第374話 16歳のイングリス・レオーネの帰郷2
「何だろ人がいっぱいいる……?」
ラフィニアがそれを見つけて首を捻る。
「レオーネが戻って来たのに気づいて、みんなで来たのかな?」
「……! またレオーネをいじめるつもり……!? 今度は大勢で!?」
ラフィニアが眉をひそめる。
「いや、そうとも限らないけど……?」
「でももしそうなら、レオーネが嫌な思いをさせる前に追い返さなきゃ! 可哀想だもん! 早く行くわよ、クリス!」
ラフィニアがイングリスの手を強く引っ張る。
「はいはい。じゃあエリスさん、着陸をお願いします」
「あ、待ちなさい……! そんなに焦らなくてもすぐ着陸できるから……!」
「いーえ! 今すぐ行きます!」
言いながらラフィニアはイングリスの背中に抱き着く。
「行くのはわたしなんだけど?」
「クリスの力はあたしの力!」
「ふふっ。間違ってない!」
イングリスはラフィニアを背負い、星のお姫様号から飛び降りた。
丁度オルファ―邸の門前に集う人々の眼前に着地をする形だ。
いきなり幼女を背負って飛び降りて来た幼女に、驚きの声が上がる。
「「「おおっ……!? な、何だ……!?」」」
「「「う、上から飛び降りて来たのか……!?」」」
イングリスはたおやかな笑みを浮かべて彼等に呼びかける。
「こんにちは、皆さん。こちらに何か御用ですか?」
「レオーネをいじめたり文句を言いに来たのなら、あたし達が代わりに受けます! だから帰って下さい!」
と、ラフィニアが呼びかけると集まった人々は一斉に首を振る。
彼等は騎士風の格好をしている者が多いだろうか。
だがそうでない者や、女性の、一般の住民も混じっている。
「いや、違うんだ。そんなつもりはない……!」
「君達はレオーネ嬢の知り合いか?」
「はい。そうですけど?」
ラフィニアが頷いて応じる。
「おお、そうなのか……! 彼女がここに戻っているという話を聞いたが、本当か?」
「おそらくは……みなさんでお集まりで何の御用ですか?」
イングリスが尋ねると、少々ばつが悪そうに、騎士の一人が返事をして来る。
「彼女に我々のした仕打ちを謝りたくて……な」
「「……!」」
イングリスとラフィニアは顔を見合わせる。
「私は先日の虹の王との戦いに従軍していたんだ……! 虹の王が倒れた後、大量の魔石獣が押し寄せて来た時、街を守るために必死に奮戦する彼女の姿を見たんだ……!」
「お、俺もだ……! 俺は直接、魔石獣にやられそうなところを彼女の黒い大剣に助けてもらった……!」
「我々は彼女を邪険にしたにも関わらず……な。自分達の行いが恥ずかしいよ、だから一言詫びを入れたいと思うのだ……」
「なるほど、そうですか」
イングリスは虹の王を撃破した後は気を失って、目覚めた時には戦闘は集結していたが、その後の掃討戦もかなりの激戦だったようだ。
虹の王は倒れても、虹の王が生み出した無数の魔石獣の大軍はまだまだ健在であり、それらが一斉に襲い掛かって来たからだ。
エリス、リップルも気を失っていたため、直後に目覚めたラファエルが獅子奮迅の大活躍で、レオーネもそれに次ぐと言われる程の活躍をしていたそうだ。
リーゼロッテも含め、戦功を認められ虹の王撃破の祝宴に呼ばれていた程だ。
その姿は、現場にいた騎士達には鮮烈に映った事だろう。
レオーネはこのアールメンの街を出る時、レオンを自分の手で捕らえてオルファ―家の汚名を晴らすと決意していた。
が、それとは別の形で、レオーネ自身がアールメンの人々の信頼を勝ち取り始めているのかも知れない。
「だったら初めからそう言ってくれたらいいのに! うんうん! 悪いと思ったら謝るのはとってもいい事ですよ!」
ラフィニアがぱっと顔を輝かせて何度も頷く。
「じゃあみんなでレオーネの所に一緒に行きましょ! さぁ入って入って!」
と、手招きして皆を門の中に誘おうとするラフィニア。
「ラニ、そんな勝手に……人の家だよ?」
「大丈夫よ、あたし達友達だし! きっとレオーネも喜んでくれるから!」
自分の事のように嬉しそうな、ラフィニアの笑顔。
こういう顔を見せられるとイングリスは弱い。
まして今の5、6歳の幼いラフィニアの可愛らしさは、普段より破壊力を増している。
「うーん、仕方ないか」
「よーし! じゃあ突入~♪」
と、ラフィニアは門を押し開こうとする。
「い、いやちょっと待ってくれ、勝手に入るのは……」
「そうだ、彼女が我々を許せないのならば、余計心証を損ねてしまう」
「できれば、要件を取り次いでもらえないか?」
騎士達は少々遠慮がちである。
こちらが幼児の見た目では、いいと言っても中々説得力もないだろう。
「え~。気にしなくてもいいのに」
と、ラフィニアが言った時、先に向こう側から門が開いた。
姿を見せたのは、エリスである。
先に庭に降りて門を開けてくれたようだ。
「あ、エリスさん。ありがとうございます」
ラフィニアは気軽に礼を言うが、驚いたのは詰めかけていた人達である。
この国の守り神たる天恵武姫のエリスが、ひょっこり姿を見せたのだ。
「「お、おおぉぉ……!?」」
「「え、エリス様っ……!?」」
「ほらほら、天恵武姫がいいって言ってるんだから、みんなで行きましょ!」
ラフィニアがそう促すが、エリスの表情は鋭かった。
「待って……! 危険かも知れない」
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