第359話 16歳のイングリス・お見合いの意味11
「い、いえ私は……イングリスは彼女です」
と、イングリスを指差す。
「わたしに何か御用でしょうか?」
「ほ? これは随分とお若い……」
と、老紳士の天上人は驚いたように目を見開く。
が、すぐににこやかな表情に戻った。
「私はカラルドと申します。どうぞお見知りおきを」
「イングリス・ユークスです。ご丁寧にどうもありがとうございます。それで、どういったご用件でしょうか?」
と、イングリスも丁寧にお辞儀を返してから、尋ねる。
「ええ、あれをご覧ください」
と、老紳士カラルドは頭上に浮かぶ天上領を手で差す。
「あれなるは武公様の本拠島リュストゥングに御座います」
「武公……!? 天上領の三大公が自ら動いているというの!?」
エリスの顔に緊張が走る。
「ご存じなのですか? エリスさん?」
「……天上領には三大公派と教主連合の二大派閥がある事は知っているでしょう?」
「ええ。セオドア特使は三大公派ですよね? その前のミュンテー特使も」
そしてミュンテー特使の時代から、魔印武具に加えて機甲親鳥や機甲鳥が下賜されるようになって来ているのである。
セオドア特使はウェイン王子と元々親交がある事もあり、その流れを一層強める方向に動こうとしている。
「ええ、そうよ。三大公とは技公、法公、武公の名を冠する三人の天上人のこと。つまり天上人の頂点に立つ者のうちの一人よ……!」
「おお……!」
「えぇ……!? つ、つまりセオドア特使よりももっと偉い人だって事ですよね……? ど、どうしてそんな人が……!?」
目を輝かせるイングリスに、怯えるラフィニア。
それを見てカラルドは好々爺の笑みを浮かべる。
「それだけご理解頂ければもう十分でしょう」
二、三度頷くと、視線を巨大な天上領に向ける。
「皆様、少々揺れますのでご注意を」
カラルドがそう言うと、この訓練場の丁度真上の天上領の底面にある隔壁の一つが開き――そこから、何かが飛び出て来た。
「「「……人!?」」」
機甲親鳥にも機甲鳥にも乗らず、単身そのままで空に飛び出している。
当然落下する。
ぐんぐん加速度がつく。空を切るような轟音が立つ。
豆粒くらいの大きさから少しずつその姿が大きくなってくると、その人物が腕組みした仁王立ちのまま、微動だにせず落下してくるのが分かる。
「たのもおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉうッッッ!」
ドガアアアアアアァァァァァァンッ!
大声。着地。轟音。確かにカラルドの言う通りに揺れた。
あんな高い位置から飛び降りてくるものだから、衝撃で訓練場の石床が大きく陥没し捲れあがっている。通常の人間なら即死しているだろうが、全く平気そうだ。
腕組みしたまま飛び降りて来たその人物は、炎のような真っ赤な長い髪をした、筋骨隆々の男性だった。
見た目の年齢は二十代中頃だろうか。
顔立ちは美しいと言える程整っているのだが、本人にはそういう事に拘りが無いのか、身なりや着こなしは適当なものだ。
それも逆に、本人の立派な体格を引き立てる結果になっているかもしれないが。
明らかに鍛えに鍛え抜かれた強靭な肉体をしている。
「武公ジルドグリーヴァ様に御座います」
老紳士カラルドが恭しく一礼する。
「こちらがイングリス殿に御座います」
「ほう……? だが見た目なんぞ関係ねぇ、要は力よ! ここに来れば天恵武姫を振るい、虹の王を討った強者と戦えると聞いたぜ!? まさか天上人との見合いは受けんなどとは言わねぇだろうな!?」
武公ジルドグリーヴァは、肩書に見合わない随分砕けた口調だった。
顔立ちとニカッと明るい笑みは爽やかなのだが、少々暑苦しくもある。
「「う……うわぁ」」
ラフィニアとエリスが、声を揃えて複雑そうな顔をする。
思ったのだ。まるで誰かを見ているみたいだ、と。
「い――!」
「うん……? 嫌だと……? ならこっちにも考えが――」
「いらっしゃいませ! ようこそおいで下さいました! ではお相手致します!」
イングリスは目をキラキラと輝かせ、即座に戦闘の構えを取る。
最上位の天上人が自ら出向いて戦いを挑んでくれるなど、願っても無い!
断るなどあり得ない、早速手合わせだ。相手の気が変わらないうちに。
他の相手に来てもらえなかった分、楽しませて貰おう。
「おぉ話が早えぇじゃねえか! 助かるぜさぁ来い! 幼女!」
武公ジルドグリーヴァも喜色を表情に出して構えを取る。
「はいっ! ではっ!」
ジルドグリーヴァは一部の隙も無い、一見して分かる見事な構えだ。
こういう時は隙など窺わない。
――真っ向から、突っ込む!
イングリスはジルドグリーヴァに向けて真っすぐ突進。
五歳の小さな拳を、思い切り振り抜いて繰り出す。
それに合わせるように向こうの大きな拳も繰り出され――
「はああぁぁぁぁっ!」
「よっしゃあぁぁっ!」
ドゴオオオオオオォォォンッ!
轟音が響き空気を震わせる。
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