第296話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長6
「……ゴホン。世のため人のため、このわたしがあなたを倒します――! 悪しき隣国の騎士よ、正義の刃を受けなさい!」
イングリスはきりっと眉を引き締め、ラフィニアの言う通りにして見た。
「うっわ……すっごい白々しい――」
ラフィニアは小さくため息をつく。
言っていることは正しいような気もするが、イングリスらしくなさ過ぎて寒気がした。
「――ですができれば何度でも戦いたいので、程よい感じで逃げて頂いてまた襲って頂けると助かります!」
「……その方がクリスらしいけど滅茶苦茶ね――もういいから、さっさとやっちゃって!
この後急いでラファ兄様の所に行かなきゃいけないんだから――!」
「うん、分かった。ラニ――!」
イングリスは改めてロシュフォールに向き直る。
「というわけで――わたしにもあなたにも時間は無いようですので、早速手合わせをお願いしますね?」
こちらに向かう間、血鉄鎖旅団の方で把握している虹の王に関する情報は逐次耳に入れて貰っていたが、現在の虹の王の位置はアールメンまであと数日と言った所だそうだ。
アールメンへの移動と到着後の準備を考えると、ここで費やせる時間は一日程度か。あまり時間はない。
本来ならばこのような強敵とは何日でも何回でも戦いたい所ではあるのだが、それが叶わないのであれば、この短い一戦を濃密に楽しませて頂きたい所だ。
イングリスが淑やかな微笑みを浮かべて呼びかけると、ロシュフォールも面白そうに、にやりと笑みを見せる。
「何がというわけでかは知らぬが、どうやら同じ騎士の道を踏み外した外法者同士――ここで潰し合えとの神の思し召しかも知れぬな……!」
「いいえ、わたしは道を踏み外してなどいませんよ。元々踏み外すような道は持っていませんから――ね? それに、神はそんな事は言いません。好きなように生きてよいと――懐の深いお方ですから」
「はっはは! ではそちらが上手というわけだ――!」
「そう言うあなたは――自分の行いが天恵武姫を預かる騎士の道に反すると自覚されているご様子ですね? それでも成し遂げたい何かのために、残り少ない命を賭けておられる――と。意外と良い人のようですね?」
「こんな悪党を捕まえて、止めて頂こうか――気色が悪いのでなぁ! くくく――罰だぁァ! 全力で行かせてもらうぞォ! その美しい顔が歪んで、男を誑かせぬようになっても勘弁してくれよ――!」
「ええどうぞ――! 元々そんなつもりはありませんので、一切の遠慮や手加減は不要です……!」
とは言え鏡に映る自分の姿は自分で楽しむので、顔を傷つけられるつもりもないが。
「では、お言葉に甘えてえぇェッ!」
ヒイイィンッ!
ロシュフォールの盾に散りばめられた宝玉の一つから、神々しく煌めく光が迸る。
「おぉ――!?」
思わず感嘆の声が口から洩れる。これは、単なる魔術光ではない――!
元々のロシュフォールの魔素を、天恵武姫が昇華して全くの別物の力と化しているのだ。
別物への昇華と一口に言うが、つまりは魔素の非効率性が天恵武姫の働きによって、ほぼ完全に排除されているように見えるのだ。
魔素というのは、霊素に比べて無駄の多い力だ。
魔術の素になる力ではあるが、10の魔素のうち実際に魔術的現象に繋がるのはせいぜい2、3程度で、残りは霧散して消えている。
天上人のイーベルが使っていた魔素精練なる技術はそれを5、6程度まで高める効果を生んでいたと言えるだろうが――
今のロシュフォールの場合、10の魔素が10――いやそれ以上の威力に繋がっている。無駄だった7、8割の力を、天恵武姫の作用が有効なものに転化させているのだ。
この力の効率――出力は、最早霊素に相当すると言ってもいいだろう。
では霊素なのかと言えば、それも違うが――
霊素は万物の根源たる神の気――イングリスは主に戦技に使っているが、本来は用途を限定しない万能の力だ。
対してこのロシュフォールの力は、天恵武姫を通した戦技にのみ利用される力だ。霊素本来の万能性は失われている。
霊素とは似て異なる何か――疑似霊素とでも言った所か。
これはつまり一言で言うと――
「なるほど――面白いですね!」
力の質を確かめながらも、体は反応している。
「はあぁっ!」
光の迫ってくる軌道に、竜鱗の剣の刀身を繰り出す。
ガイイィィィンッ!
剣は光を弾き、軌道を反らす事には成功した。
が――強烈な威力はイングリスの姿勢を圧し、大きく後ろに仰け反らせる。
「おお……!?」
イングリスの腕に、強烈な痺れが残る。
目測を逸れて飛んで行った光は城壁に激突し――
ドガアアアアァァァァンッ!
一撃で城壁を崩壊させ、巨大な裂け目を残して見せる。
「素晴らしい威力です――!」
流石は究極の魔印武具の威力。半端なものではない。
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