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第287話 15歳のイングリス・東部戦線18

「新鮮なお肉……!? 一本丸ごと!?」

「うん。高速で運ぶならそのままで大丈夫――持って帰って、ラファ兄様に食べさせてあげようよ?」

「いいわね! きっとラファ兄様も喜ぶわ!」

「じゃあ、すぐ持って来るね――!」


 そして――


「さあ行こう、ラニ――!」

「うん……! 待っててね、ラファ兄様――! 必ず助けて、おみやげに竜さんの美味しいお肉も食べさせてあげるからね――!」


 イングリスとラフィニアは、真剣な表情で頷き合う。

 イングリスの方は生の神竜の尾を丸々一本肩に担ぎ、ラフィニアの方は干し肉に加工した神竜の肉の大きな塊を両手に抱えて――

 ついでにレダスも、荷物持ちとして同じ干し肉を持たされていた。


「……表情と恰好が合っていませんわねえ――」

「ま、まあ、いつもの事よ……あれだけラファエル様へのお土産を用意して行くって事は、絶対お助けするっていう決意の表れでもあるし――ね」

「その方があいつららしくていいんじゃねえかな――あんまり悲壮感漂わせてるのも、な……?」

「きっと大丈夫ですよ……! むしろ私達の方こそ、自分達が帰らなかったらってイングリスちゃん達を後悔させないように、しっかりしないとです……!」


 そんな風に皆が見送る中――血鉄鎖旅団の飛空戦艦の底部の格納庫が開き、中から人が顔を覗かせる。


「凄い積荷だな……!? 今船を降ろすから、少し待っていてくれ――!」

「いえ不要です、急ぎますので――! 少しそこから後ろに下がって頂けますか――!?」

「……? どうするつもりだ――ああぁぁぁっ!?」


 血鉄鎖旅団の兵士が応じた時、イングリスは既に神竜の尾を抱えたまま猛然と助走に入っていた。

 そうしながら、一度レオーネ達の方を振り返る。


「じゃあみんな――また騎士アカデミーで会おうね! はああぁぁぁぁっ!」


 勢いよく地を蹴ると、まるで竜の尾の重量など存在しないかのように、軽やかにその姿が空に舞い上がり――そのまま船の格納庫へと吸い込まれて行く。


 ずだああああああぁぁぁぁぁんっ!


 イングリスと巨大な神竜の尾が飛び込んできた衝撃で、一瞬船体が大きく傾ぐ。


「おおおおおおおおぉぉぉぉっ!?」

「と、飛んだ……!? こんなでっかいモノを抱えて……!?」

「に、人間業じゃない……! 流石は首領がわざわざ呼ぼうとするだけは――っ!?」


 狼狽える血鉄鎖旅団の兵達に、イングリスはぺこりと一礼する。


「カーラリアまで送って頂けるそうで――よろしくお願いします」

「お、おお……?」

「こ、こうして見ると――」

「す、凄い可愛いな……システィア様以上かも……?」

「おいおいお前ら、それシスティアの前で言うんじゃねえぞ? あいつはイングリスちゃんの事嫌ってるからなあ」


 兵達の間から、レオンが姿を見せた。


「……わたしはあの方の事は嫌いではないんですが――?」

「――あいつは喧嘩っ早いからだろ?」

「はい。好戦的な方は大好きです」

「ははは――どんな時でも君は変わらないなぁ。今はそれが頼もしいよ」


 そこへ、星のお姫様(スター・プリンセス)号に乗ったラフィニアが姿を見せる。

 イングリスに続いて、格納庫に入って来たのだ。


「レオンさん……! それよりも、レオーネと話しておかなくていいんですか……? 今ならまだ――!」

「いや、今は一刻を争うんだ。君達を早く送らなきゃならん――それに、俺にはあいつに合わせる顔なんてないからなあ……何をどう取り繕った所で、俺のせいであいつがとんでもなく苦労した事は事実だろ? むしろ知っちまった事で、俺を倒して家の汚名を返上しようって目的でようやく立ってるあいつを、無駄に迷わせちまったかも知れん。不出来な兄で申し訳ないぜ――」


 レオンはばつが悪そうに後ろ頭を掻きつつ、イングリス達に背を向ける。


「大丈夫。どんな事情があっても自分がやる事は変わらない、レオンお兄様を倒す――って言ってましたから」

「……ラニ?」


 話を聞いたレオーネは、そういう事は言ってはいなかったが――

 イングリスがラフィニアを見ると、しーっという仕草をされた。


「そうか――いやでも、それでいいんだ。あいつには、それが――」

「……嘘ですよ」

「えぇ……!?」

「ラファ兄様を助けることが出来たら、レオンさんの気持ちも軽くなるだろうから――早く行ってあげてって言ってました」

「……! そうか、あいつがそんな――」

「……どっちの方が良かったですか?」


 ラフィニアが悪戯っぽくレオンに微笑む。


「――やれやれ、意地が悪い事を聞かないでくれよ」


 レオンは降参した、と言うように両手を上げる。


「ラファ兄様の事はあたし達に任せて下さい。だから、今じゃなくてもいいですけど、ちゃんとしっかりレオーネに謝って、仲直りする事――! いいですね……!?」

「ラフィニアちゃん――」

「まあ、あたしじゃなくてほぼ全部クリスがやるんですけどね――!」

「いいんだよ、ラニ。わたしの力はラニが自由に使っていいから、それはラニの力だって言っても過言じゃないと思うよ?」

「ははは……ホント仲いいなあ、君達は――ああ、いつかラフィニアちゃんの言う通りになればいいなって思っておくよ――」

「よし――じゃあ早速行きましょ! 全速力でっ!」

「もうラニ――わたし達は送って貰う立場なのに」

「いや、いいさ――何か言う事を聞いてあげたくなる不思議な魅力があるよ、ラフィニアちゃんはさ――さあ行くぞ! 出発だ!」


 レオンが周囲の兵士達に向け、高らかに宣言した。


「「「はっ!」」」


 その指示に応えて、それぞれに散って行く血鉄鎖旅団の兵士達。


「さ、君達に使って貰える船室に案内するよ。と、その前に――ほらっ」


 レオンはイングリス達に、折り畳まれた黒い厚手の服を手渡して来る。


「これは――?」


 イングリスはレオンに尋ねる。


「ここにいる皆が着てるのと同じだよ。それは女性兵士用だな。ここじゃそのままだと目立ってジロジロ見られるだろうからさ。気が向いたら着替えとくといいぜ? まあいらなきゃ捨ててくれ」

「……ねえクリス、どうする? これちょっと気になるけど……」


 今回は力を借りるのだが、血鉄鎖旅団は反天上領(ハイランド)のゲリラ組織。

 カーラリアの騎士という立場からすれば、討伐すべき相容れない存在である。


 一時的とはいえ、その服に身を包んでしまっていいものかと、ラフィニアは悩んだようである。

 この服自体の見栄えは良いので、着てみたくはあるようだ。

 だからこそ気になると言っている。


「別に着てもいいと思うよ? 服に罪はないし――」


 気になるのは、イングリスも同意見だった。

 単純に、新しい服というのは心が躍る。

 鏡に映る自分自身を、新鮮な気持ちで鑑賞できるからだ。

 早速後でそうさせて貰おうと思う。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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