第331話 15歳のイングリス・虹の王会戦9
「わかりました。てか、もともとそのつもりだったし――」
「おぉユアちゃん! 頼もしー!」
「イケメンを助けるのは、正義――」
「ははっ。ユアちゃんって面食いさんだね~」
「否定できない事実――」
「み、皆さん……! ふざけている場合では――」
「ふざけているわけないでしょう! 真面目も真面目、大真面目なのよ! 使えるものは全て使って、最善を尽くすのよ! 下手な遠慮でそれをしないうちに私達を使おうとしても、協力なんてしないわよ!」
「そうだよ! 皆で笑ってられるように戦いたいんだよ、ボク達は――! ね、ラファエル……! ボク達の我儘聞いてよ――!」
「エリス様、リップル様……!」
「とう」
ユアがひょいとラファエルの肩車から飛び降りた。
すたんと軽く近くの屋根に飛び降りた。
そして屋根を飛び移りながら、虹の王の方に向かっていく。
「話、長くなりそうだから先に行きます――」
「え……!? ゆ、ユアさん――!」
ラファエルがユアに気を取られるうちに、エリスが周囲の騎士に呼びかけている。
「皆聞いて! 今から虹の王に対して突撃を仕掛けます! 一気に仕留めて、これ以上の魔石獣の出現を抑えます!」
それに続いてリップルも声を上げる。
「あいつは同じ攻撃には、すぐに慣れちゃって効かなくなるの! だから勝負は一転集中
、一撃必殺だよ! 皆の力を合わせるの!」
「ラファエルを先頭に――! お願いよ皆、ついて来て頂戴!」
最後のエリスの呼びかけに、周囲から雄たけびが上がる。
「はい、エリス様のお言葉に従います――!」
「やってやる! こうなったら当たって砕けろだ!」
「元よりこの命、ラファエル様に預けている――!」
その声の一つ一つが、力強くラファエルの背中を押した。
「行きましょう、ラファエルさん――!」
「僕も全力を尽くします――!」
機甲鳥に乗るミリエラとシルヴァも、その場に合流してくる。
「皆さん――分かりました……! では行きましょう! 標的は虹の王です! 雑魚は無視して突撃し、一斉攻撃をかけます! 各機甲鳥には最大限の戦力を収容! 皆僕に続いて下さいっ!」
ラファエルは全速力で飛び出して、先行するユアを拾い上げて虹の王へと向かう。
「「「おおおおおおおおおおおっ!」」」
その後を地鳴りのような雄たけびが付いて来た。
反転攻勢に出たカーラリア軍は、ラファエルを先頭に後続の機甲鳥の部隊が一丸となり、空を漂う虹の王へと突撃して行く。
その様相は地上に残る別の騎士達から見れば、巨大な鳥の影が虹の王へ襲い掛かろうとしているようにも見える。
虹の王から生まれ落ちた魔石獣も、それを黙って見過ごしはしなかった。次々に群がり、襲い掛かって来る。
「うああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ぐああああああああぁぁぁっ!?」
「大丈夫かっ!? ぐおおぉぉぉっ!?」
「構うな! 先に行け! 虹の王を潰せッ! ああぁぁぁっ!?」
守勢を捨てた突撃であるため、当然被害も出る。
何機もの機甲鳥が、搭乗する騎士ごと地面に叩き落されて行った。
「く……っ! 当然、敵も一斉にこちらに群がって来ますね……!」
「逆に他の敵を引き剥がしたとも言える――! とにかく前だけを見るのよ!」
「エリスの言う通りだよ、ラファエル! 虹の王狙いなんだから!」
犠牲は避けられないが、魔石獣もこちらを殲滅するには至らない。
ラファエル達は虹の王の面前へと肉薄しようとしていた。
「ここまでくれば――! 各員最大の攻撃を構えッ!」
ラファエルが号令を下した瞬間――虹の王の動きに変化がある。
キュアアアアァァァァァッ!
近づいてくる集団の先頭――ラファエルに向けて、虹の王が大きく口を開く。そこには虹色の輝きが渦を巻くように収束しようとしていた。
不思議と敵意や殺意のようなものは感じない。感じないが――
こちらに何かを放とうとしているのは明らかだ。
「――! 散開ッ! あちらの攻撃を回避後、一斉に攻撃します!」
「くッ――! みんな散って!」
「何なのあの攻撃――! 急いで逃げてッ!」
ヒイイイイィィィィンッ!
虹の王の口から、渦を巻くような虹色の光線が迸る。
「くっ――ユアさん! しっかり掴まって!」
「ごほうび――」
急旋回するラファエルの鼻先を掠める程の近くに、光が通り過ぎていく。
「速い――! けど……っ! このくらいで――!」
「天恵武姫がやられるわけには行かないからねっ!」
エリスとリップルも機甲鳥を急旋回させて、回避していた。
「校長先生! 済みません荒っぽい回避運動になりましたが、大丈夫ですか!?」
「え、ええ――私は……ですが――これは……!?」
ミリエラが見ている先は、回避できずに虹色の光に飲み込まれた者達だ。
「「「うわああああああああぁぁぁぁっ!」」」
悲鳴が長く轟いて、響き続けていた。
つまり、声を出し続けていられたという事だ。
墜落する機甲鳥の機影もない。
光が通り過ぎても、それは変わらず――
「え……!?」
「な、何なんだ……!?」
「何も――ない……?」
光に巻き込まれた騎士達は、不思議そうにそう言い――
ボンッ!
