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第336話 15歳のイングリス・虹の王会戦14

「いい攻撃です――! ならば――!」


 イングリスは霊素殻(エーテルシェル)を発動し、剣を構える。

 本体に当てるのではなく、攻撃を捌くためだけであれば、霊素(エーテル)を使っても問題ない。


 イングリスの手を伝って、竜鱗の剣の刀身に霊素(エーテル)が浸透。

 それをそのまま、眼前に迫る虹色の羽を薙ぎ払う。


 バシュウゥゥンッ!


 音を立て、いくつもの虹色の羽が消え失せる。

 だが、今の一太刀でせいぜい七つ八つ程度。

 全体の数からすれば焼け石に水だ。しかも、圧倒的な数がすぐ迫っている。


「はああぁぁぁ――っ!」


 イングリスは高速で剣を繰り出し続け、体に触れそうな虹色の羽を次々薙ぎ払う。

 密度対剣速のせめぎ合いだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゥッ!


 全方位から密集してくる虹色の羽に対し、高速で唸りを上げる剣閃が、見えない壁を作っている。


 だが、流石虹の王(プリズマー)の攻撃は、これだけでは完全に防げなかった。

 ごくわずかの虹色の羽は剣閃の壁をすり抜けて、イングリスに触れて来るのだ。


「っ……!」


 太腿のあたりに、軽い痛み――

 ちらりと視線を来ると、肌が裂けて血が滲んでいる。


 これだけなら大した傷ではないが――

 霊素殻(エーテルシェル)を身に纏ったイングリスの防御を貫いて来た。

 霊素(エーテル)の波動に包まれたイングリスの体は、分厚い鎧や下手な竜の鱗よりも頑強だというのに――


「ふふふ――もしまともに全部直撃したら、命はありませんね……!」


 だが、それがいい――

 そういった危険な戦いこそ、最も血沸き肉踊る。

 イングリスを更なる高みに引き上げてくれる。


 こうしている間にも、更に剣の結界をすり抜けてくる虹色の羽は増える。

 右腕も浅く傷つき、下腹部や腰のあたりの服が裂け、胸元も少々開いた。


 じりじりとこちらが押されているのは、疑いようがない。


「ならば――! 竜理力(ドラゴン・ロア)っ!」


 更なる力を注ぎ込む!

 そしてイングリスの傍に出現したのは――

 いつものような白い半透明の竜の尾ではなかった。


 白く半透明なのは同じだが、竜鱗の剣とそれを握るイングリスの両手を象っている。


「よし――!」


 竜の尾の形をしていないのは、それだけ力がイングリスに馴染んで来たからだ。

 竜理力(ドラゴン・ロア)の扱いが成長した証である。


 竜の尾は、フフェイルベインの体の一部。

 これまでは神竜フフェイルベインからの借り物に過ぎなかった。


 剣もフフェイルベインの鱗から出来ている。

 竜理力(ドラゴン・ロア)と馴染みやすいというのはある。

 が、握った腕も象れているのは明らかな成長だった。


 竜理力(ドラゴン・ロア)の扱いも、常に怠らず修練している。

 ここに来る前、ロシュフォールと戦えたのが特に大きかったかもしれない。


 あそこで竜理力(ドラゴン・ロア)を使った大技を使った事で、何かコツを掴めた気がするのだ。


 アールメンへと向かう星のお姫様(スター・プリンセス)号の機上でも練習していた所、竜の尾ではなく自分の体の一部を竜理力(ドラゴン・ロア)で出す事が出来た。


 そして自分の腕を象ったそれは――

 本当の自分の腕と同じような速度、精度で動かすことが出来る。


「この衣装も気に入っていますので――!」


 これ以上傷つけさせるわけには行かない。

 持ち帰って時々引っ張り出して着て、鏡の前で楽しむのだ――!


 竜理力(ドラゴン・ロア)で生み出した剣と腕も、虹色の羽を斬り払い始める。

 こちらの手数が増えたことにより、剣閃の壁をすり抜けてくる虹色の羽が無くなる。


 攻撃を完全に封鎖し、羽の数だけを一方的に減らしていく。


 だがそれを虹の王(プリズマー)も感じたのか、別の動きを見せる。


 ルゥオオオオオオオォッ!


 地を蹴って光の檻の天井付近に飛び上がると、その体全体を虹色の光が覆う。

 まるで巨大な光弾である。

 足止めしているこちらに突撃して、一気に潰すつもりだろう。


 虹の王(プリズマー)がこちらの息の根を止めようと繰り出して来る大技だ。

 その破壊力は想像を絶する。まともに食らうわけには行かない。


 巨大な光弾と化した虹の王(プリズマー)が、イングリスに向かって急降下を始める。


「速い――!」


 その巨体からは信じられない程の速度。

 ――が、イングリスの目に留まら無い程ではない。


 降り注ぐ虹色の羽の隙間を縫いつつ、あれを躱してやり過ごす。

 光の檻の足場は、こちらの動きを多角的にさせてくれる。

 それを駆使すれば――決して不可能ではない。


「ギリギリまで引き付けて――!」


 だがそのイングリスの目論見は、次の瞬間崩れ去っていた。

 光の檻が、小さくなったからだ。


 急激に収縮し、イングリスが動き回ることのできる広さを奪ってしまった。

 そこにあの巨大な虹の王(プリズマー)を包み込む光弾。


 ――物理的に身をかわす場所がない!


