第270話 15歳のイングリス・東部戦線
それは、イングリス達が北方のアルカードで行動中の頃――
カーラリア東部、隣国ヴェネフィクとの国境付近。
ラファエル・ビルフォード率いる機甲鳥部隊の前方には、無数の飛鳥型の魔石獣が群れを成していた。
その敵集団の更に後方遠くには、巨大な氷塊と、その中に鎮座する虹の王の姿が視認できる。
以前ラファエルとリップルが、任務でこの場所に運搬して来たものだ。
元々はもっと内陸寄りに位置するアールメンの街で厳重に監視されていたが、周囲に魔石獣を生む現象が散見されるようになり、辺境であるこの国境付近に輸送を行い、被害を少なくしようとしたのである。
それが、国境線でヴェネフィク軍と睨み合いを行う最中に更に一段階活性化をしてしまったようだ。
単に氷漬けの虹の王の周囲に魔石獣が固まってたむろしているだけなら、放っておくのも一つの選択だ。
が、徒党を組んでこちらに向かって来るのならば迎撃は不可避。
これはそういう状況である。
「皆さん! ヴェネフィク軍も迫っている今、僕達はこんな所で大きな被害を出すわけには行きません! 出来るだけ慎重に、被害を抑えた戦いを心がけて下さい!」
「はっ!」
「承知しました!」
「ラファエル様のご指示の通りに!」
ラファエルの呼びかけに、配下の騎士達は士気高く応じてくれる。
だが、言った張本人のラファエルとしては、内心少々複雑だった。
ヴェネフィク軍に備えて、魔石獣には省力して臨む――
それは現状からすれば妥当だが、本来自分の力は人々を魔石獣から守るためにあるものなのだ。
魔石獣という脅威がある地上の世界で、人同士が争う事はラファエルには頷けない。
だからと言って嫌だと投げ出すほど子供ではないが、素直に頷けない話である事は確かだ。
「みんなー。ラファエルも言ってるけど、あんまり頑張り過ぎて怪我しないように、ほどほどにねっ? 元気が一番だから!」
リップルが努めて明るく愛想良く、騎士たちを鼓舞する。
「「おぉ……リップル様の笑顔が戻って来た……!」」
「「ああ、やっぱりいいなあ……!」」
「「やはり、これがないと――!」」
リップルは暫く聖騎士団を離れて騎士アカデミーにいたため、こちらに戻って来たばかりだ。
聖騎士団の騎士達にとって、天恵武姫のリップルがこうして笑顔で激励してくれるのは、戦場に立つ上で大きな心の支えになっているのである。
「ねえエリス? みんな寂しかった! って顔してるよ? ちゃんとボクの代わりにみんなに笑顔で声をかけてあげてたのぉ? そういうのって大事だよ?」
「こ、声はかけてたわよ……? ちゃんとあなたの穴は私が埋めていたつもりだから」
「ホントかなあ……?」
リップルは騎士達を振り返り、視線で促す。
「た、確かに普段より多めに声はかけて下さいましたが――」
「笑顔ではなかったような……」
「普段より気を張り詰めていらしたのか、ピリピリされていたような――」
との感想である。
「……あんまりできてなかったみたいだけど?」
「し、仕方ないじゃない……! 私はあなたみたいに愛想が良くないのよ――!」
「ま、まあまあ……人には向き不向きがありますから――エリス様はエリス様なりに頑張って下さったと思います」
「お。流石フォローの達人のラファエル君は上手い事言うね~」
と、リップルはラファエルの背中をポンポンと叩く。
「ははは、どうも――」
「もういいでしょ。私は私の得意な事で貢献するわ。さあ、早く攻撃指示を出して頂戴」
エリスは双剣を抜き、前方の魔石獣の集団を見据えて身構える。
ラファエルは表情を凛と引き締め、一つ頷いて見せる。
「総員、攻撃準備! まずは遠距離からの攻撃を一斉射し、その後エリス様を先頭に突撃し、敵を殲滅します!」
「「「ははっ!」」」
騎士達が一斉に魔印武具を構える。
その形状は各員様々だが、共通しているのは遠距離攻撃が可能な奇蹟を備えているという事だ。
聖騎士団は、対魔石獣の手練れ集団である。各員が遠距離戦、近距離戦のどちらにも対応できるよう複数の魔印武具を所持し、その扱いに習熟している。
特に下級の魔印武具には火炎弾を打ち出したり、氷の矢を飛ばしたりする単純な遠距離攻撃の内容の奇蹟のものが多いので、全員最低でもそれらの一つは扱える、という具合だ。
「構え――!」
ラファエルの指示で、騎士達が一斉に攻撃の構えに入る。
炎や氷や雷や風や、様々な種類の力が騎士達の魔印武具に漲って行く。
その様子を背中に感じながら、ラファエルは前方の敵集団から目を離さない。
一丸となった集団で、真っすぐこちらに向かって飛んでくるのは相変わらずだ。
もうすぐ、こちらの騎士達の攻撃の有効射程に入る――
「――入った! 撃てええぇぇっ!」
力強いラファエルの号令と共に、炎や氷や雷や風の弾が無数に飛んで行く。
それらが一斉に着弾。何体もの魔石獣が直撃を受け、地に堕ちて行く。
その中でも、一人飛び抜けて大量に敵を撃ち落としているのは、リップルだ。
黄金に輝く二丁拳銃から繰り出される光弾が、弾幕と化して相手を制圧して行く。
「「「おおぉぉ……! さすがはリップル様――!」」」
騎士達から上がる感嘆の声。
「――調子は悪くなさそうね」
エリスも以前と変わらぬリップルの様子に安心したようだ。
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