第257話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)30
刃を抜いて騎士相手に切りかかったイアンの行動に、その場に集まった民衆からも悲鳴が上がっていた。
「す、すまない……! レオーネ君……!」
「ええ、間に合って良かった――下がってください、危険です!」
レオーネは刃の長さを戻しつつ、前に出てルーインとイアンの間の位置に立つ。
「皆さんも危険です! 遠くに離れて!」
民衆達にも呼び掛けると、イアンの行動に怯えた彼らの大半は、レオーネの言葉に従って離れていく。
中には勇気のある者もいて、その場に踏み止まりイアンに意見を述べようとする。
「おいあんた――! いきなりそこまでしなくてもいいだろ……!? まだ俺達は話し合いを続けるべき――」
「ふん――」
冷酷に鼻を鳴らしたイアンの、腕の刃がぐんと伸びる。
それは、イアンに意見した青年に届くには十分な長さとなり――
「五月蠅いですよ、黙っていて下さい」
右腕を振ると、刃が青年の身を切り裂こうと襲い掛かる。
レオーネの剣はイアンの左腕の刃を組み止めており、すぐには反応できなかった。
「う……!? うわあぁぁっ――!?」
「あぶないっ! 逃げて下さいっ!」
そう叫んだのは、プラムだった。
青年の前に飛び出して、身を挺して彼を庇った。
イアンの刃は青年ではなく――プラムの背を深々と斬り付ける結果になった。
プラムはその場に倒れ伏し、服の背が赤く染まって行く。
「プラム殿っ!?」
「プラム! イアン君……! 何てことを――! 自分が何をしたか分かっているの!?」
レオーネは渾身の力を込めて、イアンの身体を大剣の腹の部分で撃った。
「ぐぅっ……!?」
イアンの身体が大きく弾き飛ぶ。
距離が開いた隙に、レオーネはプラムの元に駆け寄った。
「プラム! 大丈夫――!?」
「す、すまん、お、俺が……!」
狼狽する様子の青年に、プラムは弱々しくだが、笑顔を向ける。
「……大丈夫ですか? 私は平気ですから――離れいていて下さい、ね――」
「あ、ああ……! 本当にすいません……! 俺のせいで――!」
「プラム殿、何と言う無茶を――! 傷は深い――決して油断は出来ん……!」
「ルーインさん! すぐ止血を! もうすぐラフィニアも戻って来るから、それまでの辛抱よ!」
リーゼロッテがこの騒ぎの事を伝えに、ラティを呼び戻しに向かってくれている。イングリスとラフィニアも一緒に戻ってくるはずだ。
プラムの傷は深そうだが、ラフィニアが戻ってくれば、治癒の力の奇蹟で助ける事が出来るはず――
「分かった、任せてくれ……! そちらは、奴を――!」
「ええ、イアン君は私が止め……いえ、倒します!」
レオーネは大剣を握る両手に力を込めて、吹き飛ばしたイアンに向けて構えを取る。
イアンは身を起こしてはいるが、まだ立ち上がらず、何やら両手で頭を押さえる仕草を取っていた。何かに苦しんでいるように見える。
「そ、そうして下さい、レオーネさん……! 僕は嫌だ――プラムちゃんを、こんな事なんて……! う、ううぅぅ……!」
「イアン君――!?」
「は、早く僕にとどめを刺してください――そうしないと、また……! い、イーベル様の実験は、あの方の意識を、他の者に移して操るための……だから僕は――」
「イーベル……!?」
レオーネは直接の面識は無いが、その名は何度も耳にしている。
天上領の軍の大幹部だ。既に血鉄鎖旅団の黒仮面の手によって討ち取られたらしいが、このアルカードに関わる天上領の陰謀の、中枢にいたという存在だ。
あの天恵武姫のティファニエの存在も、イーベルの代わりに過ぎないとの事だった。
「ど、どういう事なの――!? あなたが途中でプラムを浚って姿を消したのも、そのイーベルのせいなの……!?」
「僕の中で目覚めた、イーベル様の意識が――あなた達をリックレアに向かわせるためにプラムちゃんを……! そしてその間に、準備が整ったんです……!」
「準備……!? 何をするつもりなの――!?」
「そ、それは……う、あああぁぁぁ――」
「イアン君!」
ぴたり、とイアンの動きが止まる。
苦しむのが止まり、すっと立ち上がり――
「さあ――ね! 自分で考えたらどうですか!」
こちらに向けて翳した掌から筒のようなものがせり出し、そこから輝く光弾が発射される。それも一発や二発ではなく、連続して。
「くっ――!?」
イアンの意識がまた乗っ取られたと言う事だろうか。
ともあれ、これは迎撃せねばならない。
避けても後ろのプラムやルーインに当たってしまう。
「やあああああぁぁぁっ!」
レオーネの剣捌きが、飛来する光弾を次々叩き潰して行く。
剣で触れるたびに光弾は爆ぜて腕に衝撃を伝えて来るが、耐えられない程の負荷ではなかった。
このまま凌げる――隙を見て反撃を――!
そう思った矢先――
「ならば、これで!」
イアンがもう片方の手もこちらに突き出す。
そこにも同じように、発射口が見える。
ドドドドドドドドドドド――ッ!
光弾の量が一気に二倍、弾幕と化してレオーネを襲う。
「……!」
剣捌きの速度を上げるが、圧される――!
これでは防ぎ切れなくなる。一度決壊すれば、もう立て直せなくなる。
一気に押し切られ、後方のプラム達にも致命傷になる。
――それは、させない!
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