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第291話 15歳のイングリス・従騎士と騎士団長

「国王陛下! 国王陛下ーーーーっ!」


 王都カイラル、王宮――静謐で荘厳な佇まいの謁見の間に、野太い男の声が響き渡る。


「む……レダスか。相変わらず騒がしいことよ――」


 玉座に座るカーリアス国王は、ふうと一つため息をつく。


「だがよく戻ったな、ご苦労だった……! して、首尾はどうか――? イングリスを見つけ、虹の王(プリズマー)の元へ向かうよう伝える事は出来たのか……!? 本人の姿は見えぬようだが――?」

「は……! イングリス殿は喜んで王命を受けられると――! 強敵を優先的に回して頂いて感謝するとの事でございました……!」

「ふ、ふははは……! 地上に住まう全ての人間の天敵である虹の王(プリズマー)を相手にして、そのような台詞を吐けるとはな……! 何とも勇猛果敢な娘よ――! ではイングリスはここには寄らず、直接アールメンの街に向かったのだな?」


 対応の早さを優先するならば、それが正しいだろう。

 カーリアス国王としては、イングリスがどんな顔をしているか直接会ってみたかったが、それは仕方がない。


 国王としても、虹の王(プリズマー)の目覚めは国の存亡を左右する一大事。

 こうして王宮で事の顛末を見守るしかないとはいえ、不安や焦りは尋常ではないのだ。

 イングリスの顔を見れば、少しはそれも解消されるような気もするのだ。


「いえ、イングリス殿は今こちらに向かわれております。私だけが一足先にお知らせと準備のために参りました――!」

「ん……? 何の準備と申す?」

「近衛騎士団長への任命式でございます――イングリス殿は決戦に挑む前に、以前はお断りになられた騎士団長の就任を受けて頂けるとの事……! ただし、臨時緊急名誉近衛騎士団長代行という事で、非常勤が絶対条件だと――! 当面、騎士アカデミーの従騎士科の学生を続けるとの事です」

「なるほど、それはそれで構わん。今のような非常時に働いて貰えるのならばな――」


 今までは強敵が現れた際には協力をするというのは単なる口約束だったが、これからはそれが任務となるという事だ。

 一歩進んだと言っていい。


 それにより給金等が発生するが当然支払う。

 あの力に対し、そんなものは安いものだ。


「では陛下、ご許可いただけますか……!?」

「無論だ。元々はこちらが望んだ事よ。イングリスはもう間もなく参るのだな? 緊急ゆえ簡素なものになろうが、すぐに任命式の準備を致せ――!」


 これまで報告を受けている虹の王(プリズマー)の動向によると、もう数日後にアールメン近郊に現す――というような状勢のようだ。

 現地に到着してからの準備等々もあるだろうが、一日程度ならばこちらに立ち寄る時間を取っても問題は無いだろう。


「「「ははっ!」」」


 カーリアス国王の命が下ると、慌ただしく人が動き始める。

 その様子を横目にしながら、カーリアス国王はレダスに尋ねる。


「しかしイングリスは、どういった心変わりであろうか。何か申しておったのか?」

「はっ……! イングリス殿曰く、これから聖騎士団や聖騎士殿や天恵武姫(ハイラル・メナス)も差し置いて自分が虹の王(プリズマー)と戦わせてもらうのだから、それなりの肩書があった方が皆の納得を得やすく、作戦遂行が円滑になると――それに事後、聖騎士団の名誉を損なう事も無いと」

「……なるほどな。イングリスの申す通りではある」


 イングリスはアールメンで集結中の戦力を脇に置いて、一人で戦うつもりだろう。

 だがいくら王命を受けたからといって、単なる騎士アカデミーの一学生の肩書しかないイングリスがそれを言っても、反発を受けたり命令を聞かなかったりする者が出るのは必然だろう。


 そこでイングリスに近衛騎士団長の肩書があれば、その説得力は増す。

 人が持つ肩書にはそういう役割があるのだ。

 同じ内容でも誰が言うかによってその重さは変わるのだ。

 そして虹の王(プリズマー)を首尾よく撃破できたとしても――


 今度はその後の状況が問題となる。

 その役目を果たせなかった聖騎士団に対し、騎士アカデミーの学生如きに手柄を奪われたという批判がどうしても起きるだろう。

 それも、イングリスに近衛騎士団長の肩書があれば和らげることが出来る。


 近衛騎士団長は、格で言えば聖騎士団を率いる聖騎士達と同格。

 聖騎士に手を貸して虹の王(プリズマー)を討ったとしても、聖騎士が情けないのではなく近衛騎士団長が良く働いたという評価になるだろう。

 これも肩書が持つ効果だ。


 そこまで見通した上での、イングリスの今回の申し出だろう。

 戦後の事も考えているのは、この戦いで命を落とすような可能性は微塵も考えていないという事だ。

 何とも頼もしいばかりではないか。


「あれ程の剛勇を誇りながらも、そこまで状況を見通す慧眼も持つ、か――つくづく不思議な娘よ」


 常識を遥かに超越した戦闘能力もさることながら、話してみるとその冷静な判断力と思考力にも驚かされる。

 あの瑞々しい可憐な容姿の中に、重厚に積み上げられた確かな戦略眼を感じるのだ。


 あれ程のものは、あの年齢で身に着けられるようなものではないと思うのだが――本当に何もかもが規格外の少女だ。

 世が世なら、自分の下にいるような器の人物ではないかも知れない。

 それが今、カーラリアのために力を貸してくれる事の幸運に感謝をせねばなるまい。


 虹の王(プリズマー)が動き出したのならば、そこには必ず悲劇が生まれる。

 たとえ撃破に成功したとしても、天恵武姫(ハイラル・メナス)を手にして戦った聖騎士は命を失う。

 それは、虹の雨(プリズムフロウ)の降るこの地上に置いて、逃れられない運命のようなものだ。

 カーリアス国王が生まれる前からもずっと繰り返されて来た世界の理だ。


 今アールメンの街へ向け侵攻中の虹の王(プリズマー)が氷漬けになる前の戦いでも、それは起こった。

 一人の聖騎士が命を失い、そして天恵武姫(ハイラル・メナス)達もまた一つ心に傷を刻んでいた。

 カーリアス国王自身にとっても、忘れ得ぬ出来事だった。


 イングリスはその繰り返す悲しみの理を、打ち砕いてくれるかもしれない。

 長い目で見れば――恐らく何も変わらないだろう。

 人一人の寿命には限界があり、イングリス一人が世界の理を破壊する程だとしても、彼女が天寿を全うすればそれまでである。


 天恵武姫(ハイラル・メナス)と聖騎士が不要、とはならないだろう。

 ある危機を一度乗り越えるだけならば、それに見合う人間がいればよい。

 だが何度も安定的にそれを為したいというならば、それを為し続けるための仕組みが必要だ。


 仕組みに人を当て嵌める形を取る事により、安定して同じ結果を期待できる。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)と聖騎士の存在が、まさにその仕組みの部分である。

 だがそれでも――たった一度の例外でもいい。


 見てみたいではないか。

 人が自らの手で、世界の理を跳ね返す所を。

 その時はきっと、カーリアス国王も心から笑えるだろう。


「あと、イングリス殿が申されるには、人は反省をする生き物だと――反省は活かさねばならないと仰っておられました」

「ふぅむ――? 北のアルカードで何かあったのか?」

「はあ、それが――」


 と、レダスが述べた時――


「国王陛下! レダス様っ! 空から船が近づいて参ります……!」


 近衛騎士の一人が慌てた様子で謁見の間に入って来て報告をした。

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