第328話 15歳のイングリス・虹の王会戦6
「よし……! 僕も一緒に――!」
敵味方が近い接近戦では、先程までの一気に突撃して広範囲を纏めて切り払うような攻撃は控えざるを得ない。
こういう場合は周囲に目配りし、味方の被害が最小になるように動く。
味方の騎士を死角から攻撃しようとするような敵を探し、優先的に排除するのだ。
――丁度右斜め前方、前面の敵の攻撃を受けている隙に、別の魔石獣に背後を取られかけている騎士がいた。
「――させるかっ!」
ラファエルは騎士の背後に回ろうとしていた魔石獣に突進、一刀で真っ二つに斬り捨てる。その魔石獣が運んでいた人型には、すかさず短剣の魔印武具から氷を放ち、動きを封じておく。
「ありがとうございます、ラファエル様!」
「礼には及びません――十分に気を付けて!」
言い残してさらに別の、危険な位置の魔石獣を先回りして仕留めていく。
その甲斐あってか、聖騎士団の犠牲は少なく、魔石獣の数は見る見る減っていった。
やがて、左翼から回り込んでいたエリスとリップルも合流してくる。
「ラファエル! そちらは大丈夫ね――!?」
「ええ。ですがエリス様、リップル様――気づきましたか? この魔石獣は以前のものより力を増しているようです……!」
「うん。何か前より耐久力が増してるよね――! やっぱり本体の力が増してるからなのかな……!?」
「それだけに、前座で戦力を消耗していられないわ――! とにかく味方の被害を抑えて
ここを乗り切って、次に備えましょう……!」
「ええ、そうですね――!」
ラファエルは後方のアールメンの街の方向を振り返る。
人型の魔石獣が発生した混乱は既に収まりつつあるようだ。
防壁の上に陣取った部隊から、地面に落ちた人型魔石獣に向けた氷の魔印武具による援護射撃も開始されている。
更には街のあちこちから、青白い煙のような光が立ち上っていた。
黒仮面が凍り付かせた人型魔石獣を変化させる時の輝きである。
そちらの方も順調そうだ。街中が終わったら、次は外で凍らせた魔石獣達への処置もお願いしたい。大変だろうが、こればかりは任せるしかない。
「あちらも頑張ってくれて――っ!? あれは……!?」
「――うわ……っ!? ちょ、ちょっとあれ見て!」
「! リップル、ラファエル! 次が来たわよ――!」
三人が同時に声を上げる。
ラファエルは後方を、エリスは右方向を、リップルは正面を見ながら。
「「「!?」」」
つまり三人が別々の方向に同時に敵集団を見つけたのだ。
「な……!? これは――!?」
「こちらを包囲しようとしているの――!?」
「ど、どっちを見ても魔石獣だらけだね……!」
アールメンの街をぐるりと包囲するように、魔石獣の大集団が姿を見せたのだ。
ほぼ全てが飛鳥型。その数は、今交戦中の集団の数倍――いや十倍近いかもしれない。
しかも異様なのは――
「魔石獣がこんな動きをするなんて……!?」
「うん――こんな事、今まであったかな……!?」
エリスとリップルも、ラファエルと同じ事を考えているようだ。
魔石獣というのは、強大な力を持ちこの地上に生きる人間すべての脅威ではあるが、その行動は多分に動物的なのだ。
群れのような集団を作って、行く先の村や街を襲うことは確かにある。
が――それはあくまで本能的なものであり、戦術や戦略のようなものではないのだ。
このように相手や敵拠点を包囲して攻撃するような動きは、魔石獣のそれとは思えない。何か明確な目的や戦術があっての動きのように見えるのだ。
包囲するより全体が一丸となった大集団で一方向から向かって来るのなら分かるが――
数はもとより、その動きが不気味だ。それゆえに脅威を感じる。
だがそれを強調していても始まらない。
敵がそう来るのならば、それに対応するのがこちらの使命だ。
「僕達が狼狽えている場合ではありません――! すぐに迎撃態勢を整えましょう!」
「ええ、そうね――! 私達が迷っていれば、その分味方が倒れていくだけ……!」
「どう迎撃しよっか……!? あの数は、聖騎士団だけじゃ相手しきれないよ――!」
「僕達だけが突出していては孤立します――! 防壁の内側に退きましょう! 諸侯の軍と連携し、全軍で当たります……!」
「敵は全方位から押し寄せて来ているわ……! どこか一方向が崩れれば、そこから全体が突き崩されてしまうかも――!」
「じゃあボク達は、バラバラの方向にいた方がいいかもね――!」
「では聖騎士団は四手に分かれ、それぞれの方向で主力として戦線を支えましょう!」
「三方向は私達が一人ずつね……! 残った一方向は――!?」
「副長に任せて、あとミリエラに応援に行って貰おう! せっかく来てるんだし、ね!」
「分かりました! ではそうしましょう! 態勢を整える間、僕が聖騎士団の殿を務めます!」
まだ第一陣の敵も全滅していない。
とはいえすぐに動かないと、二陣の大集団への対応が難しくなる。
ここは迎撃態勢を取る間に、敵を抑える殿役が必要だ。
「じゃあボクがミリエラに話しに行くね……!」
「エリス様は副長と一緒に、皆を四分割して配置する指揮をお願いします――!」
「分かったわ! 私はその後西の守りにつくわね!」
「じゃ、ボクは北! ミリエラは南に行ってもらうね!」
「こちらは殿を務めた後、そのまま東の守りに着きます!」
三人は頷き合い、それぞれの目標に向けて動き出す。
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