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第317話 15歳のイングリス・王子と王子8

 レオーネは大剣を振りかぶりながら、ウィンゼルの動きを注視する。

 隙あらばすかさず、刀身を伸ばして攻撃する――


「ほう、翼の奇蹟(ギフト)だけではなく――」


 言いながら、高く跳躍するような回避の動きを取る。

 吹雪はかわせるだろうが――その動きは、レオーネには少々不用意にも映った。

 高く跳んでしまえば、着地するまでの間、空中で姿勢を変えるのは難しい――!


 なら、今だ――

 あいてもこちらの奇蹟(ギフト)の事はまだ分かっていないはず――!


「それならっ!」


 レオーネは斜めから切り下すように斬撃を放つ。

 同時に刀身はグンと伸び、一気にウィンゼルを剣の間合いの内に納める。


「なるほどな――隙は見逃さぬと言うわけか……! だが――」


 ウィンゼルは空中で脚甲を一度叩き合わせるような、不思議な動きをする。

 それは回避には無駄な動きのようにしか見えなかったが――そうではなかった。

 脚甲が打ち鳴らされるのを合図にウィンゼルの真下に立派な体格の黒に赤い模様の馬が現れ、彼をその背に戴いたのだ。

 そして瞬時に低く早く跳躍し、レオーネの剣の範囲から抜け出してしまう。


「すまんな、それは隙ではなくてな……!」

奇蹟(ギフト)で馬が……!?」


 あの脚甲が魔印武具(アーティファクト)で、この黒に赤模様の大型馬が奇蹟(ギフト)で生み出されたのだ。

 レオンも雷の獣を生む魔印武具(アーティファクト)を愛用していたから、あり得ない事ではないだろうが――

 あの雷の魔物は明らかに実体ではないかりそめの存在だったが、こちらの馬はより実体的で、生きている本物のようにしか見えない。


「炎馬スレイプニル……! 俺の愛馬よ――!」


 ウィンゼルの声があっという間に大きく強く、近くに響いてくる。

 剣を空振りした隙を縫い、炎馬が凄まじい速度でこちらに突進して来た証拠だ。

 重そうな馬鎧も装備しているのに、まるでその影響を感じさせない。


「っ!」


 左右に避けている時間がない。それ程に炎馬の突進が早い。

 かと言ってまともに突撃を受けるのは、どうにか避けねば――

 レオーネは剣先を足元に向ける。


「伸びて――っ!」


 即座に伸長した刃はレオーネの軽い体を宙に持ち上げ、炎馬の突進の軌道から外してくれる。

 炎馬はレオーネのいた場所を通り過ぎ、レオーネはその後方に着地――する寸前、目の前に青い稲妻の奔流が押し寄せて来ていた。


 その出所は、馬上でこちらを振り向くウィンゼルだ。

 いつの間にか炎馬の鞍に備えられていた馬上槍(ランス)を抜き、こちらに向けていたのだ。馬上槍(ランス)としては短めで、取り回しはし易そうに見える。

 その先端から雷が放射されているのである。これも無論奇蹟(ギフト)の力だ。


 ――避けられない、当たる……!

 レオーネが痛みを覚悟した瞬間、その体が別の力を受けて、景色が横滑りする。

 リーゼロッテが滑り込んでレオーネを抱えてくれたからだ。


「リーゼロッテ! ありがとう……!」

「ええ、これが協力するという事ですわ――!」


 回避したところでリーゼロッテはレオーネを下ろし、再びウィンゼルを挟み込むように回り込む。


 その動きに反応し、ウィンゼルは馬上槍(ランス)の雷で空中のリーゼロッテを狙う。炎馬の足は、一時的に止まっている――


 ならば――レオーネは駆け出し、一気に間合いを詰めて行く。

 剣の刀身を伸ばす範囲も、無限ではない。


 遠い場所から刃を伸ばしての攻撃は、伸び切らない場所まで逃げられる可能性がある。

 近い位置からの攻撃であれば、避けようとしても範囲が今で一瞬で逃げる事は難しい。


 攻撃を当てに行きたいのであれば、やはり近づいた方が確実だ。

 あの炎馬に助走の距離を与えないという意味もある。


「やあああぁぁぁっ!」


 低く構えた大剣を、ウィンゼルから二十歩程度の距離で斬り上げる。

 同時に奇蹟(ギフト)でその二十歩を埋める――とウィンゼルも思ったはずだ。


 だが、黒い大剣の刃は伸びなかった。代わりに――


 グオオオオォォッ!


