第279話 15歳のイングリス・東部戦線10
「アルル様と言われましたか……!? こんな事はお止め下さい! 何の希望にも、救いにもならない! 天恵武姫の真の力は、虹の王から人々を守る戦いにのみ使われるべきだとは思われませんか……!?」
ロシュフォールには話が通じそうにない。
そのためラファエルは天恵武姫のアルルへの説得を試みる。
しかし返事はなく眩い光の中、アルルの姿は獣人種の女性のそれから、黄金の輝きを放つ巨大な盾へと変貌していた。
「盾……!? ならば猶更、人々を守るためだけものにならねばならないだろうに……!」
それがこんな、人同士の争いに使われる事になろうとは、その姿に全く相応しくないだろう。
「守るさ! 俺とて守るべきものはある――! 貴公ら、迫り来る侵略者を撃滅してなァ!」
「身勝手な事を――!」
「ハハハハハハッ! こいつは素晴らしい、素晴らしい力だぞアルル……! 俺とお前が一つになり、最強の力を生み出す――! さぁ、酔い痴れようぞおぉぉぉぉっ!」
ヒイイィィンッ!
独特な甲高い振動音が、ラファエルの耳を劈く。
同時に盾の表面に散りばめられた宝玉のようなものが輝きを放つ。
それは一条の閃光の矢となり、高速でラファエルへと迫る。
「――っ!?」
かなりの高速だが、神竜の牙が与えてくれた翼の反応は間一髪で間に合い、浮上したラファエルは盾の閃光を避ける事に成功した。
逸れた光は眼下の岩山に着弾し――
ゴオオオォォォンッ!
轟音と盛大な土煙を上げる。
それが、その威力を如実に物語っていた。
「……!?」
たった一発の、細い閃光でこれとは――
「まだまだァ! 逃すかよッ!」
ヒイィンヒイィンヒイィンヒイイィィィンッ!
ラファエルを追う光線の数が、どんどん増していく。
「くっ――!」
避けるだけでは続かず、ラファエルは迫って来る一矢を薙ぎ払おうと、神竜の牙の刃を光にぶつける。
すると――
「ぐ……っ!? うあああああぁぁぁぁぁっ!?」
物凄い力で剣が圧され、ラファエルの体ごと大きく後方に弾き飛ばされた。
何とか墜落は避けたが、空中で何度も体が回転し、視界が定まらない。
ようやく安定した時には、ロシュフォールの乗っていた機甲親鳥が遥か前方の離れた位置にあった。
それだけの長い距離を弾き飛ばされたのだ。
「これは、恐るべき――凄まじい力だ……!」
やはり、違う――流石は究極の魔印武具。
虹の王に対抗し得る唯一の力だ。
この神竜の牙も、限りなく天恵武姫に近い上級魔印武具と言われるが――
天恵武姫との間には、越えられない大きな壁を感じざるを得ない。
「距離が開いたのは、幸いか――!」
まともに対峙するのは不利であると認めざるを得ない。
だが、天恵武姫の真の力を使って、ロシュフォールの身が無事で済むはずが無い。
であれば――自然とその対策は決まって来る。
「こんな所で無駄死には出来ない――!」
ロシュフォールが人を相手に武器形態の天恵武姫を振るう事は度し難い暴挙だ。
これで力尽きてしまえば、特級印を持つ者の本来の使命――虹の王から人々を守る役目は果たすことが出来ない。
それは彼に希望を寄せる人々への裏切りだ。
無駄死にと言う他は無い。
だが、そんな彼に自分が討たれてしまえば、ラファエルの使命もまた、果たすことは叶わない。
それもまた、無駄死にだ――それだけは避けねばならない。
ロシュフォールがどれだけ武器形態の天恵武姫を維持できるかは分からないが、確実なのは永続はしないという事。
ならば、正面からぶつかるのではなく状況を引き延ばせば、相手は確実に自滅する――
「どこへ行こうというのだ――!? 聖騎士ッ!」
真上から、声――
「!?」
気づけば空に浮いたロシュフォールが、身を覆うほどの巨大な黄金の円盾を体の前面に掲げ、突進して来ていた。
「喰らええぇぇぇぇぇいッ!」
ドガアアアアァァッ!
「ぐううぅぅぅぅっ!」
猛烈な殴打の衝撃を受け、ラファエルの体は眼下の岩山に直滑降。
背中から地面に叩きつけられ、その衝撃が地面を抉り、盛大な土埃を巻き上げる。
一瞬意識が朦朧とするほどの凄まじい威力だったが――素の状態であればこの程度では済まず、一撃で命を落としていたかもしれない。
それを神竜の牙が展開した鎧が、この程度で留めてくれたと言った方がいいだろう。
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