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第304話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長14

「ふふふ――我ながらいい剣です……! わたしの全てを預けられそうな仕上がりですよ――!」

「ぬううぅぅぅ――ならばこちらももっとだなあぁぁぁァァ!」


 ロシュフォールが更に気合を込めると、拡散する余波が更に広がって行く。


「――全身に力を込めようとすれば、余計な力が外に拡散してしまいます。盾を自分の体の一部だという感覚で、そこだけに力を込めるように意識すれば、もっと無駄が無くなるかと思います」


 余波が拡散して城を破壊しそうなロシュフォールに比べて、イングリスのほうはそこまでの影響を周囲に及ぼしてはいない。足元が多少ひび割れている程度だ。

 これは威力が劣るわけではなく、剣のみに霊素(エーテル)を一転収束させる無駄の無さがそうさせているのだ。


「ハッハァ! 本当に敵に塩を送るのが好きだなァ! 君は――!」

「いいえ、先ほども言いましたが塩を送るわけではありません。わたしは強い者と戦いたいだけ――敵は強ければ強いほどいいですから」

「そうか、こうかああぁぁァァ!」


 カッ――!


 盾の輝きがさらに激しく。そして同時に、拡散していた半球状の余波が小さくなる。

 疑似霊素(ダスティ・エーテル)がより盾に収束した証拠だ。

 つまりそれだけ、盾に込められた破壊力も増した。


「はい、そうです――素晴らしいですね」

「お褒めに預かるのは、まだ早いなあァァァ!」


 更に盾に埋め込まれた宝玉も、それぞれの色に眩い輝きを放つ。

 あの光線の一斉射も上乗せしてくるつもりだ――

 それが出来るようになったのも、無駄な力の拡散が無くなったためである。

 一言の助言でそこまで応用して来るとは、素晴らしいの一言だ。助言のし甲斐がある。


「クッククク――! これだけの威力……! ぶつけ合ったらどうなってしまうのか、楽しみだなあぁぁァ!?」

「ええ――全くその通りですね……!」

「さぁ準備はいいかァ!?」

「はい……! お互いの最大の攻撃で……!」


 ロシュフォールは盾をこちらに向け、イングリスは剣を即座に撃ち下ろす大上段の構えを取った。


「行くぞおオオオォォォォォッ!」


 ロシュフォールの盾が、極大の閃光を放つ。


 ズゴオオオオオオオオオオオオォォォォッ!


 盾自体の白い光、宝玉のそれぞれの色の光――全てが入り混じった美しさと共に、人の背丈の何倍もある巨大な規模。間違いなくあちらの全力の攻撃だ。


「ではこちらも――! はあああああぁぁぁぁっ!」


 対するイングリスは、霊素(エーテル)を最大限に注ぎ込んだ竜鱗の剣を叩き下ろした。同時に刀身から放出された霊素(エーテル)は、弧を描くような剣閃に沿って、巨大な三日月形の波動を形成する。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!


 盾の放った光に負けない、巨大な霊素(エーテル)の塊――

 一度にほぼ全ての、霊素弾(エーテルストライク)数発分の霊素(エーテル)を注ぎ込んだ極大の一撃だ。

 それが地面を深く広く抉りながら、盾の光に向け真っすぐに突っ込んで行く――!


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!


 盾の光と輝く剣閃――

 両者がぶつかると、一層激しさを増した轟音と共に、衝突点を中心に光の柱が立ち上り、円形に地面が崩壊し始める。


 先程までのイングリスとロシュフォールの突撃からのぶつかり合いで出来た破壊痕を完全に覆い隠して上書きする程の規模、深度だ。

 このせめぎ合いが続けば、城壁どころか城そのものが跡形も無くなるだろう。


「さあぁァッ!? どうなるかなァ!?」


 ロシュフォールは少々ふらつき、片膝を着きながらお互いの繰り出した攻撃の行く末を見守る。動けなくなる程の全身全霊を、この攻撃に込めたのだ。

 イングリスとしてもそれは同じ――霊素(エーテル)はこの一撃に殆ど費やした。

 多少の脱力感と、足元のふらつきは感じる。感じるが――!


竜理力(ドラゴン・ロア)っ!」


 神竜フフェイルベインから授かったこの力が、まだ残っている――!

 次撃を横薙ぎに構えるイングリスの剣には、今度は白く立ち上る竜の気が込められていた。


「何いぃぃぃぃッ!? あれ程の一撃を撃っておきながらッ――!?」

「これがわたしの全力です! はあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 イングリスは竜理力(ドラゴン・ロア)を集中させた剣を横一文字に薙ぎ払う。

 軌道に沿って放出された竜理力(ドラゴン・ロア)の波動は、巨大な竜の尾を象り、疑似霊素(ダスティ・エーテル)霊素(エーテル)が押し合う衝突点へと突入して行く。


 霊素(エーテル)の器たり得る武器を得た事で、霊素壊(エーテルブレイカー)のような苦肉の策を取って破壊力を引き上げる必要は無くなった。

 一気に全力を剣に注いで貯め込み、それを開放すればいい。


 が――先行した技に後から勢いを加えて炸裂させるという仕組みは有効だ。

 今回はそれを応用した形――初手に全ての霊素(エーテル)を注ぎ、それを竜理力(ドラゴン・ロア)で炸裂させるのだ。


 初手で相手が消滅しては空振りになる制約もそのままだが――イングリスの放った霊素(エーテル)は見ての通り、衝突点で留まってくれている!


 カッ――――――――――――!


 これまでで最大の、視界の全てを埋め尽くすような輝き。

 竜理力(ドラゴン・ロア)が衝突点での押し合いの流れを変え、全てをロシュフォールの側に押し込み、炸裂する――!


「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉァァ――――っ!?」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッンッ!


 ロシュフォールの叫び声を掻き消し、衝突点から向こう側に膨大な光の暴発が起きる。

 その威力はイングリスの対面側の城壁を全て吹き飛ばし、その場に巨大で深い穴を穿った。その破壊痕は、このカーラリアの王城が丸ごといくつも収まってしまいそうな程だ。

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