第263話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)36
「多分、偽物だね――」
「偽物……!?」
「あ、あれが――?」
「あんなに似ていますのに――?」
「似てるんじゃなくて、似せてるんだよ」
そして、意図的にそんな事をするからには、勿論理由がある。
リックレアを滅ぼしたという虹の王らしき存在――それは、虹の王ではなく、あまつさえ魔石獣ですらなかったのだ。
イアンは、最後に全ては初めから仕組まれていたと言っていた。
つまりは――そういう事だろう。
「ど、どういう事よ、クリス――!?」
「もっと近づけば分かるよ。早く行こう!」
「結局嬉しそうにしてるじゃない……!」
「戦いたくないとは言ってない!」
虹の王であるかどうかは決定的な問題ではない。
強いかどうか。そして戦ってくれるかどうかである。
そういう意味では、後者は恐らく問題ない。フフェイルベインが相手をしてくれなくなって、手合わせ相手に困っていた所だ。丁度いい。
「はいはい、じゃあ全速力! 加速モード!」
星のお姫様はグンと加速し、一気に虹色の巨大な影に接近をする。近くに寄ってよく見ると、ラフィニア達は声を上げる。
「……これ、あちこちに機甲鳥みたいな機械が――!?」
「だけど、生身のような部分もあるわ……!」
「ですが、魔石獣のような魔石は見当たりませんわね――!?」
「形は竜だから――恐らく、生身の竜に天上領の機械を組み込んだような存在だね。イアンさんの場合は人に機械を組み込んだ形だけど――それと同じようなものだと思う」
その表面が虹の王に似た色の塗装や、埋め込まれた発光体によって、それらしく飾り立てられているのだ。
「……! クリス! じゃああれは、天上領のものだって事よね!?」
「ちょっと待って――! 元のリックレアの街を襲ったのは、きっとこれよね……!?」
レオーネの言葉にイングリスは頷く。
「そうだと思う。見た目が虹の王に見えるように偽装してるんだよ。この国はあまり天上領に頼ってこなかったから、そういう知識は不足してる――虹の王に襲われたんだって誤解しても不思議じゃないよ」
「……そんな! では始めにリックレアの街が滅ぼされたこと自体、天上領の企てだったと言うのですか――」
「うん。多分イーベル殿の――ね。だからイアンさんは最後に、全ては初めから仕組まれていたって言ってたんだよ。途中で分かったんだろうね」
「……ひどい! イアンくんは一生懸命だったじゃない――! あたし達のカーラリアにとっては良くない事だったけど、アルカードで二度とあんな事が起きないようにって、あんな体になってまで頑張ったのに……! それが全部――」
アルカードにも虹の王が現れ、リックレアの街が滅ぼされたため、天上領の力を借りて、国の防衛力を高める方針を目指す。
しかし魔印武具や天恵武姫の見返りに天上領に献上する物資は足りていない。
そのため、カーラリアとの友好関係を破棄し、ヴェネフィクとアルカードで挟撃させるという、天上領の作戦に従う事にする――
イアンはアルカードのために、その作戦に文字通り身を捧げていた。
その彼の行動のはじまり――リックレアが虹の王に襲われたという事実。それがそもそも正確ではなかったのだ。
イアンの志や心意気ははじめから歪められていた――恐らくは、イーベルの手によって。
「許せないわ……! イーベルは――あいつはどこにいるのよ……! 何だか分からないけどまだ生きてるんでしょ――!? 今度こそ本当に倒してやるわよ――!」
ラフィニアは瞳に涙まで浮かべて、イアンのために怒っていた。
この純粋さと優しさは、良い方にも悪い方にも働くだろう。若さゆえの未熟さ――とも言えなくも無いだろう。
が、ラフィニアを見守る保護者の立場としては、微笑ましくもあり可愛らしくもある。
「ラニ……」
イングリスがラフィニアに声をかけて宥める前に――その叫びに応じた者がいた。
「ははははっ! 冗談は止すんだな――君なぞにできるものか……!」
少年の澄んだ声質に、それに見合わない高慢な響き――
その声は、竜の形をした偽物の虹の王の頭部からだった。
いつの間にか、左右で色の違う赤と青の瞳の少年がそこに立っている。
「イーベル殿――!」
「あ、あれが……!? 本当に子供ね――」
「という事は、本当に全ては初めから天上領の仕組んだ事……!」
「だ、だけど……! どういう事なの――!? 完全に前見た姿そのままよ……! あれで生きてるはずないのに――!」
「きっとイアンさんと同じだね――」
「クリス、イアンくんと同じって事は――何人も複製されてるって事?」
「うん。そうだと思う――」
イアンと違うのは、イーベルは機械化もされていない生身にしか見えないという事だ。
そういう存在を複製できる技術がある――という事は、イングリスの複製も可能だと思われる。手合わせ相手の確保のためにも、是非それを使わせて頂きたい所だ。
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