表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/493

第299話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長9

 そのイングリスの姿は、ロシュフォールと激突した衝撃でお互い真後ろに弾かれ、距離が開いていた。

 お互いがお互いに地面に残した轍をさらに深く抉るように踏ん張り、同時に止まる。


「なるほど……! 互角かァ……!」

「いいですね――ならば……!」


 ――もう一度だ!


 ドガドガガアアァァァァァァンンッッ!


 再び重なる二つの地を蹴る音。


 ガキイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィンッ!


 再び衝撃が二人の体を弾いて引き離す。


「その細腕にこの衝撃は辛いだろぉ? いいんだぞ、逃げても――? 君のあの身のこなしならば、受け流す戦いも出来るはずだ……!」

「いいえ、とことんお付き合いしますよ……!」


 相手の得意の攻撃、強みを真っ向から受け止めて、そして勝つのがイングリス・ユークスの戦い方だ。

 この竜鱗の剣の強度を確かめる意味でも、あの天恵武姫(ハイラル・メナス)が変化した至高の盾を、とことん叩いて叩いて叩き捲りたいのである。


 ガキイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィンッ!


「意地を張るなよ――ッ!?」

「そちらこそ――!」


 ガキイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィンッ!


「フハハハハハハハッ!」

「ふふふふ――」


 何度も何度も、イングリスとロシュフォールは真正面からぶつかり合う。

 衝突の度に撒き散らされる衝撃は、城の建物全体を揺らし、軋ませ、所々で崩落が始まりつつあった。


「こ、このままでは城が崩れるぞ……!」

「だがどちらが勝つかも、いつ止まるかも、全く分からん――っ!」

「そもそもまるで動きが見えんからな……っ!」

「いえ、でも……! ちょっとずつだけどクリスが押してる――っ!」


 正直ラフィニアにも、完全に二人の動きを把握する事は不可能だった。

 二人の姿が一瞬目に映っては消え、映っては消えを繰り返し、消える度にとてつもない轟音を響かせてまた映る。


 二人がぶつかるのは、毎回同じ位置。

 だから衝撃が地面を円形に抉り続けているのだが――

 だんだんその破壊跡が、楕円形に近づいている。


 大きな円から少しずつロシュフォールの側に、はみ出しているのだ。

 つまり――イングリスが押し込み始めているという事だ。


 ガキイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィンッ!


「ぐうううううぅぅぅぅゥゥッ!?」


 やや姿勢を乱したロシュフォールが踏ん張り切れず、一瞬だけ地に膝を着く。


「何故だ……!? あちらが押し始めているのか――!? あの華奢な体に、まだそんな底力が――っ!?」

「いいえ。違いますね」


 イングリスは静かに首を振る。


「何……!?」

「わたしが押したのではありません。あなたが押されたまで――気が付かれませんか?」


 イングリスはそっと、自分の口元を指差すような仕草をする。

 とても残念そうな、憐れむような表情で――

 戦いの最中、イングリスがこんな憂鬱そうな顔をするのは滅多にない事だ。


「あァ――?」


 ロシュフォールはぐいと口元を拭う。

 そうすると拭った手には――べっとりと赤い血が付いている。


 イングリスの打撃による負傷と言う事ではない。

 まだ剣と盾をぶつけ合う力比べの最中だったのだ。

 まだまだ本番はこれから、という所だったのだが――


「ぬぅ――っ!?」


 ロシュフォールは忌々しげに手を振り、手に付いた血を払い落とす。


「こ、これは……! これが――!?」

「じゃ、じゃあ……! に、兄様も――!?」


 二人とも明言しないが、レダスやラフィニアの言いたいことは分かる。

 これが天恵武姫(ハイラル・メナス)の副作用かと。

 武器化したエリスやリップルを手に取る事で、ラファエルもこうなってしまうのかと。そう思っているのだろうが――


「いや。違うんだよ、ラニ――この人は元々こうなんだよ」

「え……!? じゃあ体が――?」

「うん。凄く悪いんだよ……生きてるのが不思議なくらいに――」


 恐らく立っているだけでも辛いはず。

 それがこれほどの強度の戦闘を行い、全身に凄まじい激痛を感じているだろう。

 ロシュフォールの持つ強靭な肉体と、それ以上に強靭な精神力の為せる業で、並の人間ならとっくに棺桶に入っているに違いない。


 そしてそんな死者にも等しい体の状態だからこそ――

 天恵武姫(ハイラル・メナス)が、使い手の生命力を吸い取って散らしてしまうという副作用が働いていないのだ。

 死体から吸い取る生命力は無い――と言う事である。


 そしてそんな状態のロシュフォールだからこそ、血鉄鎖旅団の黒仮面のように霊素(エーテル)で副作用を抑える事も無く、天恵武姫(ハイラル・メナス)の影響を回避して長く戦うことが出来たのである。

 そんな状況もあり得るという事を、イングリスもロシュフォールを見て初めて知った。

 ある種、奇跡的な状況の組み合わせである。


 ロシュフォールという強大な騎士が不幸にも死病に蝕まれ、余命幾許も無い状態でも、天恵武姫(ハイラル・メナス)を手にして戦場に立ててしまう――

 彼にどんな信念や目的があるのかは知らないが、この戦いは、そんな状況が揃って初めて巡り合える戦いだった。

 とても貴重な、価値のある戦いだ。だがそれも――


「あなたの根性には感服します。ですが――流石にそろそろ限界でしょう? 少々休憩される事をお勧めしますが……?」

「クックク……! こちらの状態を見抜いておきながら、そんな事を言うのは残酷ではないかねェ――? この体を死神は待ってはくれんよ……! 立ち止まる事は、無為に死を受け入れるという事……! それではこのアルルが救われんのでなァ――! 遠慮をさせて頂こう! まだまだ戦いはこれか――グぶぅ……っ!」


 ロシュフォールが今度は大量の血を吐き、その場にがっくりと膝を着く。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)の黄金の盾を支えに、何とか倒れるだけは堪えているような状態である。もう、限界だろう――

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。


皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