第305話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長15
「「「お、おおおおおおおぉぉぉぉっ!?」」」
「「「な、何と凄まじい――! さ、流石だ……!」」」
騎士達がその光景に圧倒され、口をあんぐりとさせている。
あまりにも巨大な傷跡だが――幸いにも吹き飛んだ地形は城の庭部分と城壁、それに城が面しているボルト湖から引いた水路の部分だった。
というよりも、そのような地形だからこの場でこの技を使った、と言う事だ。ちゃんと城の建屋は残している。
空いた巨穴には、既にボルト湖からの水が流れ込み始めていた。
まるで底の見えない巨大な滝のような様相である。
これを見ればいかにも豪快な大破壊だが――
水が満ちれば外見には大半が覆い隠され、城の敷地の半分近くが水路になって、水路の幅と水深が大幅に増した――という感じになるだろう。それほど大きな問題にはならないはずだ。
「うん。初めて試す技にしては、中々の威力かな――」
イングリスは大穴の縁に立ち、爽やかな笑みを浮かべて頷いた。
神竜フフェイルベインの竜鱗の剣を鍵とした、霊素と竜理力を総動員した複合戦技――霊竜理十字とでも言った所だろうか。
「これが中々って程度のものなのかなァ。恐ろしいまでの大規模破壊だよ、これは。まともに受ければ消し飛んで骨も残らんだろう――こんなものを人に向けないで頂きたいものだなァ」
イングリスに首根っこを掴まれたロシュフォールが呆れた様子で呟く。
二撃目の竜理力を放った直後、霊素殻の全速力で先回りし、ロシュフォールを救い出したのだ。
「これほどの技だけに、受けて頂ける方も限られますので――こうして救助させて頂きましたし、勘弁して頂けると助かります」
イングリスはロシュフォールに、たおやかな笑みを向けて応じる。
「――何故私を助けたのかなァ?」
「勿体ないからです。亡くなられてはまた戦えませんので――療養をして治られたら、また手合わせしましょう? 甦った虹の王とはわたしが戦いますから、お気になさらず。好きでやらせて頂きますので」
「……よろしく頼む。君がその笑顔であれを倒すなら、それが一番世界が平和だよ。が、再戦は御免被りたい所だなァ。治った途端に、また療養生活送りにされるのは敵わんよ」
と、ロシュフォールが携える黄金の盾が輝き人の形に戻って行く。
元に戻ったアルルは、イングリスからロシュフォールの身を受け取りつつ、深々と頭を下げる。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます……! ロスを助けて下さって……!」
その様子からは本心からロシュフォールを慕い、その身を案じているのと、心優しい性格が見て取れる。
今回ロシュフォール達が採った大胆な特攻作戦には、あまり似つかわしくはない。
「そもそも、今回はどうしてこのような作戦を?」
イングリスとしては二人と良い戦いが出来たので満足なのだが、多少の疑問は残る。
「わ、私のためなんです――ヴェネフィクに天恵武姫は、私一人しかいないから……何かあった時には全ての業は私が――ですがカーラリアを落として、そちらの天恵武姫の方を味方に付けることが出来れば、その業を分かち合う事が出来るからと……」
ロシュフォールが亡き後のアルルの事を考えて――という事らしい。
なるほど確かに、天恵武姫が一人しかいない国では、何かあった場合、その一人が全ての業を抱える他は無くなる。
カーラリアの場合はエリスとリップルが二人いるため、負担は半分ずつになる。
お互いに励まし合えるからこそ、国を守る守護者としての役割を果たし続けて来られたという面も大きいだろう。
あの二人から感じる強い絆が、それを物語っている。
もしヴェネフィクがカーラリアを落とせば、天恵武姫を接収して三人になり、アルル個人としての負担は相当に軽減される――と言う事だ。
「ケチんぼの上の連中に掛け合っても、天恵武姫は増えん――ならば外から奪うのみ……残り少ない私の命の、最後の舞台のだったはずなのだがなァ。最も予想外な結末に至ってしまったようだよ。全く世の中何があるか分からん――」
ロシュフォールは自嘲気味に肩を竦める。
「私達のした事が、あなた達にとってとても罪深い事であるのは分かっています……! でも私には止める事が――本当に済みません……!」
「お前が謝る事は無いのだよ、アルル。全てはこの大罪人がお前を唆してさせた事――それでいいのだよ」
「いえ、わたしに謝って頂く必要はありませんよ。おかげ様でいい戦いが出来ましたので――ありがとうございました」
イングリスは二人にぺこりと一礼をする。
「……ロス、この子って――」
「ああ、イカレてるなァ……この私よりもなァ。ククク……面白い――」
「とはいえ、後の事は国王陛下にお任せする事になるとは思いますが――そこはわたしにも如何とも……」
カーリアス国王が二人を処刑するというのならば、それを止めることは出来ない。
厳密にいえば力任せに二人を助けることは出来るだろうが、そんな事をすればこの国に住めなくなるし、ラフィニアやラファエルや、家族にも多大な迷惑がかかる。
それと引き換えには出来ない――という事だ。
「――この二名は捕虜に致す。裁きは後日……まずは体を治すのが良かろう」
そう告げたのは、イングリス達の側にやって来たカーリアス国王だった。
多少足元がふらついている様子はあるが、もう自力で歩ける様子だ。
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