第298話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長8
これまで霊素殻を身に纏った全力の戦いでは、イングリスが手にした武器は全て霊素の負荷に耐えられずに破壊されて来たのだが――
この神竜フフェイルベインの鱗から作った剣からは、その様子は感じられない。
イングリスの全力に追従してくれるのだ。
先程言った通り、使い手の自力がもっとあれば、完全に盾の閃光を狙い通り打ち返す事も出来ただろう。
これは大きい。イングリスの総合的な戦闘力は大幅に跳ね上がっただろう。
何せ、それまで素手だった者が武器を得たのである。
「何が嬉しいかは知らんが――これで我々の退路は断たれたという事だなァ……!」
「――元々そのようなものは考えておられなかったのでは?」
「無論だなァ……! 頭の捻子が外れておらねばこんな作戦は出来んよ――!」
「わたしとしては、力のある者が生き急ぐような真似をなさるのは勿体ないと思いますが――あなたの場合は、仕方がないのかも知れませんね?」
「……!? 君は何者かなァ? もしや天上領の新型の天恵武姫か、血鉄鎖旅団とやらの秘密兵器か――」
「どちらも違いますよ。ただの従騎士科の学生です――臨時緊急名誉近衛騎士団長代行を拝命する予定ですが」
「ククッ。決死の者を茶化してくれるか、人が悪い――! が、美女に邪険にされるのも悪くは無いぞおォ?」
「変わったご趣味をされていますね……?」
「いずれにせよ無駄死にはせんよッ! この世界に爪痕を残させてもらうッ!」
「はい。そうお祈りしています――」
「はっはは! 可愛いが、可愛くない子だ――!」
ロシュフォールの盾の宝玉が、眩く輝く。
先程の光線を放出する時よりも、より強く激しく――
それが盾全体を包み、更にはロシュフォールの体を覆うように浸透して行く。
ヒイイイイイィィィィィィンッ!
甲高く響くその音は、まるでロシュフォールの全身が喜びの声を上げているようだ。
同時に彼の立っている場所を中心に地面が振動し、更には強烈な圧力に耐えられずに崩れ、大きな穴を穿っていく。
――先程までの攻撃はまだまだ搦手、と言う事だ。
どれ程の威力の攻撃が繰り出されるか――これは楽しみにせざるを得ない。
そしてそれを受けた竜鱗の剣はどこまでの強度を見せてくれるのか――これも楽しみだ。
未知の強敵と新しい武器――これほど心の踊る戦いもそうそう無いだろう。
「さぁ泣かせてやる、泣かせてやるぞおおぉぉォッ!」
「はい、楽しみです! お願いします――!」
イングリスは目を輝かせ笑みを浮かべ、剣を構えてロシュフォールに応じる。
「おらあああぁァァァァァッ!」
ドガアァァァンッ!
爆発したような衝撃音と巻き上がる土柱は、単に彼が地を蹴っただけで起きたもの。
自分自身の事を省みると、イングリスが全力で霊素の戦技を使う時も、これに似たような現象が起きていた。
つまりこれは――相手にとって不足は無いという事。
そしてその猛烈な勢いが、地面を抉り轍を残しながら、イングリスに対して一直線に肉薄してくる――真っ向勝負だという事だ!
「では、こちらも! はあああぁぁぁぁぁぁっ!」
ドガアァァァンッ!
同じく地を蹴ったイングリスも、ロシュフォールに向けて突撃する。
「!? 消えた――!?」
「み、見えん……! 全く見えん……!」
「みんな気を付けて! 足を踏ん張って! 凄いのが来る――!」
ラフィニアが騎士達に呼びかけた直後――
ガキイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィンッ!
耳を劈く大音声。
周囲の目に現れたのは、イングリスが身の丈程もある大剣をロシュフォールの盾に叩きつけている姿だ。
同時にその衝撃の余波が、周囲に撒き散らされる。
「「「うおおおおぉぉぉぉぁっ!?」」」
それを受けた騎士達が次々と背中から転倒して行く。ラフィニアの警告した通りだ。
「下手に立ち上がらないで! 体を低くしておいた方がいいです!」
自身はまだ治療中のカーリアス国王の体が吹き飛ばないように覆い被さりつつ、周囲に呼びかける。
「わ、分かった――!」
「そうするよ! ありがとう!」
「ラフィニア君……! 陛下の容体は――!?」
レダスは問いかけながら、カーリアス国王の体を押さえるのを手伝ってくれる。
「大丈夫……! クリスの言う通りにしたら、本当に良くなってきましたから――! 必ず助けられます……! あとはクリスが勝ってくれるのを待つだけ……っ!」
イングリスは必ず勝ってくれるはず――この後も予定が詰まっているのだ。
ラファエルを助けて、虹の王を倒す本命の戦いが待っている。
その戦いの機会を見逃すイングリスではないし、ラフィニアを悲しませるようなものは叩き潰してくれるのもイングリスだ。
だから負けない。負けるはずが無い。聖騎士と天恵武姫を超えることが出来なければ、虹の王を倒す事もまた不可能だろう。
きっと勝つ。勝って人がどれだけ心配しているかも知らず、良い戦いだったなあとか言って微笑むのだ。
それがいい笑顔で可愛らしいので、色々あってもラフィニアとしてはつい許してしまう。今までもこれからも、きっとそうに違いない――
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