第338話 15歳のイングリス・虹の王会戦16
「――どう、効いてる……!?」
眩しさに目を細めながら、ラフィニアが声を上げる。
が、即答できる状態にない。
虹の王の力の存在感はそのまま。
ウネウネと蠢いているのもそのまま――
いや、眩しくて朧気だが、形が定まって来たかも知れない。
「クリス――どうなの……!?」
「――もしかしたら、ダメかも……!」
消滅して行くどころか、力が増していくかも知れない。
人型の魔石獣を大量に取り込んでいるからだろうか?
それとも、ユアのこの攻撃を吸収している?
確かに、ユアの今の力には、魔石獣の――
虹の王の力が一部取り込まれているように見える。
以前戦った獣人種の虹の王の幼生体のものだ。
その証拠に、その力を振るう時はリップルに似た耳や尾がユアにも現れる。
それは別にいいだろう――別に魔石獣の力であれ、ユアがユアとして力を振るえるならば何でもいいし、強くなるならもっといい。
手強い手合わせ相手は何人いても困らない。
だが虹の王の力を取り込んでいるから、攻撃を吸収されるのか?
虹の王といえども別の個体であり、全く同じ性質ではない筈なのに。
そもそも虹の王の力はユアの一部であって、元々は別なのだ。
それとも、イングリス達が駆けつける前にユアが事前にこの虹の王と戦っていて、攻撃への耐性が既についていた――?
目の前の現象への答えは出ないまま――結果だけは出た。
虹の王が人型の魔石獣を吸い込む動きが止まった。
まだ吸い込まれていなかった氷の塊はバラバラと、付近に落下して行く。
モーリスを封じ込めているという氷の塊も、守ることが出来たが――
「と、止まったわ――! もう大丈夫かな……!?」
「うん、そっちは……! けど――」
光が収まるとそこには、形の定まった虹の王の姿があった。
それは、イングリスが上半身を吹き飛ばす前とは全く別のものだった。
頭部は前と同じ、迫力と威厳を兼ね備えた巨鳥のもの。
背の大きな翼も変わらない。
が、それ以外――手足胴は鳥のそれではなく、人間の骨格をしていた。
そしてその体の大きさは、前の数分の一程度。
それでもイングリスの三倍近くあるが――前に比べれば随分と小さい。
だがその体に凝縮されている力のうねり――感じる迫力や威圧感は前以上だ。
「な、何よあれ――!? 前と違うわ――」
「人型を取り込み、進化したとでも――? ふふふふ……この世界は不思議がいっぱいだね?」
完全体の虹の王が更に進化して強化されるなど――予想外だ。
流石としか言いようがない。素晴らしい。
前世のイングリス王の時代にも、これ程の怪物は見たことがない――
「で、でも……! 大丈夫よね? クリスならやれるわよね――?」
「分からない――大丈夫とは言い切れないかな?」
イングリスは素直に感じたままを伝える。
「え……!? く、クリスがそんな事言うなんて――!」
ラフィニアは一気に不安そうな顔になる。
「――でも……燃えるね!」
イングリスはグッと拳を握って笑顔を見せる。
「もう、燃えてる場合なの――!?」
だが少々安心したらしく、ラフィニアも少し笑みを見せる。
「好きこそ物の上手なれ――だからね? 何事も楽しまないと。ユア先輩、ラニを頼みます――近くにいると危ないですから」
「いや、ムリ」
ユアはあっさり断って来る。
見ると、何か虹色に輝く触手ようなものでぐるぐる巻きにされ、転がっていた。
「ユア先輩……!?」
「な、何やってるんですか――?」
「なんか、生えて来た――ふんっ、ふんっ――ダメ、動けない」
ユアは抜け出そうと力を込めているようだが、難しいようだ。
「じゃあラニ、ユア先輩を乗せて、離れていて――」
転がったユアを星のお姫様号に積み込もうとした時――
「うああああああああっ!?」
こちらに近い位置にいた、機甲鳥の機上だ。
乗っていた騎士が苦しみ出し、その体が見る見る魔石獣に変わって行く。
「――!」
何の攻撃も無く、ただそこにいるだけでそこまでの影響を与えるとは――
確実に虹の王の力が増大している証。
それに何より――
「ラニ! 危ないよ! 速く!」
ラフィニアが危ない。
自分は霊素に守られているからいい。
ユアもよく分からない所はあるが、特殊な存在である。
だがラフィニアは――
あの騎士がどの魔印の持ち主なのかは分からない。
だがこちらより遠いあちらが魔石獣に変わって、ラフィニアが無事な所を見ると、あちらは中級以下。
魔印の強さによって耐性が違ってくると推測するが――
だからと言って、いつまで無事かなど分からない。
あまりにも危険過ぎる。
今この瞬間にも、背筋が凍り付きそうな程に恐ろしい。
一刻も早く退避させないと――
「う、うん……!」
ラフィニアは星のお姫様を再始動させようとするが――
いつもは元気よく唸りを上げるはずの星のお姫様が、沈黙して動き出そうとしてくれなかった。
「う、動かないわ……! 故障――!?」
先程虹の王に吸い寄せられている時、力任せに強く引き摺り下ろし過ぎただろうか。どちらにせよ、間が悪い。
「なら――」
言いかけた所で、背後に大きな影が差しかかるのを感じる。
虹の王が一瞬で間合いを詰めて来ており、拳を振り下ろそうとしているのだ。
「くっ……! せっかちですね――!」
イングリスは竜鱗の剣の刀身で、大きな拳を受け止める。
ガイイイィィィンッ!
衝撃音。刀身が軋む程の強烈な衝撃を感じる。
受け止めたほうのイングリスの足元がひび割れて、足が地面に埋まってしまいそうだ。
「ラニ、走って! ユア先輩も連れて!」
「う、うん――!」
ラフィニアがユアを抱え上げようとして――
「遅いな。それでは、間に合わんだろう――」
上から声――赤い長い髪が大きく揺られているのが見えた。
「――システィアさん……!?」
やはりこの戦場に――
「こちらは任せておけ――」
言ってユアとラフィニアを軽々抱え上げる。
「ひゃっ!?」
「いいパワーだ。ねえちゃん――」
「システィアです。忘れないで下さい」
どうやらシスティアは、二人を避難させるのを手伝ってくれるようだ。
「ありがとうございます。助かります――!」
「フン。助太刀はせんぞ。ヤツと共倒れになるがいい、私達にはそれが好都合だ」
システィアは高く跳躍し、その場から離れて行く。
――これで、虹の王の拳を組み止めておく必要も無くなった。
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