第353話 16歳のイングリス・お見合いの意味5
ユミル城内、騎士団の訓練場――
「やあああああぁぁぁっ!」
ドガガガッ!
アリーナの手にした小ぶりな戦槌の魔印武具が、岩の礫を生み出し、離れた位置にある木の的を撃ち、破壊した。
「おおおおぉぉぉぉ~っ! 凄いじゃないアリーナちゃん! ついこの間から魔印武具を使い始めたばかりなのに」
ラフィニアは自分の事のように、いやそれ以上に嬉しそうにアリーナを褒め称える。
その様はまるで親馬鹿。つまり、ラフィニアを見るイングリス自身と同じである。
ラフィニアもこの気持ちが分かるようになったのか、と感慨深い気分である。
「上手だよ、アリーナちゃん」
イングリスも拍手をして、アリーナを称える。
実際よく出来ていると思う。
「えへへっ。ありがとう、お姉ちゃん!」
アリーナは笑顔で胸を張る。
「あの子は上級印の持ち主です。下級の魔印武具の扱いは難しくないのでしょう。すぐに慣れたようですよ」
そう教えてくれるのは、ユミル騎士団の副団長エイダだ。
ちなみに団長である父リュークはビルフォード侯爵と共に王都カイラルにいる。
まだこれまでの一連の事態に対する事後処理が続いているのだ。
その一環で、父リュークやビルフォード侯爵が王都に出向いている。
イングリス達がユミルに里帰りしてくる前に、二人には挨拶して来た。
アリーナが上級印を持っている事は、イングリスもラフィニアも前から知っていた。
イングリス達が潜入のためアルカードに発つ前だ。
母セレーナと伯母イリーナがアリーナを連れてユミルに戻る前に、王都の教会でアリーナの洗礼を行ったのだ。
アリーナはイングリスの見た所魔印の才能がありそうだったが、人買いに売られて苦労をしていたため、それまで洗礼を受ける機会が無かったのだ。
結果は見事に戦槌の形の上級印。
アリーナも喜んでいたが、実はそれ以上に嬉しいのはユミル側だ。
上級印を持つ騎士は、騎士団にとってとても大きな力になる。
普段イングリスの近くにいるラフィニアやレオーネやリーゼロッテやプラムは、皆上級印を持っている。
だから錯覚しがちになるが、上級印とはそんなにありふれたものではない。
数百人に一人、いやもっと確率的に低いかもしれない。それ程希少なものなのである。
王立騎士アカデミーという最高峰の養成機関だからこそそうなるわけで、ラフィニア達も一般的に見れば、選りすぐられた精鋭中の精鋭なのである。
それに並ぶ素質を持つアリーナは、大きく期待されると共に、快く迎え入れられた。
ユミル騎士団預かりとなり、早速見習いを始めているのだ。
「アリーナちゃんを任せきりにしてしまって済みません、エイダさん」
自分達はまだ騎士アカデミーの学生の身。
アリーナを引き取って保護者になってあげる事は出来なかったのだ。
「ありがとう、エイダ!」
「いえ、そんな……! この子はきっとユミルにとって大切な力になってくれると思いますし、わたしも孤児で、ユミルの騎士団で育てて頂きました。だから今度は私がご恩返しをする番です」
「エイダさん……」
「そうだったわね。エイダもアリーナちゃんと同じ……」
イングリスとラフィニアも小さい頃から騎士団と行動を共にして、魔石獣討伐や訓練を繰り返していた。
その際、一番よく二人の面倒を見てくれたのがエイダだ。
二人にとっては姉のような存在に近い。
だからその身の上はアリーナと同じ孤児で、ユミル騎士団に引き取られて育ったというのは話してもらった事があった。
身寄りのないエイダだからこそ、イングリスとラフィニアをとても可愛がってくれたという面もあるだろう。
「あ、私の事なんて気にしないで下さいね? それにお二人は虹の王を倒すという途轍もない大仕事をなさっていたのです……! 本来ならば私共もお二人にお供すべき所を、力不足で申し訳ありませんでした」
「大丈夫大丈夫。あたしも大して役に立ってないから。ほぼ見てただけだし」
ラフィニアが手をひらひらとさせながら軽口を叩く。
「そんな事ないよ。わたしを助けようとしてくれて、嬉しかったし力になったよ?」
「そうかなあ? あたしには全然そんな気しないけど」
「気のせいだよ? 十分力になって貰ってるから」
「だったらいいけど――」
「ふふっ。良かったら虹の王との戦いについて、どうだったか詳しく聞かせて頂けませんか? きっと我々にも身になる話かと思いますので」
「んー……それは――」
と、ラフィニアは悩むような顔をする。
あまり詳しく話すと、イングリスがラファエルを殴って気絶させて出番を奪った事や、諸々の問題行動も明らかになってしまうのだ。
ラファエルの名誉のためにも、あまり言わない方がいい気がする。
「ま、まあ少しだけなら……色々と言えない事もありますので」
「ああ失礼しました。国家機密のようなものもありますよね」
「お姉ちゃん達、虹の王を倒してこの国を救ってくれたんだよね? 私そんな凄い人達に助けて貰って……いつかお姉ちゃん達みたいになれるといいなあ」
と、アリーナが憧れの眼差しを向けてくる。
「結果的に、ね? クリスの場合は全てにおいて結果的に、が付くから気を付けた方がいいわよ? あんまり見習っちゃダメだからね?」
「え、ええ……っ!? どういう事……?」
アリーナが戸惑っている。
「だって今度もね、お見合いの話が沢山来たってなったら、わたしを倒せたら結婚してやる! って言って、お見合い相手と戦おうとしてるのよ? クリスは何でも戦いでしか判断しないの。ねえどう思うアリーナちゃん?」
「ラニ、そんな人聞きの悪い事をアリーナちゃんに……」
「よ、良く分からないけど……結婚は好きな人とするものだから、強い人とするものじゃないと思う……」
意外と芯を喰った返答が。
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