第282話 15歳のイングリス・東部戦線13
内側から爆発したような衝撃は、氷の表面に埋もれていたラファエル達を、今度は背中の側から猛烈に弾き飛ばした。
三人の体は地面にぶつかって二度、三度と跳ね飛び、驚くほどの遠くまで吹き飛ばされてようやく止まった。
「う……ぐっ――っ……! こ、これは……! これが――ッ!?」
「ああ……! 虹の王が――!?」
「お、起きてきちゃった……!」
全身が完全な虹色に輝く、雄大な巨鳥の姿――
それは美しく、神々しくもあるが、これこそが聖騎士と天恵武姫の最大の敵――真の力を発揮した天恵武姫を、手に取って戦うべき時……!
それをすれば、ラファエルの命は無い。
だがその覚悟は決めてきたつもりだ。
聖騎士を拝命して以来、いつかこうなる事を常に頭に置きながら行動して来た。
自分とて、命を失いたいわけではない。
ラフィニアやイングリスがこの先成長していく姿を、この目で見てみたい。
故郷で両親に孝行をしながら、ユミルのために力を尽くしたい。
そう言った願望はあるものの、それよりも何よりも――
聖騎士と天恵武姫に寄せられる、人々の希望に応えて見せる。
その強い信念があればこそ、ラファエルの口から自然とこの台詞が出る。
「エリス様、リップル様……! こうなれば僕達も武器化をして戦いましょう……! 虹の王がこうして甦った今、躊躇う必要はありません――!」
「ま、待ってラファエル――! 早まらないで……! もっと慎重に――状況を見極めてからでも遅くはないわよ……!」
「そうだよ、虹の王が街に向かうとは限らないから――! ギリギリまで待とうよ――!」
「ですが、ここで虹の王を討たないと、被害が大きくなる可能性が!」
「可能性であなたを殺したくはないのよ……! 分かって頂戴、まだ早いわ……!」
「そうだよ、それに……っ!」
その様子を、ロシュフォールが嘲笑う。
「ハッハハハハハ! 意気地の無い奴等だッ! 見ていろ弱虫ども――! 俺達が虹の王を叩き潰してくれるわ――ッ! 死ぬほど重く恩に着て、この俺を未来永劫崇め奉るがいいぞおおおぉぉォォォッ!」
ロシュフォールは攻撃の矛先を巨鳥の虹の王に向け、輝く盾を構えて突進をする。
(逃げて――! 私達に任せて今のうちに逃げて――!)
同時に、リップルの頭の中に声が響く。
「え……っ!? 今聞こえた!? この間と同じ声――私達に任せて逃げてって……!」
「い、いいえ、僕には何も……!」
「私もよ、何も聞こえないわ――!」
私達に任せてと言うからには、その声の主は恐らく――
ロシュフォールではなく、その手に握られている盾に変化した天恵武姫からだろうか?
どうしてそんな事を伝えて来るのか、詳しく聞きたい気はするが、今はそれをしている余裕がなさそうだ。
「そらああああぁぁァァァァァッ!」
ロシュフォールが虹の王の巨体に肉薄していた。
攻撃を認識した虹の王は、そちらに視線を向ける。
そして虹色の瞳が輝きを増すと――
ロシュフォールの進路を阻むかのように、巨大な虹色の結晶が地面から突き出して立ち塞がった。
「そんなもので俺が阻めるかよおおぉぉォォォォッ!」
バリイィン! バリイィィィン! バリイィィィィンッ!
虹の王が生んだ虹色の結晶を叩き割りながら進むロシュフォール。
やがて彼の掲げた盾が、虹の王の体へと突き刺さった。
バシュウウウウウゥゥゥゥゥンッ!
そして、虹の王の力とせめぎ合い、巨大な輝きを発しながらもその体の表面を傷つけ、抉り取って行く。
「――効いている……!?」
「でも……! あれだけでは――!」
「逆にマズいかも知れないよ……!」
「どういう事です――!?」
キュオオオオオオオオオオォォッ!
ラファエルの問いにエリスとリップルが応じるより早く、虹の王が大きく鳴いて翼を広げる。
「ぬうううぅぅぅぅゥッ!?」
その勢いがロシュフォールを大きく弾き飛ばすが、すぐさま空中で体勢を立て直し、もう一度突撃を敢行する。
その俊敏な動きは、先程虹の王の体表に穿った傷を正確に撃って見せるが――
シュウウゥゥンッ!
追撃が虹の王の傷を広げる事は叶わなかった。
効かないどころかロシュフォールの攻撃の威力を吸って、見る見るうちに傷が回復して行く。
「! 何いぃぃィィ……ッ!?」
ロシュフォールが目を見開く。
「この化物がああァァァァッ……!」
状況を察して、ロシュフォールは一旦距離を取る。
頭に血が昇り切っているように見えて、戦いぶりはそうとも限らない。
と言うよりも、野生の感に従っていると言うのが正しいだろうか。
これは、明らかに異様な現象である。
「やっぱり……! 変わってないわ――いえ、前以上に……!」
「うん――前はあんなに早く吸収までは行かなかったはずだよ……!?」
「眠っている間に、更に強くなったと言うの――!?」
「どういう事です!? エリス様、リップル様――!」
「あの虹の王は、極端に学習能力が高いの――! こちらの行った攻撃を覚えて、だんだんそれに備えて耐性が付いて……!」
「最後には攻撃を吸収するようになっちゃうんだよ――! だから前にあれが現れた時は、倒し切れなくて……!」
「ああなると、もうあの盾の突撃は効かないわ! 別の攻撃をしないと――!」
「さっき魔石獣の群れを吹き飛ばした光とか、まだ別の攻撃もあるだろうけど……! それも何度も通用しないよ――前より学習する早さが上がってるみたい……!」
「では、こちらの力も併せて攻撃をしましょう――! そうするしか……!」
しかしラファエルの提案に、エリスとリップルは首を縦に振らない。
「いいえ、それよりもあの男を止めて、協力して体制を整えるのよ……!」
「うん……! あのままじゃあの盾の攻撃が全部効かなくなっちゃう――!」
「そんな間を置けば、奴は力尽きてしまうでしょう!? もう、あれだけの力を使っているのに……! 共闘できるとすれば、今この場でしか――!」
そんな中――
無数の魔石獣が、周囲に姿を現し始める。
それは元々姿を見せていた飛鳥型のものだけではなく――獣や虫やあらゆる種類の魔石獣が、次々と虹の王の周囲に生まれていた。
「これは――!?」
「虹の王はその存在自体が虹の雨の塊のようなものよ……!」
「だから、そこにいるだけで、周囲の生き物がどんどん魔石獣化して行くんだよ!」
「であれば、ますますこの場で――」
カッ――――――――!
虹の王の体が、強く激しい輝きを帯び始める。
それは、ロシュフォールの盾を包む輝きと似た輝きだった。
「こいつ――! こちらと同じ輝きを――ッ!?」
ロシュフォールが忌々しげに吐き捨てる中――虹の王の体から生まれた光が無数の光弾となって、周囲に放射される。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
周囲の魔石獣を粉々に吹き飛ばし、地面に大穴を穿つ光弾は、ラファエル達の目の前にも迫る。
その一発一発の恐るべき威力、弾速、光の密度――
とても避け切れるような攻撃ではない……!
「「ラファエル!」」
エリスとリップルがラファエルを庇って、その身に覆い被さり――
「――――――ッ!」
そこに虹の王の放った光弾が着弾して――
ラファエルの意識は、その光景を見ながら途切れて行った。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




