第251話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)24
翌日――
「こんにちは。ご機嫌如何ですか?」
『貴様ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
グオオオオオオォォォォォォォンッ!
イングリスが竜鱗の鎖による戒めを緩めると、神竜は最大級の怒りの雄叫びを上げる。
巻き上がった突風がイングリスの長い銀髪を揺らし、凄まじく強烈な殺気が身を貫く。
ビリビリとひりつくような空気が、心地良い。今日もいい戦いが期待できそうだ。
「お元気そうで何よりです。尻尾のほうももう復元していて、流石の回復力ですね?」
『それで機嫌を取っているつもりか!? 貴様が我が竜理力を身に宿す理由が分かったわ! 我が眠っている間に同じように尾を切り取り、喰らいおったな……!?』
「さすがにお分かりですか――仰る通りです。決してあなたの竜理力を目的としたわけではありませんでしたが……そちらは想定外でした」
『何? ならば何の目的でこのような所業を行った!?』
「それは、少々こちら側の事情がありまして……わけあってこの土地の周辺の人々は食糧不足に陥っているのです。彼らへの配給に丁度良かったもので――寝ている間に少々尻尾を拝借させて頂きました」
『余計に悪いわッ! この神竜の肉をそこらの家畜の肉と同等に扱いおったな……! 下賤な人間共の飢えを凌ぐための施しに使うなど……ッ!』
「いえそんな、そこらの家畜と同じなんてとんでもない。全然違いましたよ? それはもうとても――言葉では表し切れないくらいに美味しかったですから!」
『それに何の意味があるかあああぁぁぁぁっ!』
ドガアアアァァァァァァンッ!
怒りに任せたフフェイルベインの尾が地を撃ち、振動で一瞬イングリスの体が浮く。
「美味しい事は素晴らしい事かと思うのですが?」
『黙れ――! この神竜を虚仮にしおって……! このような屈辱、我が長き生において他に無いわあああぁぁぁぁぁッ!』
フフェイルベインは、首を大きく振り上げて――
ガチンッ! ガチイィィィィンッ!
極寒の竜の吐息を巻き散らそうとしたのだろうが、口元は念入りに竜鱗の鎖で封じており、それをまだ解いていない。
いくらフフェイルベインが力を込めようとも、そう音が鳴るだけだった。
『ぐぬうぅぅぅぅ――! 忌々しい……! 我が鱗であるがゆえに、我とて容易には引き千切れぬか――!』
「まあまあ、落ち着いて――長く生きていれば、その分色々な事がありますよ? わたしもあなたに比べれば短いですが、人としては長い時を生きています。一度天寿も全うさせて頂きましたし――転生をして、娘に生まれつくなど思いもよりませんでしたが、これはこれで楽しいものですよ? あなたにも今起きていることに身を任せて、楽しんでみる事をお勧めしますが?」
『家畜のように肉を喰われ鱗を剥がれ、何を楽しめというのか!? 世迷い事をッ! 許さん、許さんぞ――! 今度こそ貴様を叩き潰し、人間どもは全て皆殺しにしてくれる! 二度とこの我に不遜な真似が出来ぬようになああぁぁぁぁッ!』
「そうですか――ではお相手させて頂きましょう。じっとしているよりも暴れる方が気も紛れるでしょうし、ね?」
『おおやらいでか――! 昨日は不覚を取ったが、今日はそうはいかんぞ……! もうそなたの手は割れているのだからな!』
「ふふふ――今日は接近戦を重点的に鍛えたいので、お口はそのままにさせて下さいね? わたしも飛び道具は使いませんから――ちゃんと駄目になってもいい服に着替えてきましたし、思う存分格闘しましょう?」
『知ったことか! くたばれえええぇぇぇぇぇぇいッ!』
「ありがとうございます――そんなに本気になって下さって。あなたとこうしていれば、わたしはもっともっと強くなれます――! はああああぁぁぁぁっ!」
ドゴオオオオオオォォォンッ!
イングリスの拳と神竜の手が衝突し、巨大な衝突音と衝撃をまき散らす。
ドガガガガガッ! ガガガガガガガガガガガガガガガッ!
巨大な威力のぶつかり合いの余波は、突風となって上空に待機する星のお姫様号や他の機甲鳥の船体を揺らす。
「きょ、今日は昨日以上に激しいですわね――!」
「クリスってば今日は汚れてもいい服で、思いっきり殴り合うって言ってたから……!」
「ほ、本当にその言葉通りね……! 目で追える早さじゃないけど、音と衝撃が凄いわ――!」
「相手の竜も滅茶苦茶怒ってたみたいだしな……!」
「ラティ、そんな事分かるんですか?」
「ん? 何となくで伝わるだろ? 怒り狂ってるぞ、あいつ――!」
「ま、まあ昨日あんな状態で放置したし、当然といえば当然よね……」
ラフィニアはうーんと唸る。
あの竜の事を考えれば気の毒ではあるのだが、こちらにはまだまだ住民に配る食糧は必要だ。頼めば大人しく協力してくれるような相手ではなく、放っておけば人を襲い喰らう存在だというのは、イングリスから聞いている。
なので、拘束しておくことは必要だっただろう。
ラフィニアとしても、イングリスのやり方を駄目とも言い切れない。任せるしかない。
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