第264話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)37
「ま、僕はあのガラクタみたいに、同じ存在がいくつも並行するなんて下品な真似は好まないがね――僕は常に僕だけでいいのさ」
つまり前のイーベルが血鉄鎖旅団の黒仮面に討ち取られたため、今のイーベルが動き出したという事だろうか。
そしてその態度を見る限り、こちらに関する記憶は残っているようだ。
どういう仕組みでそうなっているのかは分からないが、いずれにせよ――
「……そうでしょうか? もう一人くらいいた方が、色々と便利そうですが――」
「……イングリス。残念ながら、お前とは意見が合わないようだ。だがそれでいいんだ、それは僕が真面だって事だからな――!」
「失礼な。人を真面じゃないみたいに――」
「それは否定しないけど……!」
「ラニ、否定して!」
「しないけど……! でも、リックレアの街が最初に襲われたところから、みんなあんたの仕業なのね……! 本当に性格が悪いわ――! あんたこそ真面じゃないわよ!」
「ハン。子供の理屈だな――!」
イーベルはラフィニアの剣幕に対し、全く動じず嘲笑をする。
「な、何がよ……!」
「分からないのか!? 戦略なんてものが、個人の性格の良し悪しなどで左右されるはずが無いだろう……? そんな事も分からないようだから、子供だと言ったまでさ!」
「う……!」
少々怯むラフィニアの代わりに、イングリスが口を出す。
「という事は、そうせざるを得なかった事情があるという事ですね――大方、政治的な都合といった所でしょうか? 例えば、対立している三大公派との間で、地上への侵略はお互いに控えると言ったような協定が存在するとか――」
「全然控えてるようには見えないけど……!?」
「実態はね。だけど、有無を言わさず軍隊で地上を制圧するような事はやってないよ。今回もあくまでアルカードから協力を求められたから、それに応えるっていう形を作ってる。無理やりにだけどね。名分と実態って、大体は違うものだよ。本音と建前って言い換えてもいいけど――そうですよね、イーベル殿?」
「ふん……!」
イーベルは鼻を鳴らすだけで否定も肯定もしない。
当たらずとも遠からず――という所だろうか。
「ですが、そちらも引っ掛かりましたね――」
「何……!?」
「ラニはあえて、ああいう言い方をすることで、勝ち誇ったあなたから情報を引き出そうとしたんです。おかげで、凡その推測が出来ました」
実際は勿論そんな事は無いのだが――
保護者として、見過ごせなかっただけだ。ラフィニアを擁護したくなったのである。
したくなったのだから仕方ないだろう。
「そ、そうよそうよ……! 引っかかったのはそっちよ! べーっだ!」
「ぐ……!」
「――そして、真の狙いはこの地に眠っていた神竜フフェイルベイン……彼をどうするつもりかは知りませんが、天上領にはそういった情報もあるようですね」
神竜フフェイルベインをこの地に封印したのは、前世のイングリス王自身だ。
その事が語り継ぎ続けられ――天上領には情報として残っていた。
途中の経緯は分からないが、ならば天上領に行けば、自らが打ち立てたシルヴェール王国のその後の歴史にも触れられるかも知れない。興味深い話だ。
「待て――! なぜお前がその名を知っている――!? それは天上領の中でもごく一部のものにしか触れる事の許されない情報だぞ……!」
「簡単です。フフェイルベインご本人から教えて頂きましたから」
実際は勿論初めから知っていたのだが、この答えが最もそれらしく説得力がある。
前世からの記憶の事を必ず隠し通したいというわけでもないが、話が長くなるのでこれで済ませておく。
「神竜の声を聴いただと――?」
「ええ。イーベル殿がこちらに来られる前に、いろいろとお世話になっていましたので」
「そうよせっかく仲良くなれそうだったんだから、ひどい事したら許さないわよ……!」
「こんな姿で縛り上げて転がしておいて、どの口が言う! これは天上領としても重要な存在なんだよ! 全く不遜極まりない! ひどい事とやらをしているのはどっちだろうな!?」
「う……!? く、クリス! 何か言い返して――!」
「ふふふ――それに関しては、何の申し開きも出来ませんね――その通りだと思います」
フフェイルベイン相手にはこうする他は無かったのである。
「た、確かにね――下手に言い訳はできないわね」
「で、ですわね……そこはもう、認めるしかありませんわ――」
レオーネとリーゼロッテもそう冷や汗をかいている。
「僕はお前達に虐げられている神竜を助けてやる、という事だ! 少しでも罪悪感を感じているのならば、黙って見ているんだな……!」
「――では、そうさせて頂きましょうか」
「ちょっとクリス――!」
「ああ言われたら……ね。やっぱりちょっと、フフェイルベインには悪い事をしたって思うじゃない?」
「う、うーん……でも、イーベルだって碌なこと考えてないわよ、絶対。竜さんのためになんてならないわよ、きっと」
「そこは大丈夫だよ、何かあったらわたしが何とかするから。ね? ね? ちょっと見てみようよ?」
「……結局、楽しみにしてるだけでしょ? 向こうが手を組んで襲ってくる展開とか」
「……迫力のある戦いをお見せする事を約束するよ?」
「こら……! ちょっとは隠したり誤魔化したりしなさいよ――!」
「いひゃいいひゃい……! ひゃめれ、りゃに――!」
「もう、二人とも遊んでる場合じゃないわよ――!」
「竜が起きますわよ――!」
レオーネとリーゼロッテがイングリス達を止める。
イーベルの指示によるものか、偽の虹の王の体から細長い腕のようなものが伸び出して、フフェイルベインを拘束する竜鱗の鎖を解いていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




