第252話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)25
「し、しかし――なんという凄まじい戦いだ……あんな巨大な怪物を相手にして……! これならば、あの凶悪な天恵武姫ティファニエを撃退したというのも頷ける――」
今日は願い出て戦いを見守りに来たルーインが、驚愕に目を見開いていた。
巨大な竜の尾を笑顔で軽々運んでくる様子や、異常なまでに強固な竜鱗を素手で殴って加工している様子を見て、只者ではないことは分かっていたが――それでもなお度肝を抜かれた。
あの巨大な竜を、真っ向から拳一つで制圧していく力強さ。
文字通り目にも止まらぬ動きの速さ。
それでいて時折姿が見える際の動きは、流れるように美しく、優美で――
「人とはあのように強く美しく、戦えるものなのか――」
「まあ、クリスは特別ですけどね。天使の身体に武将の魂が宿ってますから」
「ははは、本当にそうだな――彼女を見ていると、頷かざるを得ないな……」
ラフィニアの言葉にルーインは頷く。
「な? 言った通りだろ? あいつに何とかできなきゃ、あの竜は誰にもどうにもできねえんだよ」
「ええラティ王子。し、しかし分かりません――何故あれほどの実力者が見習いの従騎士などという立場に……? 天恵武姫をも上回るとなると、聖騎士やそれ以上の立場にあって然るべきかと――いや、カーラリアで不遇なのは我が国にとっては救いかも知れません。要職をお約束して、アルカードに留まって頂くという手も考えられますから――」
「いや、無駄だぞ。あいつが従騎士なのは、あいつが従騎士でいたいからだ」
「は?」
「カーラリアのカーリアス国王もな、あいつを近衛騎士団長にしたいって言ったらしいんだよ――けどあいつ、あっさり断ったらしいからな。面倒くさいからって――」
「な、なんと……!? わ、私には理解不能です……! 何故そんな……!?」
「出世せずにずっと前線に立ち続けて腕を磨きたいから――だからずっとあたしの従騎士でいるって言ってるんです。でもあたしは、将来はうちの兄さまと結婚して侯爵夫人になって欲しいんだけど――」
そして本当の姉妹になって、イングリスはラファエルと、ラフィニアはまだ分からない素敵な人と、一緒に子供を産んで、育てて――母と叔母達のように、仲睦まじい家族を紡いで行く。それがラフィニアの思う理想の未来である。
と同時に世のため人のため、そして故郷ユミルのために騎士の勤めも果たすつもりでいるから、どう両立していくかは考え所だが。
「な、なるほど……?」
「まあ、そういう事だからあいつを立場で釣るのは無理だぞ。基本、好きなようにさせるしかねえんだ。俺達にはどうする事も出来ねえ」
「ま、まるで台風か天変地異のような存在ですね――」
「ああ、そんな感じかもなあ。けどまあ、悪いやつじゃねえし――あの通り滅茶苦茶美人だから何してても見栄えいいし、最終的にはお目付け役がいるからな。ラフィニアの言う事だけは聞くからさ。だから大丈夫だ」
「そ、そうですか――では彼女一人に辛い戦いを押し付けているというような事は――」
「「「「「ない。あれは、好きでやってる」」」」」
ルーイン以外の全員が、そう口を揃える。
「はははは――そうですか……」
「とはいえ必要な事でもあるんだよな。まだ食糧は必要だからな――」
「そうよね。だから止められないわよね――クリスはいつもうまい理由を持ってきて、自分の好きなようにやっちゃうから……」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォンッ!
その時、それまでで最大の轟音が響き渡り――
ギャオオオオオオオオオォォォォンッ!
同時に巨大な竜も悲鳴のような咆哮を上げ、ばったりとその場に倒れ伏した。
そして――
「うん……! 今日も楽しかったなあ――ラニーー! みんなーー! もういいよ、今のうちに尻尾を切らせてもらおうよ~~♪」
イングリスは機嫌が良さそうな笑顔を浮かべて、地上から手を振ってくる。
「あ、終わったみたい――よし、今日も食料調達ね! 行きましょ!」
イングリスがフフェイルベインと手合わせして気絶させ、その間に尾を切って食料調達をし、それを食糧不足に喘ぐ周辺の村や街に配る――そんな日々は暫く続いた。
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