第352話 16歳のイングリス・お見合いの意味4
「「「見習う……!?」」」
「申し込みを頂いた皆様にお伝えください! わたしを妻にしたいというのであれば、わたしを倒してからにして頂きましょうか、と! わたしを倒す方がおられたら、その方との将来を真剣に考える事にします……!」
「う、うわ~……これぞ、この親にしてこの子あり、ね……」
伯母イリーナが頭が痛い、と言いたげに額を抑える。
「ね、姉さんが余計な事を言うから……! クリスちゃん、よく考えて? あなたは虹の王を倒したほどなんだから、そのあなたがそんな事を言ったら誰も来て下さらなくなるでしょう……!?」
「あれはわたし一人の力ではありません。エリスさんとリップルさんの力を借りてこそですし、それに何もわたしと一対一で戦って頂く必要はありません。配下の騎士を使っても、傭兵を雇っても、その他どんな手段を使って頂いても構いません! 本人の力もさることながら、その権力も人脈も資金力も、どれもが人の器の一つの側面……! 十分に戦力を整えてお越しくださいとお伝え頂けますか!?」
それならば、イングリス自身も楽しめる。
両家の貴族に仕えている精鋭の騎士団。各地を流浪している凄腕の傭兵。何だったら魔石獣でも何でも良いし、まだ見ぬ強者が向こうからやって来てくれるなんて、いい事ではないか。探す手間が省ける、というやつだ。
そして勿論、全員叩きのめして最後は自分が勝つ。
楽しむだけ楽しんで、婚約はしない。
ただ食いだ……! 楽しんで戦って、自分の自由の身も守る。一石二鳥である。
「……そ、その条件なら、ある意味お相手の総合的な能力を見せて頂けるという事になるのかしらねえ……?」
「その通りです、伯母上! いいですよね、母上!? 何せ母上と同じですし……! それならば、わたしも楽しくお見合いできそうですから!」
「し、仕方ないわね……分かったわ、一応皆さんにそうお伝えしておくわね……」
「やった! ありがとうございます、母上」
イングリスはとても嬉しそうにぽんと手を打つ。
「ははは。それもうお見合いの意味が違ってきそうだけど……お見合いって戦う前の睨み合いの事じゃないと思うわ……」
「ふふふっ。楽しいよね? お見合い。知らなかったなあ♪」
「……思いっきり負けてみたらいいのに。どんな顔するか見てみたいわ」
小声でぼそりと言うラフィニア。
「え? 何、ラニ?」
「なんでもなーい! でもあたしは普通にお見合いするからね……! 素敵な人がいてくれるといいなあ……! 何人かかっこいい人もいたのよね~」
目を輝かせるラフィニアに、イングリスは待ったをかける。
「いや! それはそれで別途話し合いの余地があるから! 伯母上! ラニのほうも同じ条件を付けて頂く事は出来ませんか? わたしがラニの従騎士なのですから、当然わたしに勝って頂けないと、ラニを任せるのに不安が残ります。それまでより安全という面では落ちてしまうと思うのですが!」
「こら! わけの分からない理屈で、あたしのお見合いまで邪魔しようとしないの! 大体クリスはあたしを守るのと自分が戦いたいのとを両立させるために、あたしを最前線に連れて行くじゃない! 何度もすっごい危ない目にあったんだから!」
「それが一番安全だから! 最適なんだよ、最適行動……!」
「ふふっ……暫く見なかったけど、相変わらず仲がいいのは何よりだわ」
「そうね、姉さん。それだけはずっと変わらないでいて欲しいわね」
と、伯母イリーナと母セレーナが笑い合っている中――
コンコンコン。
扉をノックする音。
「はーい、どうぞ!」
伯母イリーナが返事をする。
「お姉ちゃんっ!」
顔を輝かせ息を弾ませ、駆け込んできたのは――
肩くらいまでの金髪の、十歳程の可愛らしい女の子だ。
「「アリーナちゃん!」」
王都でイングリス達がワイズマル劇団の講演の手伝いをした時に知り合った少女、アリーナだった。身寄りを無くした彼女を、ユミルで引き取る事にしたのだった。
顔色も良く表情も明るく、元気そうだ。
かなり痩せていたのも、少しふっくらしてより可愛らしくなったかも知れない。
「わー! 会いたかったよ! 元気そうでよかった!」
「お勉強は終わったんだね? 呼び出してごめんね?」
やはりアリーナがどうしているかは気になっていたので早く会いたかったのだが、勉強の時間だという事で、終わったら呼んでもらう事にしていたのだ。
ちゃんと時間を決めて勉強が出来ているようで、とても偉い。
アリーナは十歳くらいだが、当時のラフィニアはこうはいかなかった。
「ううん! 私もお姉ちゃん達に会いたかったから!」
アリーナは満面の笑みでそう応じてくれる。
昔のラフィニアを見ているようで、とても微笑ましい。
お行儀はラフィニアよりアリーナの方が良さそうだが。
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