第332話 15歳のイングリス・虹の王会戦10
「……クリス――!?」
「あの子――間に合ってくれたのね……!」
「イングリスちゃん……! ナイス、ナイスだよ!」
「よ、良かったあ……今の攻撃、街に到達していれば味方は全滅でしたよぉ」
「これ程心強い援軍はいませんね……! イングリス君には、虹の王を撃破した実績があるのだから――!」
皆が注目する中、イングリスは目を見開き、そしてキラキラと輝かせていた。
「すごい――流石、完全体の虹の王……!」
今こちらの攻撃で、虹の王は後方に吹き飛んで行った。
――逆に言うと、吹き飛んだだけだった。
こちらは霊素殻を発動した状態で、竜鱗の剣で斬りつけたのにも関わらず――だ。
霊素殻を発動する事で刀身に霊素が浸透し、単なる物理的攻撃ではなくなり、魔石獣にも通用する攻撃となる。
霊素に剣自体の強度、切れ味と合わさった威力は、以前イングリスが撃破した獣人種の虹の王の幼生体ならば一刀両断していただろう。
神竜フフェイルベインですら、その超強度の鱗を斬り裂かれ、無事では済まなかったはずだ。
つまり、最低でもフフェイルベインを超える身体的強度があの虹の王にはある。それは明らかな事実だ。
流石は幼いころから目標としていた、最大最強のこの世界の脅威――
しかも黒仮面やフフェイルベイン、それから彼を取り込んで機神竜になったイーベルのように、戦いを避けたりする発想を持たない、完全なる敵対者だ。
イングリス・ユークスとして、これまで修練に修練を重ねてきた集大成を試す時。
別の言い方をすれば、試させてくれる相手が目の前にいる――!
見たところラファエルはまだ無事、アールメンの街を襲おうとしていた危険な攻撃も防ぎ、大きな被害はまだ出ていない。
つまり、概ね間に合ったと言っていいだろう。
ここからは――念願の虹の王との手合わせの時間だ。
「――それでこそです。初めてアールメンでお会いして以来、動いているあなたと手合わせできる日を楽しみにしていましたよ? うふふふふふ……」
イングリスは満面の笑みを、遠くに吹き飛んで行った虹の王に向けた。
そこに、一機の機甲鳥が地上のイングリスに向かっていく。
ラフィニアの操縦する星のお姫様号だ。
「クリス~~! 大丈夫!?」
「うんラニ、多分ギリギリ大丈夫だよ。ほら、ラファ兄様達もいるよ、元気そう」
イングリスは空にいるラファエル達の方を指差す。
「うん、良かった――!」
「そうだね、寄り道してたせいで間に合わなかったら、大変だったよ。これなら、ふふふ――ここからは、好きにやらせてもらおうかな……!」
「ま、まあ今回ばかりは許可するけど――その前にやることがあるでしょ! 行くわよ、乗って!」
「うん、そうだね。邪魔が入らないようにしなきゃね」
「言い方! みんなを避難させるのよ!」
イングリスが星のお姫様号に飛び乗った所で――
「ラニ! クリス!」
ラファエルの方から、こちらの方に降りて来ていた。
「あ……! ラファ兄様ッ!」
ラフィニアは一目散にラファエルに飛びついていた。
代わりに肩車中のユアが振り落とされていたが、それはイングリスが受け止めて星のお姫様号へ。
「わ……っ!? ラニ――!?」
「良かった。また会えた……! 良かった――!」
「――ごめんよ、ラニ。心配かけたね……」
「ぐすっ……! ホントよ! すっごくすっごくすっごーく心配したんだから! ごはんも喉を通らないくらい!」
気丈に振舞ってはいても、いざラファエルを目の前にすると――少々気が緩んでしまうのは仕方ないだろう。
純粋で情け深く、そしてまだまだ未成熟な少女なのがラフィニアだ。
そしてそういう所は、イングリスにとっては可愛らしくて仕方がない。
「ごめんよ。ラニ――心配かけたね」
「うん……! うん――!」
その光景は微笑ましい事この上なく、そしてこれを甘えや油断でもぬか喜びでもなく、微笑ましいで済ませるために自分がいる。
まあ、ただ一つ言うとすれば――ごはんが喉を通らないというのは話を盛り過ぎだが。
「イングリスちゃん! 待ってたよ――!」
「さっきの虹の王の攻撃をいなしてくれたのもあなたね……! よくやってくれたわ――!」
「うんうん――! どうやったのあれ?」
エリスとリップルは、イングリスの元へとやって来る。
「いえ、大した事はしていません。あの光の壁の攻撃はかなり危険に見えましたが、幸い地面を這って進んでいましたので――地面の方を斬り飛ばして方向を逸らしました」
と、竜鱗の剣をぽんと叩く。
霊素を力をぶつけて相殺するよりも、物理的に地面を斬って逸らす方が力の消耗も少なく対応も素早くできた。
やったことは霊素殻を発動しながら竜鱗の剣の刀身を地面に突き刺し、光の壁に沿って走り抜けただけである。
そしてそのまま、虹の王に斬りかかったところ、斬れずに吹き飛んでその強度に感動したというのが今の状況だ。
「なるほど――ね。まあ大した事はしていると思うけれど……」
「だねえ……あの一瞬であんなに地面削れちゃってるし――」
エリスもリップルも、地面に現れた膨大な破壊痕を呆れるように見ている。
街の横幅以上もある空堀が突然出現したかのようだ。
「それよりもお二人とも、遅れてすみません。お待たせしました」
イングリスはたおやかな笑顔で、二人にぺこりと一礼をした。
「そしてありがとうございます、とても良い獲物を残しておいて頂いて。ふふふっ」
「――ははは。うわー、可愛い笑顔だね~……」
「ま、まあこの際、余計なお小言を言うつもりはないわ……それよりその恰好は――?」
「あ、はい。あくまで今回の事態における臨時的な措置ですが、国王陛下よりわたしとラニの二人で近衛騎士団長を拝命しました。この装束はその証です。このカーラリアの文化、伝統からしてそれが相応しいとの事で――まあ、首席はラニですのでわたしは補佐ですが」
「「ええっ……!? 近衛騎士団長――!?」」
「はい。そして王命により、虹の王を撃退するように――と」
「ほら、ラファ兄様も見て――!」
ラフィニアは星のお姫様号に飛び移るとイングリスに並び、皆に外套の紋章が見えるように、背を向けた。
「そ、その紋章は確かに……! 国王陛下のご命令がなければ与えられないものだ――」
「そ、そうだね――イングリスちゃんの好き放題にやらせろって事かな……?」
「ええ――決して見る目の無い人じゃない……私達と同じ事を考えているのかも」
「と、いう事で王命は絶対ですので――差し出がましくて申し訳ありませんが、この場の皆さんにわたし達の秘策をお伝えして動いて貰っても構いませんか?」
イングリスはぴっと指を立て、柔らかに微笑んだ。
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