第280話 15歳のイングリス・東部戦線11
「ハハハハハハッ! こいつはいい、こいつはいいぞ――アルルッ! カーラリア最強の騎士がまるで赤子のようだ――! あぁ見える、見えるぞ! 輝かしい未来がッ!」
「お前に未来など無い――ッ! こんな事をしておいて、ただで済むと思うな……っ!」
「さぁねェ! どの道貴公には結末は見られんよ、これで砕け散るのだからなァ!」
バヂバヂバヂバヂバヂ――――ッ!
円盾の表面に光が凝縮して眩く輝き、激しく唸るような音を発する。
その収束した光の余波だけで、周囲の高い岩山の一部が弾け飛び始める。
恐ろしく強大な威力がそこにあるのは、一目瞭然だ。
「お別れだァァァァァァッ!」
唸りを上げて輝く盾が、上空からラファエルに突進して来る。
「く――――ッ!」
まだ先程の衝突の衝撃で体が思うように動かないが、立たねば――!
これをまともに受けては、やられる――!
「ラファエル――ッ!」
名を呼ぶ声が聞こえ、そして――
ドグウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
耳に痛いほどの轟音。
ロシュフォールの一撃が炸裂すると、そこから巨大な光の柱が立ち上り、周辺の地面を吹き飛ばして大地に大穴を穿った。
「――凄まじい威力だ……! これが、虹の王と戦うべき力――」
ラファエルは後方を振り返りながら、そう唸る。
その破壊の規模の大きさには、驚嘆せざるを得ない。
「ええ……! でも決して、目には目をなんて考えてはダメよ――!」
そう応じるのは、エリスだった。
ロシュフォールの一撃が炸裂する寸前、機甲鳥の全速力で滑り込み、ラファエルの身を掬い上げたのである。
「はい、エリス様……! 僕達の使命は、虹の王から人々を守る事ですから――!」
「分かってくれているならいいわ、このまま距離を取るわよ!」
「ええ――! 助けていただいてありがとうございます、リップル様は……!?」
ラファエルを助け出してくれたのはエリスのみで、リップルの姿はなかった。
「本隊を撤退させに行ったわ! あんな無茶な相手では分が悪いわ……!」
「そうですね、それがいい――! こちらは奴が本隊に向かわないよう、距離を取りながら引きつけましょう……!」
「ええ、そうね――!」
その二人の会話に、割り込む声が響く。
「そうはいかんなァァ――! どちらも潰させて貰うぞ……ッ!」
ロシュフォールの姿が、あっという間に機甲鳥に迫りつつあった。
盾を身の前面に掲げた姿勢で、盾の縁部分から後方に光を噴出し、それが膨大な推進力となって飛行を可能とするようだった。
「――!? 早い……!」
「もう追いつかれたの――!?」
「ハハハハハッ! 強い――! 早い……! 凄いッ! 最高じゃないかあァァァッ!」
哄笑を上げるロシュフォールの姿がどんどん迫る。
「何を嬉しそうに――ッ!?」
「遊びじゃないのよ……! どうしてあんな男に、向こうの天恵武姫は――!」
使い手と天恵武姫の心が一つになって、初めて武器化は完成するもの。
今のあの様相は、単なる見境の無い凶戦士だ。それに力を貸すなど――!
「うおぉぉらああああアァァァァァァッ!」
極光を帯びた盾の一撃が、再び間近に迫る。
「ラファエル! 舵を! はあぁぁっ!」
エリスは舵をラファエルに預けて後方を振り返る。
振り抜いた双剣の斬撃は空間を越えて――
盾を持つロスフォールの腕を、十字に挟み込むように閃く。
が――ロシュフォールの身を覆う輝きに阻まれ、刃が弾かれてしまった。
「効かない――!?」
「美女に折檻されるのは嫌いではないが――そんな豆鉄砲ではなあぁァァッ!」
「なら、これでっ――!」
ギイィィンッ!
エリスは双剣を強く擦り合わせる。
同時に、空間を飛び越えて斬撃を送る力を発動させ――
結果、ロシュフォールのすぐ眼前で、一瞬大きく花火が散る。
「……っ!? 目くらましか――!? 天恵武姫ともあろう者が、がせこい真似を――!」
「その特級印の使い方を間違っているあなたに、言われたくはないわね――!」
エリスがロシュフォールに言い返している間に、ラファエルは機甲鳥の操舵を行い急速停止をかける。
一瞬目がくらんだロシュフォールは機甲鳥を追い越して行き――
「よし……!」
その隙にラファエルは方向転換をしつつ地上近くに高度を下げる。
岩山の陰に滑り込んで、ロシュフォールの視界を切った。
「いいわよ――! このまま、岩山を陰にして引き離しましょう!」
「ええ、エリス様……! もう少し身を隠す障害物があればいいんですが――!」
森や林でもあればその中に紛れてしまえるのだが、生憎この辺りにそういったものは無い。
いくつかの岩山はあるが、地表自体は障害物は無く、視界は開けている。
「仕方がないわ……! とにかく、時間を――!」
「はい……!」
ロシュフォールから身を隠しつつ、機甲鳥は岩山の低空を西へと飛んで行く。
遠目に氷漬けの虹の王が鎮座する地点が目に入って来た。
「……! あれは――!?」
「また、あんなに大量に――!」
虹の王の周辺に、再び飛鳥型の魔石獣が大量に生み出されようとしていた。
その巨大な群れの数は、虹の王周辺の空間を黒く埋め尽くしてしまいそうな程だ。
先程ラファエル達が相手をした集団を上回る数なのは間違いない。
それらが一斉に移動を始めようとしていた。
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