 幻影竜が咆哮を上げ、ウィンゼルへと突進して行く。


「――!」


 初見の攻撃にウィンゼルも注意を向け、迫って来る複数の幻影竜を馬上槍(ランス)の雷で迎撃する。


 その隙に、レオーネは斜めに回り込みつつ更に接近。


「こっちよ! やああぁぁっ!」


 今度こそ直接、ウィンゼルと炎馬に叩き下ろす斬撃を繰り出す。


 その軌道上に、ウィンゼルは空いた左手を翳すだけ。

 回避の動きを見せようとしない。

 手で止めるつもりか? そんな事が出来るはずがない。


 ――が、炎馬の尾がそれ自体が意志を持つかのように器用に動き、鞍に据え付けられている馬上槍(ランス)をもう一本取り上げ、ウィンゼルの左手に握らせた。


 ガキイィィンッ!


 馬上槍(ランス)と黒い大剣が衝突。甲高い金属音が鳴り響く。


「このまま……ッ!」


 力を加えて押し切る――!

 相手は片手。こちらは両手――

 純粋な力の強さの差はあれど、少しずつレオーネが押せている。


 だがその前に――幻影竜を迎撃していた右の雷の馬上槍(ランス)が、そちらを全滅させて自由になってしまう。


「甘いッ!」


 右の馬上槍(ランス)が、レオーネに向けて突き下ろされる。


「させないっ!」


 レオーネは押し込む剣の力を一気に抜きつつ跳躍をする。

 ウィンゼルがレオーネの剣を押し上げていた力も利用し、その体はふわりと浮いて右の馬上槍(ランス)の突きの範囲の外へ。


 その着地を狙い、ウィンゼルの左の馬上槍(ランス)から帯状の炎が放射される。

 こちらは炎の奇蹟(ギフト)を持っているようだった。


 だが、着地の隙を狙って攻撃が飛んでくる事自体は予想済み。

 レオーネは黒い大剣の剣先を斜め下に向けて刀身を伸ばす。


 それが斜めに足元を擦り、レオーネが着地する位置をずらす。

 ウィンゼルの炎は狙いを外し、レオーネは即座に剣を横に振り抜き幻影竜を出す。


 それをウィンゼルの右の馬上槍(ランス)が迎撃をする。

 それが終わる前に――


「もう一度っ!」


 黒い大剣をもう一度返し、更に幻影竜を生む。

 この幻影竜を生む竜理力(ドラゴン・ロア)は、奇蹟(ギフト)と違って何度使ってもレオーネ自身は疲労しない。


 魔印ルーンを通じてレオーネの力を使うのではなく、魔印武具(アーティファクト)そのものに竜理力(ドラゴン・ロア)が固着しているからだ。

 無限に使い続けても効果が無くならないのかは分からないが、今のところの使用感はそれに等しい。この力の持久力は驚異的だ。


「もっともっと――!」


 更にもう一度、もう一度――!

 大量の幻影竜がウィンゼルに群がって行く。


「ほう――! 中々の圧力だ……!」


 ウィンゼルの左の馬上槍(ランス)も、幻影竜の迎撃に移る。

 両手を塞いだ。今――!


「やあああぁぁっ!」


 レオーネは強く黒い大剣を突き出す。

 今度は幻影竜ではなく刀身がグンと伸び、幻影竜の群れの間を縫ってウィンゼルの喉元に迫る。


「――ッ!?」


 ウィンゼルは馬上で身を反らし、喉元を狙った突きを避ける。

 だが、体勢は苦しい。

 このまま横薙ぎに剣を振り抜きつつ刃をさらに伸ばせば――斬り伏せられる!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子の能力はちょっとカッコ良いかもw それにしても、リーゼロッテさんの的確な支援はあったとはいえ、なんかレオーネさん独りの攻勢で押しきれそう、凄いです〜 しかし無限に使用出来る力は存在しな…
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