次の瞬間、その体が人型の魔石獣に変わっていた。
「「「な――っ!?」」」
ラファエルもエリスもリップルも、驚愕に声を上げ硬直してしまった。
これまでの人型の魔石獣は、虹の粉薬と虹の王の力が反応して発生していたはずだ。
つまり虹の粉薬さえ所持していなければ、人が魔石獣に変えられてしまうことはなかった。そう思っていた――
「馬鹿な……!? 虹の粉薬を持っていない人間まで……!?」
「人を魔石獣に変える光――!? こんな事まで……!」
「ま、まずいよ、こんなの撒き散らされたら、みんな……!」
「くっ――一度距離を取って仕切り直して……!」
「それはダメよ、ラファエル――! ここまできたら、このまま……!」
「あ、逃げた」
ユアだけが冷静に、虹の王の動きを指差していた。
ラファエル達が混乱している間に、虹の王は大きく羽ばたき、ラファエル達から遠ざかった。
巨体だがその飛行速度は凄まじい。機甲鳥の全速力では追いつかないかもしれない。
虹の王は勢いを殺さず旋回してこちらを向く。
そこから一度高く飛び上がると、全体重を乗せるように急降下し――
巨大な嘴を、地面に直接突き立てた。
ドガアアアアアアァァァァンッ!
その巨体と勢いゆえに、地面にはひび割れが走り巨大な穴が穿たれる。
轟音が響き渡り、巨大な土埃が巻き上がる。
「な、何だ……!?」
「何をしているの、あの虹の王は――!?」
「わ、わかんないけど……!?」
だがその疑問はすぐに晴れる事になった。
土煙に続いて、虹色の光の壁のような波動が立ち上ったのだ。
高さはアールメンの街の外壁を遥かに超え、横幅も街全体をすっぽり抑えて余りある程の巨大さだ。
それだけ巨大な光の壁が、高速で地を這いラファエル達の方へ向かって来る。
「上昇! 回避を――ッ!」
「ええ――! 何とか間に合うわ!」
「大丈夫だよ、みんな! 落ち着いて避けて!」
だがラファエル達の呼びかけも空しく、巨大な光の壁を避けきれない者もいた。
「「「うおおおおおぉぉぉぉっ!?」」」
ボンッ!
そして次の瞬間、その体が人型の魔石獣に変化する。
「「「――っ!?」」」
先程口から吐いた、人を魔石獣に変えた光と同じだ。
それがラファエル達の眼下を通り過ぎて行った。
途中に生い茂る木や岩などは薙ぎ倒す事なく、綺麗に通り過ぎていく。
つまり――障害物は無意味。
それが街全体を覆うような膨大な範囲で、アールメンへと迫っている。
「「「あ――」」」
ラファエルもエリスもリップルも、皆の表情が凍り付く。
何が起きるかを察したからだ。
街にはまだまだ多数の騎士達が布陣し、交戦中だ。
全体の数からすれば、機甲鳥に乗って虹の王への特攻に出た兵数よりも、アールメンの街に残っている数の方が遥かに多い。
そしてその数の騎士達が、人を魔石獣に変える光の壁に飲み込まれる――
それはもう、避けようがなかった。
「ば、馬鹿な――」
「う、嘘よ……! 嘘よこんな――!」
「や、止めて――! 止めてよおおぉぉぉっ!」
――――ドドドドドドドドドドドド…………!
地鳴りのような音がその場に響き始めるが、それ自体を気に留める者はいない。
光の壁がアールメンの街を飲み込もうとする光景が、あまりにも圧倒的過ぎて、恐ろし過ぎて――絶望的な光景に、打ちひしがれる事しか出来なかった。
――次の瞬間、光の壁が遥か高空に吹き飛んでいくまでは。
「「「へ?」」」
それが、見たままだ。
光の壁が上方向に吹っ飛んだのだ――そこにあった地面ごと。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
一瞬遅れてやってくる音。そして爆風。
煽られて機甲鳥の機体が大きく揺れた。
アールメンの街手前の地面が、一斉に何かに抉られて噴き上がったのだ。
地表を這っていた虹色の光の壁も、それには抗えず巻き込まれて吹っ飛ばされた。
そのままラファエル達の高度よりも遥か頭上で、弾けて消えて行く。
「なんて衝撃だ――! そ、逸れたのか――!?」
「凄い揺れ……! な、何が起こったの……!?」
「わ、分かんない……! でも、街へは直撃しなかったみたいだよ――!」
ラファエル達が、光が消滅した上空やアールメンの街の様子に気を取られていると――
「あっち――」
ユアが指差した方向に、皆が振り向く前に――
ドゴオオオオオオオオオオオォォォォンッ!
異様な打撃音が耳を劈く。
「「「!」」」
キュオオオオオオォォォォォッ!?
巨鳥の虹の王が悲鳴のようなものを上げながら、遠くに弾き飛ばされていた。その巨体が地面に二度、三度と跳ね上がり、異様な大きさの轍を残して行く。
「な――!?」
「虹の王が!?」
「吹っ飛んでった……!?」
そして、元々虹の王がいた位置のすぐ目の前には――
「あ、おっぱいちゃんだ」
絶世の、と称しても何ら問題ない程の美少女が、風に髪を揺らしていた。
身の丈を超えるほどの、巨大な剣を振り下ろした姿勢で。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!