第301話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長11
その状態でこちらと真っ向力比べをしていたのだから、その強靭な精神と旺盛な戦意には目を見張るものがある。
もし前世のイングリス王の時代であれば、軍団の先鋒を担う大将として、是非とも欲しいと思わされるような逸材だ。
「ロス……! 無理をしないで、私が――」
アルルがロシュフォールに寄り添い、肩をその身で支える。
ロシュフォールの手から串を受け取り、彼の口元に運ぼうとする。
甲斐甲斐しい動きだった。
「何であれ、あなたが生きていてくれるのなら――私はずっとあなたの側に――」
「ああ……う――ぐぅぅっ……!?」
再びロシュフォールが大きく吐血し、アルルの纏う鎧が赤く染まる。
「ロスッ――!? しっかりして……! これを食べれば――!」
「ぐうぅぅ……っ! くそがァ……ッ!」
もう体に、肉を噛む力も――これでは間に合わないかもしれない……!
「頑張って! もう少しです――!」
イングリスも声援を送る。
「食べられないなら、代わりに噛んであげて下さい! それで口移しにすれば大丈夫!」
ラフィニアがてきぱきと、アルルに指示を飛ばした。
「は、はい――! 分かりました!」
アルルは言われた通りに、急いで串焼きの肉を噛み砕き――
それを口移しでロシュフォールの口内に流し込んで行く。
「う……ぐ……っ!」
何とか肉をロシュフォールが飲み込む。
厳しい所だったが、間に合っただろうか――暫く見守るしかない。
「何とか間に合う――かな――?」
ラフィニアも心配そうにしている。
「食べられるなら大丈夫だと思う――ラニがよく気が付いてくれたね? もう少し遅れたら危なかったかも知れないから」
「まあね。さっきこっちでもやったから」
ラフィニアが衝撃的な事を言った。
「はぁ!? ええええええぇぇぇぇっ!? な、何て事を……!?」
これにはイングリスも思わず吃驚して声を上げてしまう。
戦いに夢中で気が付かなかった――!
重症のカーリアス国王の治療に当たっていたラフィニアが、そんな事をしていたとは!
しかし、ラフィニアはきょとんと首を捻った。
「? 何て事って何よ? 国王陛下、本当に危なかったんだから。お肉を何とか食べさせて、それで全力で奇蹟も使ってようやくだったわよ?」
「で、でもそんな事までしてなんて言ってない……! それは、相手は国王陛下だし凄く偉い人だけど――」
「いやいや、何言ってるのよ。偉いとか偉くないとか、関係ないわよ。助けられる人は全力で助けるのが、この奇蹟を扱う人間の務めでしょ?」
ラフィニアは胸を張って笑顔になる。
「ラニ――」
その高潔な精神は素晴らしいとは思う。立派であるし、誇らしくもある。
それに女の子としてお年頃のラフィニアには、こういう機会に余計な夢や憧れが打ち砕かれていたほうが、色々と面倒事が無くなるかもしれない。知れないのだが――
何だろう。経験した事が無いような体の震えを感じる。
武者震いとは確実に違う、寂しいような、悔しいような――
「…………」
イングリスは壁際で戦況を見守るカーリアス国王の方に、ちらりと視線を送る。
自分がどんな顔をしているのかは分からないが――
「こらこらクリス、睨まないの……!」
「睨んでないよ、見ただけだし――!」
「嘘をつかない……! 今にも襲い掛かりそうな顔してたわよ――」
「そんな事ないもん――!」
と、イングリスの視線を受けたカーリアス国王が声を上げる。
「う……っ! うおぉぉぁぁぁ――さ、寒気がするっ……!?」
「陛下っ!?」
「急に顔色が――!?」
「容体は安定なされていたのに……っ!?」
慌てふためく周囲の近衛騎士達。
「ら、ラフィニア君――! 陛下が……! 陛下を診てくれ――ッ!」
「はいっ! もー、クリスが睨むから……!」
「だって……!」
「まだ量が足りぬやも知れん――! ならば今一度! 陛下、御免ッ!」
レダスが神竜の肉を口に含んで噛み砕いてカーリアス国王に与えようとする。
「! おお……!」
イングリスは目を輝かせて手を打った。レダスの口ぶりから、先程もこれが――!
大の男同士が口移しをする図など、本来は決して美しいものではないが、今はキラキラと輝いて見えた。
「ね、ねえねえラニ! さっきもレダスさんがやってくれたんだよね? ね?」
「うん。そうだけど――? あ~……そういう事ね、もう、人の命がかかってるんだから、そんな事に目くじら立てて怒らないの!」
「でも、ラニにはそういう事はまだ早いから!」
イングリスはにこにことレダスに手を振りながら応じる。
素晴らしい活躍だ。とても助けられた。感謝の気持ちが思わず体を動かしていた。
「もう……! まあ、あたしとしてもちょっと助かったけどね……初めては好きな人とって思うし――」
何を想像したのか、ラフィニアは少々顔を赤らめる。
「だ、ダメだって……! 変な事考えたらダメだよ!?」
「まあ、今はそんな場合じゃないわね! あたしも国王陛下を見て来る!」
ラフィニアが走ってカーリアス国王の元に戻って行く。
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