第367話 16歳のイングリス・お見合いの意味19
「ぬん……っ!」
それを軽々片手で掴んだ武公ジルドグリーヴァは、軽く横に向けて剣を振る。
刀身を肩に担ぐための動きだったが、意図せず衝撃波が発生していた。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
それがイングリス達のいるクレーターから巨大な横穴を穿つ。
そして薄くなった地表部分が崩れ落ち、遥か遠くまで続く巨大な溝となっていた。
「おっとすまねえ……! こいつぁ威力がデカすぎるのが玉に瑕でなぁ!」
そう言う武公ジルドグリーヴァの体にも変化がある。
老紳士カラルドが変化した黄金の超巨大剣の輝きが、武公ジルドグリーヴァの体にまで浸透し、同じような硬質の黄金の体に変わって行ったのだ。
黄金に輝く超巨大剣を掲げた、黄金に輝く翼ある戦士。
これが武公ジルドグリーヴァの最終形だろうか。
見るからに神々しく、そして強烈な力が渦巻いているのが分かる。
その力は――
「これは……霊素……!?」
イングリスのものとはかなり波長が異なり、黒仮面のものともまた違う感じがする。
が、恐らく間違いはない。
イングリスを半神半人の神騎士とした女神アリスティアとはかなり違う種類の神、下手すれば魔神に近いような性質のものだ。
これまで武公ジルドグリーヴァは一切の魔素や霊素の力を見せず、強靭な肉体の力のみでイングリスに相対して来た。
が、ここへ来て老紳士カラルドが変化した剣と一体のようになる事により、膨大な霊素まで身に纏って来たのである。
これは今までより更に比較にならない程に戦力を引き上げて来た。間違いない。
これに対抗をするには、残された手段は多くは無いだろう。
「さあお前も勿体ぶるなよ、イングリス……! 見せてみろよ、虹の王を狩った力を……!」
「ふふふふ……そうですね、そうせざるを得ませんね。数の上でも二対二ですから、今度は卑怯というわけでもありません……!」
イングリスは笑みを見せながら、クレーターの縁に顔を向ける。
「エリスさ――」
だが視線の先に、エリスはいなかった。
既に一歩速く、イングリスの側に飛び降りて来ていたからだ。
「大丈夫。もういるから。私を使うんでしょう?」
「え、ええ……お願いできればと」
嫌がられるかと思ったが、イングリスが呼ぶ前に来てくれるとは積極的である。
が、エリスらしくないとも言える。
「いいわ。やりましょう」
「……らしくないですね?」
エリスは本人も言うように好戦的では無く、無駄な戦いは止めようとする方だ。
楽しみのために戦うのは、まだリップルの方が理解がある。
こんな行為は真っ先に怒りそうなものだが。
「……まさかこんな事になるなんて思っていなかったけれど、天上人の大将との手合わせは、決して無駄にはならないわ。今後のためにも……ね」
そのエリスの一言で、彼女の考えている事がおおよそ理解できる。
見比べようというのだ。
天上領側の最大戦力と、地上側の最大戦力の差を。
その結果如何によっては、地上側が天上領側に対して取れる態度も変わって来るからだ。
今までのような隷属を続ける事の是非に関わって来かねない問題である。
ただし、イングリスが世のため人のために最大限の協力と献身を惜しまない前提で。
「エリスさん……わたしに過度な期待をして頂いても困ります。わたしは世のため人のためには働きませんよ?」
「だけどあの子の、ラフィニアのためには働くんでしょう? だったらそんなに変わらないんじゃないかしら? あの子はいい子だから」
エリスはクレーターの縁からこちらを覗き込むラフィニアに、視線を向ける。
「……痛い所を突きますね」
「そろそろあなた達との付き合いも長くなってきたから、ね?」
エリスは一瞬悪戯っぽい笑みを浮かべた後、表情を凛と引き締める。
「さあ、やりましょう。今はあなたの思う通りに、楽しんでくれていいわ……! 付き合ってあげるから……!」
エリスはイングリスの方に手を差し出す。
「ええ、では……!」
イングリスは差し出された美しい手に、小さな子供の手を重ねる。
そこから爆発的に光が拡大。
黄金色の輝きの中で、エリスの女性の体が一対の剣となって行く。
そしてイングリスの両腰の横に、黄金の鞘に納められた形で顕現する。
見るだけでため息の出るような、極上の美しさを兼ね備えた形状だ。
「ほう……! いい剣だ! 気品がある、っつうのかな……! 見事なもんだ、だが少し華奢かも知れんな!」
「それはジル様の大物と比べるからでは……? それにこちらも、芯は強いですよ」
イングリスはエリスの双剣を両方抜き、体の前で交差させるように身構える。
「そいつぁ楽しみだ……! 見せてくれよ、その力を……!」
武公ジルドグリーヴァも、刀身を肩に担いだまま、半身の姿勢で腰を落として構える。
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