びをしたり、背中を預けたりすると、大きな胸が邪魔である。どうしてもこちらの姿勢が前かがみ気味にならざるを得ず、窮屈なのだ。
その存在感に自分から埋もれて行って楽しめるくらい図太ければ天国だろうが、イングリスとしては、そうはならない。
そして更に――
ぶるぶるぶるっ。
レオーネの胸全体が震え出す!
「あ……! ちょ、ちょっとダメ……! ひゃんっ!」
リンちゃんがレオーネの胸の谷間から、ひょっこり顔を覗かせる。
そして首を横に振っているように見えた。
「ああ、レオーネは自分専用だって? ごめんね、邪魔して?」
確かにイングリスがこの状態なので、リンちゃんが胸に入りたがるのレオーネだけである。のんびりしていた所をイングリスが外から胸に顔を埋めて、邪魔されていると思ったのだろう。
「うう……今のイングリスは可愛いけど、早く戻って欲しいのもあるかも……」
レオーネがため息を吐く。
確かに、このままではずっとレオーネがリンちゃんを胸に入れ続ける事になる。
「そ、そうだね。わたしはもうちょっとこのままでいいかなあって思ったよ」
「ひどいわよ……! 早く助け合いましょう、すぐ戻って!」
涙目のレオーネが恨めしそうにこちらを見る。
「ははは……できればね。ラニは自然と戻ったしわたしもそのうち戻るよ」
「ではこちらになさいますか? イングリスさん?」
レオーネの隣のリーゼロッテが、自分の膝をぽんぽんとしてイングリスを誘う。
「うん、じゃあそうさせて貰おうかな」
「はい! どうぞどうぞ!」
リーゼロッテが嬉しそうに顔を輝かせる。
「では、わたくしがお料理をお取りしますわね♪」
リーゼロッテが機嫌良さそうに料理を取ってくれる。
ラフィニアのようにイングリスの食べ物を取らないし、レオーネのように胸とリンちゃんが気になる事もない。
「うーん。ここが一番落ち着いて食べられるかも」
「あら、そうですか? では暫くわたくしと一緒にお食事をいたしましょうね?」
リーゼロッテは嬉しそうにイングリスの頭を撫でたり、ぎゅっと抱きしめたりする。
食べるイングリスの邪魔にはならないように気遣ってくれるので、特に問題は無い。
やはりリーゼロッテの膝に入って食べるのが一番良さそうだ。
「ラフィニアさんも小さくなられたのですよね? それも見たかったですわねえ」
と、リーゼロッテは残念がる。
「ええ、可愛かったわよ。とっても」
レオーネが微笑んでそう言う。
「惜しい事をしましたね、わたくしもアールメンに行く用事があれば良かったのですが」
「でも、見たくないものも見せられたわよ?」
そう応じたのはラフィニアだった。
「……不死者、ですわね」
「うん。あれは中々ね、何て言うか、エグくてグロいわ。こんなご飯時に言う話じゃないけど……」
あの事件の事も、勿論アールメンでセオドア特使やミリエラ校長に報告している。
ウェイン王子の耳にも入っているはずだ。
アールメンの騎士達の手も借りて、現地では調査が進んでいる。
「ですがそれも含め、ですわ。友人が危険な時にわたくしだけ駆けつけられなかったのは悔しいですもの」
「リーゼロッテ……ありがとう」
イングリスもラフィニアも、リーゼロッテの言葉に微笑んで頷く。
「いいえ。にしても、不死者……ですか。それは、とても珍しい存在なのですよね?」
「そうだね。凄く希少な魔印武具か、天上人の魔術か、だと思う」
「ですがそれ……わたくしが見たものと似ているような」
リーゼロッテが難しそうな顔をする。
「ええぇっ!? リーゼロッテも不死者を見たの!?」
ラフィニアがガタンと席を立つ。
「ぶ、無事で良かったわ……!」
レオーネはほっと胸を撫で下ろしている。
「そうだね、よかった。どういう状況だったか教えてくれる?」
「ええ、皆さんのお話を聞いただけですので、断定はできませんが……」
そう前置いて、リーゼロッテは休暇中の出来事を語り始めた――
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