第261話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)34
「イアーーーーーーンッ!」
親友を失ったラティの、悲痛な叫びが響く。
「くっ……! イアン君……!」
「天上人にとっては、わたくし達は――」
レオーネは唇を噛み、リーゼロッテは目を伏せる。
「……許せない――! 歪んだ性格は死んでも直らないって事よね……!」
ラフィニアが怒りに目を爛々とさせて立ち上がる。
「ラニ――プラムはもう大丈夫なの?」
「うん。何か凄い調子が良かったみたい――思ったよりずっと早く治せたわ」
それも竜理力の影響――かも知れない。
イングリスと互角の量の竜肉を食べたラフィニアなら、影響が出る事は全く不思議ではない。先程フフェイルベインの声は聞き取れていなかったようなので、今急に力に目覚めたのか、竜理力がフフェイルベインの声を聴く方向に働かなかったのか――それは良く分からないが。
「プラムはもう大丈夫――体力を消耗して、眠っちゃってるけどね。さあラティ、プラムを部屋の中に運んで、寝かせてあげて。こんな所じゃ風邪引いちゃうから」
「分かった――! 本当にありがとうな、感謝するぜ――!」
「王子、私も手伝います――!」
「ああルーイン、頼む――!」
ラティとルーインは協力して、プラムを建物の中へと運んで行く。
「さあ、イアン君の敵討ちに行くわよ、クリス――! イーベルは何処!?」
「……まだ、分からないよ。でも多分現れるのは――あっちだと思う」
と、イングリスは自分達が戻ってきた方向――つまり、フフェイルベインが鎮座しているリックレアの街跡の窪地のほうを指差した。
イーベルの後釜としてこの国にやって来た天恵武姫のティファニエは、リックレアの土地を『浮遊魔法陣』によって奪い去るのは、イーベルから引き継いだ作戦だと言っていた。
彼女自身は、その土地の地下に神竜フフェイルベインが封印されている事までは知らなかった様子だった。イーベルとは折り合いが良くないような話をしていたので、深くは聞かされていなかったのだろう。
そもそもの作戦の立案者であるイーベルは、フフェイルベインが眠っている事は恐らく知っていただろう。たまたま天上領の領土にしようと狙いを定めた土地に、たまたま神竜が埋まっているなど偶然にしては出来過ぎている。
知っていたと考える方が自然だ。
となると、その狙いは勿論神竜フフェイルベインだという事になる。
そうなれば、姿を見せるのは神竜の目の前――という事になるだろう。単純な推測だ。
「きっと神竜に――フフェイルベインに何かしようとしているんだと思う」
「えぇっ!? ダメじゃない、そんなの……! せっかくあたし達の事分かって貰えそうだったのに――! 何かあったら、美味しいお肉も貰えなくなっちゃう!」
「まあ、ある程度備蓄は出来て来たけど――ね。それより――」
イングリスとしては、フフェイルベインがこちらへの戦意を喪失してしまったのが由々しき問題である。イーベルと手を組んで、これなら勝てると思い直して、一緒になって襲い掛かって来て頂けるとありがたい。
フフェイルベイン程ではなくとも、イーベルも相当な実力者だ。その可能性は無くはない。一度亡くなったはずのイーベルが、今どういう状態なのかは分からないが。
「それより?」
「あ、いや……うーん――」
このままイーベルの好きにさせるのも一興――という気もしなくもない。
「ちょっとクリス? 暫くほっといた方が強い敵が出て来るかも♪ とか思ってるんじゃないでしょうね……?」
「え……!? いやいや、そんな事ないよ? ただほら、今後の事を考えたら、相手の手の内は全部見て、ラファ兄さまやセオドア特使に報告すれば助かるだろうし――ね? だから、ちょっと何をするつもりか泳がせて見てみない?」
「ダメ! クリスはそんなふうに余裕見せて、王立大劇場を爆発させたばっかりでしょ! 今後の事より、今の事よ。イアンくんのためにも、これ以上リックレアでひどい事はさせない! イーベルの企みを潰すのよ! さあ、急ぐわよ!」
ラフィニアはイングリスの手を握って引っ張る。
そう言われれば、イングリスとしては断れない。
従騎士という立場からも、可愛いラフィニアの頼みだという心情からも。
「うん。わかった――」
イングリスとラフィニアは、再び星のお姫様号に乗り込む。
無論レオーネもそれに続き、リーゼロッテは直接は乗り込まず、奇蹟の翼で宙に舞い上がった。そして星のお姫様号が高く浮き上がると、その船体の縁を手で掴んで随行する構えだ。
「急ぐわよ!」
操縦桿を握るラフィニアが機甲鳥を発進させた直後――
ズズズズズズズ――――!
大きな地鳴りが発生し、周辺の森や雪が震え始める。
その発生源は、イングリスが指摘したようにフフェイルベインが鎮座する位置の近くだった。地面にひび割れが発生し、それがどんどん広がっているのだ。
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