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第277話 15歳のイングリス・東部戦線8

「ええ――ちょうどいい所に現れてくれました……! エリス様、リップル様! 一言向こうの指揮官に話を通しに行きましょう! ここは共同で魔石獣の掃討に当たります!」

「それがいいわ、行きましょう!」

「分かった! あっちに行くね!」


 リップルは船首をヴェネフィク軍の現れた東へと向ける。

 そんな中、ヴェネフィク軍は一斉に魔印武具(アーティファクト)による遠距離攻撃の構えを取り――奇蹟(ギフト)による炎や氷の矢弾を放つ。


 その標的は魔石獣の群れではなく――ラファエル達から離れて魔石獣への対応に当たる、聖騎士団の本隊だった。

 魔石獣に注力していた本隊は不意を打たれ、いくつもの機甲鳥(フライギア)が破損し、残骸が地面へと落下していく。


「「「なっ……!?」」」


 ラファエルもエリスもリップルも、その光景に一瞬目を疑った。

 ヴェネフィク側に向かって来る敵を迎撃に駆け付けたカーラリア軍に対し、協力をするどころか魔石獣を無視して攻撃を加えるなど――あり得ない。


 しかしそのあり得ないことが現実に進行している。

 魔石獣迎撃のための隊列を取っていた聖騎士団の陣形が乱れ、そこに付け入るかのように魔石獣達が肉薄していく。


 陣を乱された聖騎士団の対応は後手に回り、魔石獣によって沈む機甲鳥(フライギア)も出て来る。

 そしてさらにお構いなしに、先制攻撃を成功させたヴェネフィク軍は、聖騎士団に向けて突撃を開始する。


「魔石獣を無視して、こちらの部隊に接近戦を仕掛けるつもり――!?」

「な、何考えてるのさ、もう――! 魔石獣を目の前にして、こんな事してる場合じゃないのに……!」


 エリスもリップルも、顔に驚きと怒りがありありと滲み出ている。

 だがそれ以上に怒りに震えているのは、ラファエルだ。


「許せない――魔石獣と戦っている人間を、後ろから撃つような真似をするなんて!」


 ラファエルは神竜の牙(ドラゴン・ファング)を再び抜刀し、力を開放する。


 グオオオオオオオォォォンッ!


 竜の咆哮が鳴り響き、ラファエルの体を紅い鎧と翼が覆う。


「止めろおおおぉぉぉっ!」

「あっ! ラファエル――!」

「待ってよ! 一人だけじゃ――!」


 リップルとエリスの声を背に聞きながら、ラファエルはヴェネフィク軍の部隊の方へと空を駆ける。

 あっという間に距離を詰め肉薄した時、ヴェネフィク軍は聖騎士団の部隊へ切り込む寸前だった。


「ようし、行けええぇぇぇいっ! 魔石獣も敵軍も構わず撃墜しろ! どちらにせよ、どちらとも我が国の敵だッ!」

「「「おおおおぉぉぉッ!」」」


 雄叫びを上げるヴェネフィク兵達。

 その鼻先を飛んでいた魔石獣が、突如巨大な爆発を起こした。


 ドグウウウゥゥゥゥン――ッ!


 空に轟音が響き渡り、兵士達の雄叫びがかき消される。


「な、何だ……!?」

「何事だ、誰かの攻撃か――!?」

「す、凄まじい爆発だ……!」


 爆炎の中から響き渡るのは、凛としたラファエルの声だ。


「警告する――! これ以上我が軍に攻撃を行うというのなら、次にこうなるのはあなた方だ……!」


 ラファエルの発する怒りを帯びた威圧感に、ヴェネフィク兵達は慄きはじめる。


「お、おお……!?」

「あれは――!?」

「カーラリアの聖騎士か――!」

「魔石獣を前にして、それと戦うものを攻撃するとは、それが騎士の行いですか……!? 今すぐ魔石獣の掃討に移って下さい……! 我々の敵は、魔石獣のはずだ――!」


 しかしラファエルのその言葉に、異論を挟む者がいる。


「ご高説痛み入る――だがお言葉だが、騎士の敵は魔石獣のみにあらず! 迫り来る侵略者どもを迎撃する事も、騎士として大事な役割だと思うんだがなァ? そこのところを貴公はどう考える? カーラリア最強の騎士と名高い、ラファエル・ビルフォード殿ォ?」


 それは、敵陣の中に浮かぶ機甲親鳥(フライギアポート)からだ。


「……あなたは――赤獅子ロシュフォール……!」


 ラファエルをカーラリア最強の騎士と言うならば、ヴェネフィク最強の騎士は彼、ロシュフォール将軍だろう。

 燃えるような赤い長髪が印象的な青年だ。

 向こうがやや上だが、ラファエルとそう年も違わず、騎士アカデミー時代の対外試合でラファエルは彼と対戦したことがある。


 結果は全くの互角。

 そして特級印を持つという境遇も同じ。

 顔を合わせるのはその時以来だが、ラファエルは彼には国を越えた仲間意識のようなものを持っていた。


 カーラリアとヴェネフィクの関係は以前からずっと良くないが、彼となら分かり合えるかもしれないと――そんな淡い希望は今、打ち砕かれつつあった。


「迫り来る侵略者――? どちらが……!?」


 この国境地帯に押し寄せてきたのはヴェネフィク軍が先である。

 それは疑いようのない事実だ。


「分からないかァ? 貴公は既に我がヴェネフィクの領内に踏み入っている。他国の軍が許可も無く踏み入って来たのなら、それは侵略ッ――! 魔石獣の脅威と何ら変わらんなァ! 迎撃して何が悪い?」

「馬鹿な……!? 魔石獣には国境も人種も関係ない! 全ての人間が手を取り合って、協力するべきだろう――! あくまでこちらはそうしたまで……! そうでなくては、いずれ魔石獣によって地上の人間は――!」

「そもそも! この地に魔石獣が現れたのは何が原因だァ? 貴公らが虹の王(プリズマー)の死骸などを持ち込んだせいだなァ! 魔石獣によって状況を攪乱、協力という名目を盾に、なし崩し的にわが国に攻め入る――そういうつもりだろォ!?」

「そんなつもりは毛頭ない! ロシュフォール将軍、あなた程の人物なら、こちらがどういう戦いをしていたか分かっただろう――!? あれが魔石獣を盾に貴国を侵そうとする者の戦い方か……!? 僕達の戦いを見て、本気でそう思うならあなたの目は確実に――かつて共に手合わせしたあの頃より曇ったな……! 国の中枢にあって政治に呑まれ、武人としての輝きを失ったか……!?」

「ハッハハハハハハハハ――ッ!」


 ラファエルの言葉に、ロシュフォールは大きく哄笑をする。

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