第373話 16歳のイングリス・レオーネの帰郷
アールメンの街、近郊。
「わああぁ……! ホントだ、アールメンにあの飛空戦艦が来てる!」
星のお姫様号の機上。
操縦桿を握るエリスの体に抱き着いたラフィニアが、そう声を上げた。
小さくなった体では機甲鳥の操縦がし辛いので、エリスが行ってくれているのである。
「修復は完全に終わったのね……」
エリスがそう呟く。
アールメンの街の中心、氷漬けの虹の王を安置していた大聖堂の頭上に、飛空戦艦が滞空していた。
足元の大聖堂も大規模な改修が進んでいる最中のようで、足場が組まれて慌ただしく人々が行き交っていた。
それは同時に、かなり活気づいた様子でもある。
安置していた虹の王が甦り、そして倒された今となっては、虹の王を監視する街としての役割を完全に終えたかのように思えるが、アールメンの街はまた新たな姿に生まれ変わろうとしているようだった。
それが、あの飛空戦艦の基地としてである。
あれは元々は、王都カイラルまで突撃して来たヴェネフィク軍の将ロシュフォールが率いていた戦艦であるが、イングリスが攻撃して不時着させ、鹵獲をしたものだ。
それが騎士アカデミーの備品とする事を許され、セオドア特使やミリエラ校長の指揮の元、生徒総出で修復をし、動かせるようになったのだ。
「あ~! あたし達が塗った色が塗り替えられてるうぅぅぅぅぅっ!」
ラフィニアが不満そうに頬を膨らませている。
「まあ全体がピンクなのは、ね……新しい騎士団の旗艦になるんだし。色々な作戦に使う事を考えたら、あまり派手な色にするのも良くないよ」
と、イングリスはラフィニアを宥める。
騎士アカデミーの皆で修理作業を行った時、ラフィニアとプラムが全体をピンクに塗りたくっていたのだが、流石に相応しくないと思われたようだ。
確かにイングリス達の私物の星のお姫様号ならば別だが、公的な物であれば仕方がないだろう。
この星のお姫様号の少女趣味全開のピンクの色遣いや、キラキラした可愛らしい目も、ラフィニアとプラムの友情の共同作業の産物だった。
「むうううぅぅぅ……せっかくプラムと頑張ったのになあ」
「まあまあ、ほら色は変わったみたいだけど、目は残ってるから大丈夫だよ」
飛空戦艦の船体側面には、ラフィニア達が書いたキラキラした目がそのまま残っている。それがあるからこそ、色が変わってもあの飛空戦艦だと一目で分かったのだ。
あれを旗艦に新しい騎士団が設立される事になったというのは、レオーネが手紙で教えてくれたのだ。
カーラリアには王国が抱える聖騎士団、近衛騎士団があり、その他にはユミル騎士団のようなそれぞれの貴族が自らの裁量で抱える戦力がある。
今回は、聖騎士団、近衛騎士団に次ぐもう一つの騎士団の結成という事になるのだろう。対魔石獣を主眼に置く聖騎士団と、王都や王族の守りを主眼とする近衛騎士団で役割分担は出来ていたと思うが、どういった主任務の騎士団なのだろうか。
そのあたりの詳細は分からないが、レオーネの手紙では飛空戦艦がアールメンに移されて、アールメンを拠点に新しい騎士団が出来るらしいと書いてあるだけだった。
ただ、セオドア特使もこちらに来ているとの事だったので、王都まで無駄足を踏まずに良くなったのは有り難かった。
「それにしても、レオーネも真面目って言うか、マメよね。お礼なんて休み明けに会った時でいいのに」
「それだけ喜んでくれたって事だよ。よかったね」
「いい事をしたと思うわよ。偉いわね、あなた達」
ここまで移動する最中に、エリスには事情を説明していたのだが、褒めてくれた。
「「ありがとうございます」」
イングリスもラフィニアも、エリスににっこり微笑み返す。
「……元に戻してしまうのが少し惜しいわね」
エリスはそんな二人に目を細める。
イングリス達が何をしたかと言うと、レオーネの実家のオルファー邸に関する事だ。
実はレオーネは、騎士アカデミーに入学する際、実家を引き払って王都に出てこようとしていたのである。
オルファー邸が残っている事により、アールメンの街の住民には見るたびに裏切者の街として苦い思いを引き摺らせる事になってしまうし、今後の学費や諸々の資金も足りないとの事だった。
では足りない分を援助しようと言っても、奥ゆかしいレオーネは断ってしまうだろう。
だからイングリス達はラファエルと相談し、レオーネには秘密で彼女が売ったオルファー邸を買い戻し、いつか戻れるように管理しておくように算段をしておいた。
正確にはイングリス達がそれを申し出た際、ラファエルは既にこちらが考えている通りの手を先回りして打ってくれていたのだが。
騎士アカデミーが休暇に入り、レオーネは虹の王との戦いで傷ついたアールメンの街の復旧を手伝えないかと帰郷したらしいのだが、そこでオルファ―邸がそのまま残っている事に気が付いたらしい。
館を売ったはずの商会に話を聞くと、館はそのままレオーネの物として残っており、戻っていいと伝えられたそうで、そこですぐに感謝の意を伝える手紙をしたためたようだ。
生真面目なレオーネらしい行動である。
「それで、まずはどこに行くのかしら? オルファ―邸?」
「はい!」
「お願いします、エリスさん。場所はあちらです」
イングリスがエリスを誘導し、星のお姫様号はオルファ―邸へと向かって行った。
そして段々、オルファ―邸の姿が目に入って来る。
以前訪れた時と同じだ。
立派な門構えに広い敷地だが、庭の中に一本も植木も無い、殺風景な様子である。
だが今回は、前回と少々違う部分があった。
館の門扉の前に人だかりが出来ており、中を窺っている様子なのだ。
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