「ふふふふ――素晴らしいですよ……! 流石です――!」


 逃げ道を塞がれてしまった。

 これは回避できない。防ぐ事も出来ない。

 確実にこちらは、追い詰められている。


 もはや打つべき手は一つ――

 叩き落すしかない。やられる前にやるのだ。


 この虹の王(プリズマー)の力の底は、イングリスにはまだ見えていない。

 相手の強みを受け止めて――の受け止める部分が、未達成だ。


 それなのに、勝負手に出なければこちらがやられる。

 これはそういう状況だ。

 流石は完全体の虹の王(プリズマー)


 結果の見えない、完全なる果し合い――

 やってみなくては、分からない。

 だが、それがいい――!

 逃げるのも時間稼ぎも止めだ! 叩き潰す!


「ならば、こちらも――!」


 カッ――!


 竜鱗の剣の刀身が、激しく輝き始める。

 霊素(エーテル)を全力で注ぎ込むのだ。

 この剣には、イングリスの全力を受け止めるに足る器がある。


 青白い光はどんどん輝度を増し、見る見る膨れ上がって行く。

 それは、虹の王(プリズマー)を覆う輝きに勝るとも劣らない。


「まだ――もう一歩っ!」


 伍するのではない。飲み込め――!

 更に霊素(エーテル)を絞り出すと、刀身はもう一段激しく強く、輝きを増す。


「行けええええぇっ!」


 大きく一歩踏み込みつつ、全力で刀身を振り下ろす。

 同時に剣に収束させた霊素(エーテル)を開放。


 剣の軌道の形をした霊素(エーテル)の塊――

 それが行く手を塞ぐ虹色の羽を蹴散らし、虹の王(プリズマー)へと疾走する。


 バシュウウウウウウウゥゥッ!


 霊素(エーテル)の剣閃と虹の王(プリズマー)の体が正面衝突。

 空中でお互いの威力と勢いが押し合い、激しく光と音とを撒き散らす。


 ――拮抗。ならばこれは、好機!


 すかさず地を蹴り、前方に突進。

 おあつらえ向きに、虹色の羽も吹き飛び、目の前は開けている。

 イングリスを阻むものは、何もない!


 一瞬で霊素(エーテル)虹の王(プリズマー)の衝突点に滑り込むイングリス。

 竜理力(ドラゴン・ロア)も可能な限り集中済み。

 イングリスの竜理力(ドラゴン・ロア)自体の飛距離は長くないが、もう十分に届く範囲だ。


「――!」


 輝きの中の虹の王(プリズマー)がこちらの動きを察知した様子で、視線を向けてくるが――


「もう遅い! はああああああぁぁぁっ!」


 ――霊竜理十字(エーテル・クロスロア)


 横薙ぎの剣とそれを握る腕を模した竜理力(ドラゴン・ロア)が、力の衝突点に飛び込んで行く――!


 ドグウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥンッ!


 巨大な爆発、閃光――!

 夜空に一瞬太陽が現れたかのような、圧倒的な輝きだ。


 後発の竜理力(ドラゴン・ロア)によって起爆された霊素(エーテル)の剣閃は、

その破壊力を数倍にも跳ね上げ、虹の王(プリズマー)を飲み込んだ。


 キュオオオオオオオオォッ――!


 虹の王(プリズマー)の悲鳴のようなものが同時に尾を引いている。


 余りに強烈な爆発の衝撃は、イングリスの身体も遠くに弾き飛ばしていた。

 霊竜理十字(エーテル・クロスロア)は光の檻も破壊していたため、壁に受け止めて貰えずかなりの距離が出て――

 結果的にそのおかげで、空中で態勢を立て直す余裕が出来た。

 地を滑り土煙を上げながら、イングリスは着地をする。


「――少し間合いが近かったですか……!」


 おかげで衝撃波を被ってしまった。

 少し破れていた衣装の損傷がまた進んだ。これは由々しきことである。


 竜理力(ドラゴン・ロア)が馴染んで、自分の体を象れるようになったはいいが、フフェイルベインの尾を模していた時の方が、間合いとしては遠くまで届いていた。


 より威力は向上したと思うが――間合いの取り方は工夫の余地がありそうだ。

 技術は日進月歩である。また突き詰めていこう。


「次のあなたとの戦いでは――」


 イングリスは虹の王(プリズマー)にそう呼びかけようとし――途中で止めた。


「失礼。その様子ではもう、無理そうですね――」


 虹の王(プリズマー)は胴体の半分より上が完全に吹き飛び、下半身のみになっていた。それが地面にどさりと落ちて転がり、動かない。

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[一言] ……終わり!?何か呆気無さ過ぎて拍子抜けするなぁ 復活して第二ラウンドとか?
[一言] おおー!倒した、凄い。 なんか最後あっさりだったなw
[気になる点] さ、流石にここから復活はしないよな??
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