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第273話 15歳のイングリス・東部戦線4

「え……? 何エリス? 今何か言った?」

「? いいえ、何も言わないわよ――?」


 エリスはきょとんとした顔で首を振る。


「ええっ? でも確かに今声が聞こえたよ……?」


 どうやらエリスには聞き取れなかったようだ。


(お願い――軍隊を引いて、逃げて下さい……でないと、大変な事が起きてしまう――)


「……! また聞こえた! 軍を引いて欲しいって言ってるみたい……!」

「ええっ……!? 誰がそんな――あの虹の王(プリズマー)の声? 軍がどうとか、そんな事を言って来るものかしら……?」

「違うんじゃないかな? 虹の王(プリズマー)の声なら、エリスにも聞こえてると思うし――」


 同じ天恵武姫(ハイラル・メナス)なのだから、魔石獣に関わる事ならばエリスにも聞こえているだろうと思う。

 そもそも、長い天恵武姫(ハイラル・メナス)としての経験の中で、虹の王(プリズマー)の声を聞いた事など一度も無いが。

 虹の王(プリズマー)とは意思の疎通など土台無理な、絶対的な破壊者なのである。


「じゃあひょっとして――まだ、あなたの体に起きた異常が治っていないの……!? そんな――大丈夫? どこかが痛いとかはない?」


 エリスが心配そうな顔をする。


「まあ確かに、ボクに施された仕掛けっていうのは何も変わってないから、治ってはないんだけど――」


 リップルに施された仕掛けとは、元々のリップルの同種、獣人種の魔石獣を召喚してしまうというものだった。

 呼び出された獣人種の魔石獣により、リップルのいる街、国が攻撃されて大きな被害が出る事を狙ったものだ。


 獣人種独自の交信能力を利用した罠であり、ぞれが故に呼び出す魔石獣は獣人種が変化した個体のみ。

 獣人種は既に滅びた種族であるため、それらを全て撃破してしまえば、新たに魔石獣が呼び出される事は無い、と言うわけだ。

 イングリスが提案した、最も力押しで荒っぽい解決方法だった。


 結果リップルは何も変わらず、呼び出す敵が存在しなくなったため罠は無効化された。

 これは天上領(ハイランド)の二大派閥、教主連合と三大公派のうち、積極的に地上に機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)を下賜し始めている三大公派側に寄ろうとしているカーラリアの国の姿勢に対する、教主連合側からの制裁であると、三大公派側のセオドア特使は言っていた。


 リップルは教主連合側で生み出された天恵武姫(ハイラル・メナス)なのである。

 対してエリスは、三大公派側で生み出された天恵武姫(ハイラル・メナス)だ。

 だから、リップルの体に異変が起きた時も、エリスには何の異常も無かった。


 仮に似たような仕組みがエリスに施されていたとしても、それを使用してカーラリアを制裁する理由が、三大公派側にはないのである。

 伝統的にカーラリアの国と言うのは、教主連合と三大公派の両取りを考え、片方に偏重しない方針を取っている。


 三大公派からエリス、教主連合側からリップルを下賜して貰っている事からも、それは明らかだ。

 カーリアス国王の考え方も、その伝統に倣ったものである。

 しかし、その後継であるウェイン王子の考え方は、現国王とは異なっており、三大公派から積極的に機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)を下賜して貰い、カーラリアの軍を強化しようとしている。


 その先には、天上領(ハイランド)と地上の国を少しでも近づけ、対等な立場にして行くという目標があるように思う。

 ウェイン王子と個人的に親しいセオドア特使は、それを認め、後押ししているように見える。

 その二人の動きは、本当に実現するのであれば素晴らしい事だが、危険でもある。


 リップルの体に起きた異変。

 そして今回のヴェネフィクからの侵攻。

 いずれもウェイン王子やセオドア特使の動きと無関係ではないだろう。


「今回は別にどこも違和感はないし、ボクの体に異変が起きてるわけじゃないみたい。聞こえてくる声も、敵意は感じないし――」


 リップルはエリスにそう応じると、姿の見えない相手に向けて呼びかける。


「ねえキミは誰? どうしてボクに言うの? 軍を引かないと、どうなるって言うの?」


(あなたにしか、私の声を届けられないから――このままでは、生まれなくてもいい悲しみが生まれてしまう……だからお願い――)


「生まれなくてもいい悲しみ……? それだけじゃわかんないよ、これでもボクって現実主義者なんだよね。確かに虹の王(プリズマー)の状態はヤバいけど、下手に下がり過ぎたらヴェネフィク軍の侵入を止められないし、もっと具体的に理由を――」


(お願い――お願い……早く逃げて――)


 それっきり、声は聞こえなくなり――


「おーい? おーい! どうしたの? 何も聞こえないよ? 大丈夫!?」

「……私にはずっと何も聞こえないわね」

「う、うーん……? よく分からないなあ、とにかく帰ろ。まずは虹の王(プリズマー)の事だよ、イングリスちゃんをここに寄越して貰わないと――」

「わかったわ。でも何かあったらすぐに言うのよ?」

「……聖騎士団のみんなは勿論、騎士アカデミーのみんなとかにも沢山迷惑かけちゃったけど――一個だけいい事があったなあ」

「――?」

「んふふ~。エリスがいつもより優しい♪」


 リップルはエリスに向け、悪戯っぽい笑みを向ける。


「……っ!? も、もう――そんな事言ってる場合じゃないでしょ。私はあなたが不調だと戦力が低下するのを心配して――」

「はいはいありがとありがと。じゃあ、急ぐね!」

「ええ――」


 二人を乗せた機甲鳥(フライギア)は、最高速で母艦へと引き返して行った。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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