第259話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)32
「――!」
「……これで、どうです?」
「止めなさい! 卑怯よ! あなたの相手は私のはずでしょう!?」
「ええ、ですから――これを強くあちらに放てば、優しいあなたは二人を見捨てられず身を挺して弾を止めようとして――結果的に攻撃を受けてくれるでしょう? こちらのほうが早いですよね? これは卑怯ではなく、臨機応変に考えた結果の最善手です」
「く……!」
ならば、この場のこちらの最善手は――?
思いつく前に、イアンが動く。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
発射口が震えるように唸りを上げて、先程よりも数倍大きな光弾が形成される。
どうやら力を溜めて、威力を高めるような使い方も出来るようだ。
「さあ――このままではプラムちゃん達が大変ですから、助けてあげて下さいね?」
イアンは微笑を浮かべて、数倍の大きさの光弾をプラム達に解き放つ。
その時、レオーネは既に光弾の軌道上に割り込むように駆け出していた。
「ルーインさん! あなただけでも避けてッ!」
そう呼び掛けながら、剣を振り上げる。
この一刻を争う緊急時だからか、腕に重みは感じない。火事場の馬鹿力というやつだ。
この場の最適解は、レオーネには分からない。だが、どうするべきかは分かっている。
魔印武具の力が封じられている今、この剣では大きな光弾を斬ったり弾き飛ばす事は出来ないだろう。
だがそれでも――プラムを見捨てる事など出来はしない!
「でえええぇぇぇぇいっ!」
渾身の力を腕に込めて、光弾へと斬撃を叩き付ける。
その結果――
バシュウウウウウゥゥゥンッ!
光弾は大した手応えも残さずに真っ二つに割れて、大きな音を立てて消滅した。
「え――? う、嘘……!?」
思わず口からそう漏れた。
目の前の状況に一番驚いたのは、レオーネ自身だ。
魔印武具の力は封じられ、相手の光弾は先程よりも強力。
これで、先程よりも簡単に斬れてしまうはずがない。
剣が弾かれて、自分の身に直撃を受ける事を覚悟していたのに――
これは、どう考えてもおかしい。あり得ない事だ。
「何いぃぃぃッ!?」
イアンも目を丸くしていた。
だが、レオーネの驚きはこれでは終わらない。
強く、裂帛の気合を込めて振った剣の軌道。それは、黒い空間に半透明の白い轍を残していて――むくむくと増殖して形を変えて、大きな竜の咢になった。
「こ、これは……!? あの竜の――た、確か幻影竜……っ!?」
全く理解が追い付かないのだが、レオーネが剣を振り下ろしたら幻影竜が出た。
何故かは分からないが、目の前の現象はそうとしか言いようがない。
そして地面を叩いた剣の切っ先――それも変形し、竜の咢を象ったような複雑な形状に変化していた。
この剣の形状変化が、光弾を斬り捨てる威力を発揮し幻影竜まで生んで見せたのだろうか? ともあれ、レオーネが生み出した幻影竜――それは、前に見たそれと全く同じだった。つまり、敵に対しては唸りを上げて牙を剥き、襲い掛かるのだ。
グオオオオオオオォォォンッ!
猛然とイアンに突っ込んだ幻影竜は、光弾を放った右手を中心に半身を喰い千切って見せた。そして満足したのか、ふっと歪みながら姿が薄くなって、消滅して行った。
「な……!? なんだ、これは――!? こんな……!?」
半身を喰い千切られたイアンは立っていられず、その場に崩れ落ちる。
殆どが機甲鳥のような機械化された身体であるため、致命傷ではないだろうが、この損傷では動けないだろう。
「や、やったぞ……! 魔印武具の力を封じるというのは、不完全だったんだな――!」
「い、いえ……! 魔印武具の力自体は封じられたままだと思います――! これは何か、別の力が……!」
レオーネがそう応じているうちに、ふっと周囲の景色が変わり、元の銀世界の集落の光景が戻って来た。今の一撃で、イアンの力の発生源を破壊することが出来たのだろう。
「「「レオーネ!」」」
上の方から、名前を呼ぶ声。丁度イングリス達が戻ってきてくれたのだ。
イングリス、ラフィニア、ラティは星のお姫様号に。
リーゼロッテは奇蹟の翼で飛行している。
「みんな――良かった! ラフィニア! プラムが大変なの、すぐに診てあげて!」
「えっ……!? プラムが――!?」
「な、何があったんだよ――!?」
「ラティ王子! プラム殿は民衆を庇われて、あの者の刃を受けられたのです……!」
「イアンが……!? な、何でだよ……!? 何でそんな――!?」
ラティは半身を失って転がるイアンの方に、心底驚いたような視線を向ける。
「詳しくは後程――! ともあれ早く治療をせねば、このままでは命に関わりかねません――!」
「わ、分かったわ! あたしに任せて! ほら、ラティも!」
「ああ……!」
ラフィニアとラティは血相を変えて星のお姫様号を飛び降り、プラムの下に向かう。
イングリスやリーゼロッテにレオーネも続いて集まり、輪になった。
「あ、ラティ――ごめんなさい、迷惑かけて……こんな事だから、いっつもどん臭いって言われちゃうんですね、私――」
ラティの姿を見たプラムは、青ざめた顔をしながらも、健気に笑みを浮かべて見せる。
「馬鹿、そんな事言ってる場合か! す、済まねえ……俺がもっとしっかりしてれば、こんな事には……! もっと早く、はっきりしてれば……!」
声を震わせているラティの背中を、バシッ! とラフィニアが叩く。
「くよくよしない! 大丈夫よ、あたしが絶対助けてあげるから! ほら、それよりプラムの手を握っててあげなさい! 安心出来たら、きっと怪我の治りも良くなるわ!」
ラフィニアは奇蹟を発動し、掌に治癒の力の光を集める。
「あ、ああ――プラムを頼む……!」
「うん!」
その様子を見ながら――イングリスは思う。
ずいぶんこちらの奇蹟にも慣れて来たのか、光の収束の速さもその輝きの強さも、最初より数段上になっているように思う。
今では奇蹟の力を組み合わせて治癒の効果を発揮する光の矢を撃つような技術も身に着けているし、ラフィニアの進歩は目覚ましい。
きっとプラムを助けて見せるだろう。
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