第247話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)20
その動き――イングリスが霊素の光弾の軌道を変えるために先回りして打撃を加えたに違いないが、その動きがフフェイルベインには見えなかった。
それをもって、確信する。
間違いない――あの老王よりも、それが生まれ変わったというこの娘の方が強い。
あれから長い時間が過ぎたというが、その間ずっと眠っていたフフェイルベインの体感としては、あの老王との戦いも記憶に新しい出来事だ。
その時はこんな、認識出来ないような速度の動きはしていなかった。
フフェイルベインにとっては勝てぬ相手ではなく、それを向こうも認識しているが故に配下を大量に使い、様々な策も弄してこちらを封じようとして来たものだが――
目の前のこの娘は違う――別物だ。
あの老王とは違い、悲壮感や使命感を漂わせてこちらと対峙するでは無く、薄ら笑いさえ浮かべて、楽しそうにこちらに向かってくるのだ。
こちらに一切の畏怖を見せない、不遜な態度。そして、この神竜の反応を上回るような速度で動き回って見せる。
こんな事は初めてだった。何とも言えない、薄気味悪さを感じる。
次の瞬間、フフェイルベインの背に霊素弾が着弾していた。
『ごああぁぁぁッ!?』
「よし――!」
すかさず追撃――!
着弾点にイングリスは突進するが、しかし――
それより早く神竜は身を捩じりながら翼を広げ、高く空へと飛び上がる。
本当に巨体の割に柔軟で俊敏な動きだ。
だからこそ――面白い!
イングリスは突進の勢いを落とさず、そのまま進む。
フフェイルベインは飛び上がって逃げたが、まだ生きている霊素弾が地面を貫通して消えて行く前に、蹴り上げて追撃する!
だが――
ブオオオオオオォォォォッ!
着弾点に先回りするように、煌めく凍気の奔流が放射された。
「――!」
そしてそれを受けた霊素弾が、とうとうを力を失い霧散して消えた。
『これで同じ真似はできまい――!』
「やりますね――!」
霊素弾を消し去った竜の吐息は、そのままイングリスの後を追いかけて来る。
まともにこれを浴びては――いくら霊素殻を身に纏っていても無事には済まないだろう。
竜という種族は、その存在そのものが力を持ち、超常的な現象を操る。
その独特な生体的な力。仕組み、理――かつてのイングリス王の時代、竜を研究する者達は竜理力などと呼んでいたが、これは魔素を使った単なる魔術とは、根本的に異なる力だ。
この世界の万物の根源たる霊素を根源としていないのである。
つまりこの世界の法則とは全く独立した、系統の異なる力なのだ。
それをどう解釈するかは、色々な説があった。
例えば、竜は元々この世界とは異なる世界の存在であるとか、竜の造物主はイングリス達が知る神々とは別の存在であるとか、竜は元々神の僕であったが、主人である神を殺し力を奪い、独自の力を身につけたとか――
どれが正しいかはイングリスには分からない。
が――一つ言えるのは、神を殺し力を奪える程に、竜の力は強大だという事だ。
竜理力は力の質として霊素に引けを取らないものなのだ。特に竜の中でも最高峰に位置するこの神竜フフェイルベインのそれは。
イングリスは周囲を走り回って、竜の吐息から身をかわし続ける。極度に圧縮されキラキラと輝きさえ放つ冷気は、地面に触れるとあっという間に巨大な氷塊と化し、障害物と化して行く。
「やはり凄いですね、さすが神竜の力です……!」
周囲を埋め尽くす、宝石のように輝く氷塊。その光景にイングリスは舌を巻く。
これだけの威力をこんなにも長く放出し続けるとは、凄まじい力の量だ。しかもまだまだ、勢いが弱まる気配もない。
イングリスがこれだけの強さの力をこんなにも長く放出し続けていたら、もう既に力が尽きているだろう。
手合わせの結果に直接繋がるわけではないが――力の持久力の面では、こちらは敵わない。持久力にまだまだ課題を抱える身としては、これは素直に認めざるを得ない。
もっともっと訓練が必要だ。この差を埋めるには、訓練の他は無い。
『どうした――!? 逃げ回っているだけかッ!』
「さあ、どうでしょうか……!?」
相手は空、こちらは地上。位置的には、頭上を取ったあちらが優位。
こちらが反撃をするには飛び上がって打撃を加えるか、霊素弾を撃つかになるが――どちらも直線的な攻撃となる。
これだけの間合いが開いていれば、俊敏な神竜はそれに反応し、迎撃又は回避をしてしまうだろう。
特に霊素弾は、残りそう何発も打てない。
そして、打ち上げた後に打撃を加えて軌道変更しようにも、空中では足場が無くそれが満足に出来ない。
力の持久力の差を考えれば、ここは確実に有効打を打ちたい所。
今は逃げ回りながら、機会を待つしかない。そしてそれは、もうすぐだ――
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