第25話 12歳のイングリス13
「次ッ!」
イングリスは次々と徒手空拳で雷の獣を撃破して行った。
反撃の自爆は確実にイングリスを捉え、轟音をまき散らし地面を抉り、並木道を破壊したが、イングリス自体は無傷だった。
何者もイングリスを阻むことは出来ず、ただただ雷の獣の数が減って行く。
「エリスさん、おかげ様で分かりました! 近づいて攻撃すると反撃が避けられないと言うならば――反撃を無効化するくらいに自分を強化すればいいと!」
「そうじゃないし! 離れて攻撃しなさいって言いたかったの!」
言う間に雷の獣の残りは半数以下になっている。
その動きは、天恵武姫のエリスや聖騎士のレオンから見ても速過ぎた、鋭過ぎた。
先程自分と戦った時、こちらも全ては見せてはいないが、イングリスもこちら以上に力を隠していたのだ。その事実にエリスは戦慄する。
こんな可愛らしい少女が――これは国や世界の運命を左右するような力ではないか?
「こちらの方が早いので!」
イングリスが行ったのは、霊素を凝縮した波動を身に纏うこと。
霊素殻とでも言えばいいだろうか。
それが障壁となって、雷の獣の自爆の衝撃を無効化した。
更にはイングリスの身体能力を、より強力に引き上げる効果も兼ね備えている。
神騎士は半神半人。その身体の力も、半分は神。故に通常の人間を大きく上回る。それは体が成長すると共に、顕著になって来た。
それを霊素の波動を身に纏うこの技で、さらに引き上げた。
ゆえにこの状態である。
「はあぁっ!」
イングリスの掌打が最後の雷の獣を撃つ。
衝撃で大きく歪んだその姿が弾け飛び、イングリスを叩く――
が、霊素殻がイングリスを護り、傷をつけられない。
直後、イングリスは滑るような速さでエリスの元まで移動し、並んで立った。
「お待たせしました」
「……あなた、意地の悪い子ね。私に本気を出せって言いながら、自分は本気じゃないんだもの」
「そうでもありませんよ」
この技に欠点が無いわけでもなく、そう長続きはしない。
効果が切れた後の疲労感、脱力感もかなりある。いわゆる切り札の一つである。
これがもっと成長して、霊素の持続力が付けば、長期戦も可能になって来るのだろうが――それは今後の自分の修練次第だ。
「君はとんでもない子だなぁ。あれだけいたのが足止めにもならねえとは」
レオンも呆れて肩を竦めるほかは無かった。
単体の聖騎士や天恵武姫をも上回ると言うなら――
「本気で君をどうこうしようとするなら、俺やエリスの単体じゃ難しいかも知れん……聖騎士が操る天恵武姫をぶつけるとかしねぇとな。それはつまり、魔石獣の最強種たる虹の王に匹敵するかも知れんバケモノだって事だ」
「はい。自分の力でそれを倒せるように修行をしています」
「はぁ!? ほ、本気なの!?」
「ええ」
「はっは! すげえな。夢はでっかくだな! だが……君の将来にゃ期待するが、今は弱点がある事を期待させて貰うぜ。例えばその力は持久力不足で長く続かねえとか、な?」
――勘の鋭い男だ。軽薄な調子だが、確固たる信念を持ち頭も切れる。
もし前世の時代に自分の部下にいたら、重臣に取り立てていたかも知れない。
「だとしたら、どうします?」
「決まってるさ、我慢比べだ! こいつはまだまだ出せるんでな!」
レオンは再び、鉄手甲の魔印武具を打ち鳴らそうとする。
それにより、雷の獣を生み出す事が出来るのだ。
ガチンと鉄と鉄が撃ち合わさる音が鳴り――
そして、雷の獣は生まれなかった。
「な……!?」
「させません」
イングリスの仕業だ。
レオンが鉄手甲を打ち合わせる寸前に目の前に割り込み、蹴り足を差し込んだ。
先程の音は、イングリスの脛当を叩いたのだ。
鉄手甲同士を叩き合わせないと、この奇蹟の効果は発揮されない。
前のレオンの仕草からそう読んだが、当たっていたようだ。
「な、何てこった……マジかよ」
そしてその動きが、レオンには見えなかった。
気づいたら目の前にイングリスの脛当と、その先に覗く形のいい太腿が見えた。
「……あまり女性の脚をまじまじと見つめないでください」
「冗談! 見せたのは君だろ!?」
レオンは言いながら大きく飛び退る。
身を引きながら、鉄手甲を打ち合わせようとするが――
「させませんと言っています」
イングリスはぴったりと、レオンに付いて来る。
レオンの両手首を掴み、動きを封じる。
「くっ……!」
「でえぇいっ!」
膝蹴りがレオンの腹部に突き刺さる。
その威力でレオンの身体が浮き上がる程の衝撃だった。
「ぐおぉぉっ!?」
その一撃でレオンの意識は飛びそうになった。
何もなければ気絶していただろう。
踏み止まれたのは、別の刺激があったから。
突如、屋敷の建物の部分の壁が崩壊し、悲鳴が轟いたからだ。
「きゃあああああっ!?」
破壊された壁から飛び出て来たのは――ラフィニアだった。
「ラニ!?」
イングリスは思わずそちらに注意を向け、ラフィニアの名を呼んだ。
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