第319話 15歳のイングリス・王子と王子10
「――!」
「……終わりだ。抵抗は止せ」
ウィンゼルはレオーネに静かに告げる。
「自分を責める必要はない。お前は良く戦った――これだけの魔印武具が手元になければ、後れを取ったのはこちらかも知れん。あんなクズのような女が寄越したものとはいえ、それだけは感謝をせねばならんだろうな――」
「…………」
「さあ早く魔印武具を置いて投降しろ。この場所を生み出しているのもお前の奇蹟だな? それを解いて貰おうか――」
レオーネは黙して語らない。
その視線の先は、倒れているリーゼロッテにちらりと向く。
リーゼロッテが目覚めて、側面からウィンゼルを攻撃してくれれば――
「なるほど、仲間が起きるのを待っているのか――だがそうですかと待ってやるわけには行かんな……! ならば――!」
ウィンゼルは馬上槍に力を込めた。
その表面が奇蹟の雷に包まれバチバチと音を立てる。
「……これが最期だ。大人しく諦めて、降伏しろ――」
レオーネはそれにも口を真一文字に結び、沈黙を貫く。
ギリギリまでリーゼロッテを待つ。信じる――
「強情な娘だ――仕方があるまいな」
ウィンゼルがため息をついた時――
その側面から、何者かが突っ込んで行くのがレオーネには見えた。
「えっ……!?」
リーゼロッテではない。リーゼロッテはまだ意識を失っている。
だがその俊敏な動きは並のものではない。
目深に被ったフードで顔は分からないが――ルーインや騎士隊の面々の格好ではないし、作戦に協力してくれた避難民のうちの誰かだろうか。
「――何奴っ!?」
ウィンゼルがそちらに気づいて意識を向ける。
同時に人影は地を蹴って飛び上がり――その拍子にフードがずれて顔が露に。
「レオンお兄様っ!?」
イングリスたちを連れてカーラリアに戻ったと思っていたのに、いつの間に――!?
前も避難民に紛れていたが、今度も避難民のふりをして作戦に参加していたのだろう。
自分達の事に集中して、全く気付かなかったが――
「悪いな――! 目の前で妹をやらせるなんて、流石にさせらんねえからな……!」
「特級印――!? だが――ッ!」
レオンは鉄手甲の魔印武具を打ち込み、ウィンゼルは馬上槍の魔印武具でそれを迎撃する。
お互いの武器が激突し――たと思ったが、しなかった。
ウィンゼルの馬上槍はレオンの鉄手甲もずぶりと突き抜けて――
「何っ!?」
レオンがにやりと笑みを浮かべ、そして――その姿が眩しく輝いて弾け飛んだ。
「うおおぉっ!?」
弾け飛ぶ光にまともに巻き込まれたウィンゼルは、炎馬の背から弾き飛ばされ落馬をする。完全に虚を突かれた形だ。
「ぬう――罠か……!」
忌々しそうに立ち上がるウィンゼル。
「あれは――」
レオンが愛用していた鉄手甲の魔印武具が生む雷の獣が弾ける時と同じ爆発だ。
だが今回の場合は、レオン自身が弾け飛んで攻撃した。
レオーネも見ていて吃驚した。
助けに飛び込んできたレオンがいきなりやられたかと思った。
「擬態……だな。雷の獣じゃなく、雷の擬態を生む――ま、新型ってやつだ。前から多少は進歩して見せんとな? 俺が作ったわけじゃねえけどさ」
言いながら、レオンがすっとレオーネの横に並んで立つ。
レオンが前使っていた鉄手甲の魔印武具は、リップルが呼び寄せてしまった幼生体の虹の王との戦いで破壊されてしまった。
今装備しているのはそれに変わる、新しい魔印武具。
レオンのために用意されたものだった。
「お兄様……! どうしてここに――」
レオーネの問いに、レオンはばつが悪そうに後ろ頭を掻く。
「んー。ラフィニアちゃんに戻れって説教されてな……だが、合わせる顔はねえからまたこっそり潜んでた。とはいえ流石に見てられんからな……悪いが出しゃばらせてもらったぜ」
「――ごめんなさい、力不足で……」
「なぁに気にすんな。あちらさんも言ってたが、お前は良く戦ったよ――前より順調に強くなってるさ、こんなんでも一応兄貴としちゃあ、見てて嬉しかったぜ?」
「お兄様……!」
しがみ付こうとしたレオーネを、レオンは少々慌てた様子で制する。
「おっとぉ……! 下手に触れない方がいい――」
それでレオーネは察する。これも――?
「それよりも早く、友達を起こしてやりな。いつまでも寝かせてちゃ可哀想だろ?」
「は、はい……! 分かりました――!」
レオーネはリーゼロッテに駆け寄り、抱き起こす。
「リーゼロッテ……! リーゼロッテ――! 大丈夫!? 起きて――!」
「ん……はっ!? た、戦いは――!? ごめんなさい、わたくし……!」
リーゼロッテは勢い良く身を起こすと周囲を見渡し――
「あ、あれ……!? あの方は――!? そ、それも何人も……!?」
リーゼロッテは目元を擦ってもう一度見直していたが――見間違いではない。
いつの間にか十人近いレオンの姿が現れて、ウィンゼルを取り囲もうとしていた。
「あれはお兄様の新しい魔印武具の奇蹟よ……! また避難民の人達のふりをして、潜入していてくれたらしいの――!」
「ふふっ……嬉しそうですわね、レオーネ」
「そ、そうかしら――?」
「でも、よろしいのではないでしょうか。もう意地を張る必要もないのでしょう?」
「い、意地って言うか……!」
「実際助かりましたし、ね――? 今は頼もしい救援を素直に喜びましょう? わたくし達の力不足は、反省すべきですけれど」
「ええ、そうね……!」
リーゼロッテの言葉にレオーネは頷く。
二人の視線の先で、レオン達をウィンゼルが対峙している。
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