第284話 15歳のイングリス・東部戦線15
「……やれやれ、バレバレか。この状況で気配も隠せないとは、君には恐れ入るよ。こんな可愛らしい子に言っちゃあ悪いが、まるでケダモノ並みだぜ」
イングリスに呼びかけられた人物はひょいと肩をすくめて降参の意を示す。
そして目深に被ったフードを上げると、苦笑いするレオンの顔が露になる。
「強者の気配には敏感なつもりですから」
イングリスはにっこりと、レオンに微笑みかける。
「おいおい止めてくれ、こっちは戦う気は無いんだよ」
「残念ですが、こちらも――」
だが丁度いい所に現れてくれた。
イングリスがこれからラフィニア達に伝えようとしている事は、レオンの証言があった方が信憑性を増すだろう。
「レオンさん――! ほ、本当だわ……!」
「お兄様……! いつからここに潜り込んで――!?」
「ほんのついさっきさ。何か若い子達が幸せそうに盛り上がってたから、出辛くてなぁ。見つけて貰えたのは逆に丁度良かったかもな」
つまり伝令の騎士達が戻ってくるのとほぼ変わらない到着だったという事になる。
「血鉄鎖旅団はアルカードの状況には介入しないと思っていましたが?」
「まあ、な――俺は別にアルカードに用があるわけじゃない。うちの大将からの指示さ、君に用があってな」
「どんな御用でしょう?」
「とはいえ半分はもう終わっちまってるがな――カーラリアの東の、ヴェネフィクとの戦況は今君たちも聞いての通りだ。虹の王から生み出される魔石獣への対応は、騎士団で手が回らない分は、俺達血鉄鎖旅団も勝手に手伝ってるが――早く虹の王本体を撃破しなけりゃジリ貧だ。で、うちの大将が君を御指名ってわけだ。見つけて運んでやれってさ。足の準備は出来てるぜ? 乗ってくかい?」
レオンは空を見上げて指を差す。
薄暗い曇天の雲の切れ目に、大きな船影が姿を現していた。
「なるほど……それは御親切にどうもありがとうございます。ですがまずラニ達に説明をしなければいけませんので、少し待ってください」
「ああ。だが急いでくれよ、時間がねえ。こんな事を頼めた義理じゃねえが、ラファエルの奴を助けてやってくれ。頼む――」
「ええ。勿論そのつもりです。さあラニ、みんな、周りに聞かれない所で話そう?」
イングリスは自分達が宿舎に使っている木組みの家屋を指差す。
「レオンさんもご一緒にどうですか?」
「いや、俺は遠慮しとくよ。どう足掻いたって楽しい話にゃならねえからな。上で出発の準備をしてるさ。ただ――皆に言っとくが、これからイングリスちゃんが伝える事は事実だよ。しっかり気を強く持って聞くんだぜ?」
レオンはそう言うと、踵を返して立ち去って行く。
「クリスがラファ兄様を助ける――? そりゃあ一緒に戦えば、助かるだろうけど――」
「……意味深ね――」
「ですわね、ともかく行きましょう――」
と、そこへ別の声が頭上から降ってくる。
「イングリス殿っ! イングリス殿ーーーーッ!」
野太く良く通る男性の声。
この声にも顔にも、覚えがある。
「レダスさん……!?」
機甲鳥に乗って現れたのは、カーラリア王国の近衛騎士団長であるレダスだった。
「レ、レダスさんまでここに来るなんて――」
「近衛騎士団長が……」
「一体どういう事ですの――?」
レダスは見た目の割に意外と親しみやすい性格をしていたり、イングリスの事を異様に信奉していたりするが、れっきとした近衛騎士団長である。
伝令など行うような立場では無い。
その彼がこうして現れたこと自体が、まず異様である。
「おおおお、イングリス殿……! お探し申し上げましたぞ――! 相変わらずの可憐なそのお姿を拝見致しますと、ここまでの疲労も吹き飛ぶようでありますッ!」
「ははは――ありがとうございます。わたしを探していたというのは、虹の王が動き出した件に関してですか?」
「こちらにも情報は届いておりましたか――! 左様ですイングリス殿、ですが私のお持ちした特命はその前のものになり申す……!」
「前? と言うと?」
「はっ! 虹の王が今にも動き出す兆候が見られるため、イングリス殿を前線に送って頂きたいと天恵武姫のお二人がご所望になっているとの事であります!」
「エリスさんとリップルさんが――? そうですか――」
最初に伝令の騎士から得た情報から、エリスとリップルはイングリスを待っていると推測をしていたが――実際その通りだったようだ。
しかも虹の王が実際に動き出す前に、知らせを出してくれていたのだ。
結局、情報としては前後してしまったが。
「ウェイン王子とセオドア特使殿から知らせを受けた国王陛下は、その通りに致すよう特命をお発しになりました! 重大な命ゆえに、万が一にも伝え漏れぬよう私が参りましたが――居所をお探し申し上げている間に遅くなってしまった事を謝罪いたします――!」
「いえ、お疲れ様です。ありがとうございました」
イングリスはレダスに向け丁寧に一礼する。
「クリスの言った通り、エリスさんもリップルさんも、クリスを……!?」
「血鉄鎖旅団もイングリスを呼ぼうとしているし――」
「ここへ来て大人気ですわね、イングリスさん――」
「そうだね。フフェイルベインにも機神竜になったイーベル殿にも嫌われちゃったから、戦いに呼んで貰えるのは嬉しいね」
「……クリスのどこを見てたら、虹の王が復活するなんて国の一大事に真っ先に呼ぼうとするのかしら――全く話が見えないわよ……?」
「わたしは何にも縛られてないから――ね? そういう力が今は必要なんだよ。エリスさんにも、リップルさんにも、ラファ兄様にもね」
「「「……?」」」
イングリスは穏やかに微笑んでみせるが、ラフィニア達は首を捻るばかりだ。
レダスも同じような様子で、それを見るとレダス自身も真相の所を分かっていないように見える。
「とにかくちゃんと話すから――さあ、みんな行こう」
イングリスはラフィニア達を引き連れて、宿舎にしている家屋に入って行った。
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