第307話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長17
小一時間後――
イングリスとラフィニアは王宮内にある一室にいた。
しゅるしゅると続いていた衣擦れの音が止み、イングリスの着替えが完了した。
ついでに戦いで少々乱れた髪も梳いてもらって――
「はい、いいわよ! さっすがクリスは何着ても似合うわね~♪ ほら回ってみて、くるくるー♪ 笑顔でね~?」
「うん。わかった、ラニ」
イングリスはラフィニアの言う通り、大きな姿見の前で二、三回くるくると回って見せる。ふわりと浮いた外套部分には、カーラリアの近衛騎士団長の証である紋章が、良く見えるように大きく刺繍されていた。
「いいわよね~この衣装! 前からちょっと可愛いなって思ってたの」
「うん、そうだね。ラニ」
イングリスとしてもラフィニアと同意見で、前から気になっていたものではあった。
「それに――これからあたし達がやろうとしてる事には相応しいと思うのよね! 形から入るじゃないけど、やっぱり気合の入り方が違って来るわ!」
ラフィニアはふんふんと鼻息を荒くしている。
「そうだね、これ可愛くていいよね。エリスさんやリップルさんとお揃いだし――」
用意されていた騎士団長を拝命するための衣装は、エリスとリップルが身に着けている装束を基にして、外套に専用の紋章を入れ込んだものだったのだ。
このカーラリアの文化、伝統からしてそれが相応しいとの事だった。
あの二人が着ている衣装を可愛いと思っていたので、イングリスとしても少々嬉しい。
「まあ、クリスの場合は二人を見習って馬鹿な事するなって意味が込められてそうだけどね――?」
「わたしは見習わないよ? エリスさんやリップルさんとは別のやり方をするから――誰も犠牲にさせずに楽しんで戦わせてもらうし――ね?」
「……勝てるわよね? 間に合うわよね?」
ふと真剣な表情になったラフィニアが、イングリスの手をきゅっと握る。
ここでロシュフォールと戦ったのは、あくまで前哨戦に過ぎない。
竜鱗の剣やそれを使った新たな戦技を試す事が出来たのはとても良かったが――本当の戦いはまだこれからだ。
まだ前線基地であるアールメンの街に虹の王は姿を見せていない様子だが、この後手短に任命式を終えて、急いで向かわなければならない。
それらを思って、ラフィニアは少々不安になったようだ。
「任せて。わたしはラニの従騎士だから、ラニを悲しませるような事は起こさせないよ」
「うん、信じてるからね――?」
「うん。大丈夫だよ――じゃあ行こうか、国王陛下やレダスさんが待ってるから」
任命式前のイングリス達の衣装替えを、皆が待ってくれているのだった。
イングリスはラフィニアの手を引いて、支度部屋の出口へ向かう。
――少々、胸が締め付けられるような緊張感を感じる。
「ふう……ちょっときついかなあ――?」
無論、服の胸元が少々窮屈だったせいだ。
布地がぴんと張ってしまっている。
「ここもエリスさんとリップルさんと同じなのかなあ……ちょっと苦しい――」
言いながら、少々胸元をもぞもぞとやって緩める。
少しは楽になったような感じがする。
そんなイングリスを、ラフィニアは非常に不貞腐れた目で見ていた。
「……何それ、あたしに対する自慢? こっちは胸ゆるゆるなんですけど?」
「え……? あははは、ラニもすっごく似合ってるから、そんな事気にしなくて大丈夫だよ? うん可愛い可愛い――」
ラフィニアがこういう話題でこういう目つきになると、大抵直後に胸をまさぐられたりリンちゃんを過剰にけしかけられたりする運命が待っているので、イングリスは慌てて誤魔化した。
ラフィニアの格好も、イングリスと同じ騎士団長用の衣装に変わっていたのだ。
エリスとリップルの寸法であろう衣装の胸元は、イングリスには窮屈でラフィニアには
緩過ぎるようだった。
丁度支度部屋を出たイングリスとラフィニアに、レダスや騎士達から声がかかる。
「「おお……! これは何とも――!」」
「「お二人とも、よくお似合いですぞ……!」」
それを聞きつつ、イングリスはラフィニアのご機嫌を取ろうとする。
「ほ、ほらほら。みんな似合ってるって言ってくれてるし、大丈夫だよ?」
ラフィニアはふう、と大きくため息をつく。
不貞腐れた顔からまた別の、緊張気味の顔になっていた。
「ほ、ホントに大丈夫なの? あたしまでこんな事になっちゃって……」
エリスやリップルと同じ衣装に身を包んだイングリスとラフィニア。
二人が騎士団長の紋章を背負うという事は、そう言う事だ。
イングリスは臨時緊急名誉近衛騎士団長代行次席。
ラフィニアは臨時緊急名誉近衛騎士団長代行首席。
という事になったのだ。
ラフィニアに対するカーリアス国王の問いかけに、ラフィニアを黙らせてイングリスが申し出たのがこれである。
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