第377話 16歳のイングリス・レオーネの帰郷5
「仕方ないわね……! クリス!」
ラフィニアがイングリスを呼ぶ意図は明らかだ。
「うん、任せて」
つまり、扉を破壊して進む。
イングリスが前に進み出ようとした時――
ギギギギィィ……
向こう側から扉が開く。
「……! レオーネ!?」
ラフィニアが奥を覗き込む。
そこにいたのは、こちらが望む顔ではなかった。
「グガアアァァッ!」
不死者がラフィニアの目の前に顔を突き出した。
「きゃああああぁぁぁぁぁっ!?」
「ガアアァァッ!」
悲鳴を上げるラフィニアに掴みかかろうとする不死者。
それは、許さない! イングリスは既に動き出していた。
ラフィニアの顔の横から、イングリスの小さな拳が突き出される。
それが、不死者の横面にめり込んだ。
ドゴオオオォォォンッ!
矢のような勢いで、不死者は下り階段の突き当りの壁に激突する。
「ラニに触れないで下さいね?」
にっこり微笑むイングリスの横で、ラフィニアが怒っている。
「ああ、もう……! びっくりしたあぁぁぁ……驚かせないでよね!」
ラフィニアが治癒の矢をイングリスが吹き飛ばした不死者に撃ち込む。
「……見ない見ない、見なかったことにするわ……!」
不死者の肉体が無残に崩壊して行くが、ラフィニアはぶつぶつ言って目を反らす。
「行こう、ラニ。レオーネがいるかも知れない」
「うん……!」
イングリスはラフィニアの手を引き、地下へと降りる。
「レオーネ! いたら返事をして!」
「あたし達よ! ラフィニアとクリス! 声が変わって分からないかも知れないけど!」
呼びかけながら地下を歩いて行くと――
「イングリス……? ラフィニア……?」
小さな、震えるような声が、地下の最奥の部屋から聞こえて来た。
「! いた……!?」
「こっちね!」
物置のようになっている、部屋の隅。
レオーネが黒い大剣の魔印武具を抱くようにして、身を震わせていた。
頬は涙で濡れており、今も泣いていたようだ。
相当怖い思い、辛い思いをしたようだ。
「レオーネ! 大丈夫……!?」
「無事で良かった、もう平気だよ」
「え……? イングリスとラフィニア、よね……?」
レオーネが戸惑うのも無理はない。
イングリスもラフィニアも5、6歳の幼女の姿になっているのだから。
「うん、そうよ!」
「ちょっと魔印武具の事故で、こうなっちゃって……」
「そう……びっくりしたわ」
「それより大丈夫、レオーネ!?」
「怪我はしてない?」
レオーネの服はかなり血で汚れている。
これは返り血なのかどこかを汚しているのか、判断が付かない。
「大丈夫、大丈夫よ……でもわ、私……何て事を……」
レオーネの手が震えて、涙が再び溢れてくる。
「大丈夫、大丈夫よ……! あたし達が付いてるから……!」
「うん、ラニの言う通りだよ。安心して」
イングリスとラフィニアは二人で震えるレオーネの手を握り、背中をさする。
暫くそうしていると、少し落ち着いてくれたのかレオーネは状況について話し始めてくれた。
「……ラファエル様や、イングリスやラフィニアのおかげで、この館に戻れたわ。本当にありがとう……」
「うん……手紙で見たよ」
「あれを見たから、わたし達もアールメンに来たんだよ」
手紙が無ければイングリス達がここに来なかったことを考えると、レオーネの生真面目な性格が非常に幸いしたと言える。
階段の所で死体のふりをしていた不死者達にレオーネが不意に近づけば、急襲されて危険だったかも知れない。
「だけど、この街の騎士の人達が訪ねて来て、話がしたいと言うから入って貰ったんだけど……少ししたら様子がおかしくなって……!」
「それで、戦うしかなかったのね……」
ラフィニアの言葉にレオーネが頷く。
「話が通じないし、それでも傷つけないようにしたかったけど……でもダメだったわ。叩いたり殴ったりじゃ全く気絶もしてくれなくて、動きも早くて……だ、だから斬るしか無くなって、私……この街の騎士の人達を……!」
思い返すと恐ろしいのか、レオーネの手がガタガタと震え始め、涙が再び溢れてくる。
「み、みんなのおかげでここに戻らせてもらったけど、戻って来るべきじゃなかったんだわ……私が許される事なんてないのに、自分なりに頑張ったって、浮かれて戻って来たからこんな事に……! わ、私のせいだわ……!」
レオーネとしては、レオーネの事が許せないアールメンの騎士達が、レオーネが戻った事を聞きつけて襲ってきたのだと受け取っているようだ。
そしてそれを返り討ちにする他が無く、殺めてしまったと責任を感じている。
「そ、そんな事ないよレオーネ! レオーネは悪くない、悪くないよ……!」
ラフィニアが必死にレオーネを抱きしめている。
「ねえクリス? そうよね!?」
「うん……そうだね」
イングリスもラフィニアと一緒に、もう一度レオーネの背中を撫でる。
「レオーネ、よく思い出して。尋ねて来た人達の顔に見覚えはあった? 多分全員知らない人だったでしょ?」
「え? ええ……それは、そうだけど……でも皆の顔なんて分からないし……」
「でも、見覚えのある人が外にいたよ?」
「え……!?」
「レオーネに謝りたいんだって。この間の戦いでレオーネの事を見かけて、考えが変わったって言ってたよ?」
「そ、そうよ……! 言ってたわよ! 騎士の人達! あたしは見覚えは、ちょっと良く分からないけど……」
「前に初めてアールメンに来た時に、レオーネに怒ってた人だったから」
「……そうだったっけ? けど、クリスは人の顔を覚えるのが得意だからなぁ……だからきっとそうよ! あんなに怒ってた人も見直してくれたんだから、ここに襲って来た人達は……!」
と、そこまで言ってラフィニアは言葉に詰まる。
「は――何なの、クリス?」
レオーネを守りたい、助けたいという思いは強いが、そこまでは考えが至っていなかったようだ。だがそんなラフィニアも微笑ましい。
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