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第272話 15歳のイングリス・東部戦線3

 ――だんだん距離が近づいていく。

 新たに魔石獣が生まれてくる事は無かったが、身震いをしたのはどちらが早かっただろうか。


「――うぅ……! エリス――」

「――言わなくても分かるわ、リップル。これは――」

「うん……いつ動き出しても不思議じゃない――!」


 エリスもリップルも、天恵武姫(ハイラル・メナス)として長い時を過ごしている。

 いったい何年経つのか、考える事や数える事も、もうしなくなった程だ。

 完全体の虹の王(プリズマー)と対峙した経験も、一度や二度ではない。


 だから分かる。一国をも滅ぼすとされる、その圧倒的に強大な力――

 二度と味わいたくないと毎回思うが、何度も対峙させられて来た存在感。

 それが今、目の前の氷漬けの虹の王(プリズマー)からはそのまま感じられるのだ。


 これはいつ起き出して来ても、何ら不思議はないと思われる。

 今こうして大人しく氷の中に入っているのは、単なる気まぐれと言っていいだろう。

 その気まぐれがいつまで続くかは分からない。


 ひょっとしたら放っておけば何年も何十年もそのままかも知れない。

 逆に、今すぐにでも目覚めて動き出すかも知れない。

 虹の王(プリズマー)の考えている事など、エリスにもリップルにも知る術はない。


「また、虹の王(プリズマー)と戦う時が来たのね――今度もまた……」


 虹の王(プリズマー)が蘇る時。

 それは、天恵武姫(ハイラル・メナス)が真の力を発揮するべき時。

 武器形態化した天恵武姫(ハイラル・メナス)を手に取った聖騎士が、人々の最後の希望として虹の王(プリズマー)と対峙し――そして命を投げ出す。


 勝とうとも、負けようとも、聖騎士は助からない。

 エリスもそれは何度も見て来た。何度抗おうとしても、変えられない運命だった。

 今度の順番はラファエルだ。それが、もうすぐ――

 こればかりは何度経験しても慣れない、また慣れてはいけない心の痛みを感じる。


 自然と震え出すエリスの手に、リップルがそっと手を重ねて落ち着かせた。

 エリスは不愛想で他人に興味の無い性格だと思われがちだが、そんな事は無い。

 人一倍繊細で優しいのだ。自分達天恵武姫(ハイラル・メナス)の特性を考えれば、

それはどうしても必要な事とは言え、聖騎士やその家族にとってみれば死神も同じ。


 その事を気に病んでいるから、なるべく踏み込まないように、一定の距離を保とうとしているだけだ。

 それ程気にしているくらいだから、いざ何かある時の精神的な動揺はエリスの方が大きい。

 ここは自分が支えてあげなければ、とリップルは思う。


「何かを変えられるとしたらあの子、イングリスちゃんだよ――! 今回はきっと、あの子が何かを変えてくれるって信じようよ……! あの子の性格はさておき、力だけはほんと信じられない位だから……!」

「え、ええ――そうね。そうするしか、今の私達には……」

「とにかく戻って、この事を伝えないとだね――虹の王(プリズマー)はなるべく刺激しないようにして、現状維持。その間にこっちにイングリスちゃんを呼んで貰おう?」

「ラファエルは反対するんじゃないかしら? あの子にそんな危険な事はさせられないって――」

「……言うかもだね。むしろイングリスちゃんの場合はどんどん危険な所に連れて行ってあげた方が本人喜んで、仲良くなったり口説いたりするチャンスだと思うけどね」

「まあそれは、本人同士の問題よ。それに全ては、この虹の王(プリズマー)を何とか出来ての話よ。とにかく、あの子を呼んでもらう話は、まずラファエルではなくセオドア特使に話してみましょう? 虹の王(プリズマー)の様子については、皆に話さないといけないけわね」

「うん、そうだね。それがいいかも――暫くヴェネフィク軍が大人しくしててくれればいいんだけどね」


 虹の王(プリズマー)についてはもはや一刻の猶予もない状況なのは確かだが、元々聖騎士団は国境に進出して来たヴェネフィク軍を抑えるために出陣してきたのである。

 この場所に虹の王(プリズマー)を運んで来たのはこちらだ。


 それは元々は安置されていたアールメンの街の被害を抑え、侵略を企てるヴェネフィク軍への牽制の意図もあり――

 結果的に何が良かったのか悪かったのか、なんとも言えない状況である。

 つまりそれらがこれから決まる――とも言える。


「そう願いたいわね。虹の王(プリズマー)が動き出したら、人同士で争っている場合なんかじゃないのよ」


 天恵武姫(ハイラル・メナス)は魔石獣から人々を守るべき存在。

 地上の人間同士の争いを見たくはないし、それに手を貸す事も、本音ではあまり好まない。

 とはいえ攻めて来る者がいる以上、そうも言っていられないが。


「とにかく、引き返すね――」

「ええ、そうしましょう」


 リップルが操舵をし、機甲鳥(フライギア)は回頭して母艦へと進路を向ける。

 少し進んだところで――


(お願い――お願いします……)


 リップルの頭の中に、誰かの声が響いた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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『イングリスちゃん!』


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